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特別企画

2014.07.28 公開 ポスト

香山リカ×湯浅誠対談 国論が二分される時代をどう生きるか

第1回
弱者は「無垢で清らか」でないといけないの?香山リカ/湯浅誠

 精神科医の香山リカさんと社会活動家の湯浅誠さん。香山さんの新刊『弱者はもう救われないのか』(幻冬舎新書)の刊行を記念して、お二人に対談していただきました。香山さんの執筆のきっかけになった、日本社会全体で進む弱者切り捨ての風潮を、湯浅さんはどう見ているのか? 原発や集団的自衛権の問題など、国論を二分する重大な選択を突きつけられる時代を、私たちはどう生きていったらいいのか? いろいろな場面で活動を共にしてきたお二人ならではの、フランクで踏み込んだ対話を、全3回でお届けします。

 

「弱い人に手を差しのべるのは当たり前」でなくなった?

湯浅 『弱者はもう救われないのか』を読みました。ご苦労様でした。本が出るまでにどのぐらい時間がかかったんですか。

香山 企画が決まってから1年ぐらいかな。実際に執筆にかかった時間より、こうでもない、ああでもないと考えていた時間のほうが長かったかもしれません。

湯浅 迷いながら書くと言っているところも、何カ所か出てきますね。

香山 そうです、はい。

湯浅 実際、すごく難しかったでしょ? ご苦労されたんだなと思います。自分だったらどう書くだろうと思いながら読んでいました。そもそもどういう問題意識から、この本を書こうと思ったんですか。

香山 私にとって、人がいわゆる「社会的弱者」を救うのは自明のことで、あらためて理由なんて考えたこともなかった。ところが最近、どうも社会にとって当然の前提ではなくなってきたんじゃないか、と感じさせられる機会が増えてきたんです。
 きっかけのもうひとつは、以前関わっていた「フォーラム神保町」という会で、作家の佐藤優さんの話を聞いたことでした。佐藤さんは、「弱い人を助けるのは人として当たり前であり、それをしなくなったら人じゃない」って言ったんですよね。

湯浅 佐藤さんだったら、ヒューマニズムとキリスト教に関連づけて話したのかな。 


香山 そうです。で、そのとき、「ああ、そうなんだ」と思いつつ、なぜ弱者を救うべきなのか、もうちょっと説得力のある説明はないものか、とも思った。以来、「弱い人を救わなくてはいけない理由を、もし理屈で言うとしたら何なんだろう」ということを、折りに触れモヤモヤと考えるようになりました。
 さらに、これは本でも書いたことなんですが、佐藤さんはその後、ジャーナリストの魚住昭さんとの雑誌『一冊の本』での対談で、「自分はキリスト教徒であって、ヒューマニズムには否定的です」と、キリスト教抜きのヒューマニズムは成り立たないという趣旨のことを言ってるんですね。これは、佐藤さんが神保町フォーラムで言っていた、「困っている人を助けるのは人間だから当たり前」という考え方とは少し違う。
 でも、弱者を救う理由を、「神が見ているから」とか、「最後に審判が下るから」と説明するのは、キリスト教の内部でしか通用しないロジックですよね。

湯浅 そうなのかな。佐藤さんが「最後に審判が下る」と言うのは、ヒューマニズムとか支え合う社会の崩壊とかいうよりは、国家の財政破綻や戦争などのアナロジーとして言ってるっていうことはないんですか?

香山 佐藤さんに何か変節があったのか、それともあまり深く考えての発言ではなかったのか、私もご本人に確かめたわけではないので、よくわからないんですけど。
 その後もモヤモヤしつつ、経済学者の神野直彦さんが雑誌『世界』に書いたものを読んでいたら、今度はこんな趣旨のことが書いてあった。
「結局、市場主義というのは弱肉強食だから、共生の思想とはそもそも矛盾しているものだ。逆に、民主主義というのは、あらゆる人が不幸にならないための一番の方策は何かを考えることを前提としているから、共生の意識が衰退すれば民主主義も衰退する」と。
 つまり市場主義は民主主義と相容れないということですよね。それなら弱い人を救わないということは、ごく単純に言えば、民主主義に反することなのかなと思ったんです。そもそも民主主義というのは、弱者はみんなで救わなきゃいけないものだという前提で、いろいろな取り決めをしていく仕組みになっている。だから私たちが弱者を切り捨ててしまったら、民主主義そのものが無意味になってしまう。
 民主主義を守るために弱い人を助けるというのも変な話だけど、神野さんの文章を読んで気づかされることがありました。なぜ私がこれまで素朴に「弱い人を助けるのは当たり前」と信じていたのかというと、それは私がヒューマニストだからでも、キリスト教に関心があるからでもない。私が、時代的にも北海道の小樽という環境においても、民主主義の申し子みたいな育ち方をしてきたからだ、とわかったんです。
 ……というようなことをずっと考えてきて、今度の本を書きました。
 今年の5月に、麻生太郎さんが参議院の決算委員会で、「俺が納めている税金で、ぐうたらな生活の人の医療を全部賄っているのは公平ではないのではないか、という気が正直しないわけではない」って言ったでしょ? もし麻生さんが総理のときに同じ発言をしていたとしたら、「またとんでもない失言をして。早く辞職しろ」という動きになったと思うんです。でも今回はこれを正論として受けとめた人が多かった。この数年だけでも、社会の雰囲気は明らかに変わっていると思いませんか。

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香山リカ

1960年、札幌市生まれ。東京医科大学卒業。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。豊富な臨床経験を活かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。『ノンママという生き方』(幻冬舎)、『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』『イヌネコにしか心を開けない人たち』『しがみつかない生き方』『世の中の意見が〈私〉と違うとき読む本』『弱者はもう救われないのか』(いずれも幻冬舎新書)など著書多数。

湯浅誠

1969年東京都生まれ。東京大学法学部卒。2008年末の年越し派遣村村長を経て、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。2014年4月法政大学教授に就任。NHK「ハートネットTV」レギュラーコメンテーター、文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」レギュラーコメンテーター、朝日新聞紙面審議委員、日本弁護士連合会市民会議委員なども務める。著書に、『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日新聞出版)、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞した『反貧困』(岩波新書)『岩盤を穿つ』(文藝春秋)、『貧困についてとことん考えてみた』(茂木健一郎と共著、NHK出版)など多数。

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