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ゴルフは名言でうまくなる

2023.03.19 更新 ツイート

第250回

「左手の甲が上向きにならんようスウィングすること」――宮本留吉 岡上貞夫

ウォルター・ヘーゲンに学んだプッシュ・ショットの極意

宮本留吉プロは日本ゴルフ界創世期のプロゴルファーだ。この連載の第175回でも紹介している。留吉がゴルフを始めた当時のお手本は、外国人のアマチュアゴルファーか、とても裕福な一部の日本人アマチュアしかいなかった。

神戸の六甲山頂にイギリスの貿易商アーサー・グルームが日本最初のゴルフ場、神戸ゴルフ倶楽部を開いたのが1901年。そして2年後の1903年10月に、初めてのゴルフ競技が当地で行われた。

 

参加者はすべてイギリス人のアマチュアで、9ホールを2回ラウンドして18ホールのストロークプレーだった。優勝者のスコアは95で、これが当時の技術レベルを物語っている。

留吉は、神戸ゴルフ倶楽部開場の翌年に六甲山のふもと、篠原村で生まれた。小学校高学年のとき、倶楽部でキャディをやったのがゴルフを始めるきっかけだった。ゴルファー宮本留吉は、神戸ゴルフ倶楽部とともに育ったと言っていいだろう。

ゴルフのお手本となったのはアマチュアばかり、それも優勝者でさえ95というスコアだからレベルは高いとはいえない。参考にする技術書もなかったから、見よう見まねの自己流でひたすらボールを打つしかなかったようだ。

大正末に赤星四郎・六郎兄弟がアメリカ留学から帰国し、その時代の最新のゴルフ技術をもたらした。年号が昭和に変わるころ、つまり1925年あたりから、ようやく日本人のゴルフも成長期に入ったと思われる。

そんな折、ウォルター・ヘーゲンとジョー・カークウッドが1930年に来日し、各地でエキジビションマッチを行った。当時茨木カンツリー倶楽部のヘッドプロだった留吉と、駒沢時代の東京ゴルフ倶楽部所属の安田幸吉がその相手役として選ばれた。

赤星六郎にも指導を受けた留吉だったが、ヘーゲンのスウィングを見たことは、最初にして最後の大きなカルチャーショックだったようだ。

そして、留吉がヘーゲンから盗んだスウィングの極意が、表題の名言となった。

「上に挙げたクラブをボールに叩きつけたらしまい、フィニッシュまでクラブをかつぎあげない。プッシュ・ショットというやつや。最後の程ヶ谷CCで、ようやくそのことが見えた」

ライが難しい冬場にスコアを維持するには……

茨木CCへ戻った留吉は、でこぼこのベアグラウンドにボールを撒いてこのプッシュ・ショットを練習した。ボールは丸いので、でこぼこの土の上ではどうしてもへこんだところに止まる。それをうまくミートするには、上から叩くしかない。

アマチュアは、それを上げようとするからすくい打ちになりトップする。上から叩けばよく、フォロースルーも大きく取る必要はないということを、身をもって学び取ったのだ。

「結局、ゴルフは打ったらしまいなの。球を打ったあとは惰性でクラブが上がっていくものでな、上げようとする必要はないんよ」

そのときの手の使い方が、ヘーゲンのスウィングを見て盗み取ったエッセンスだ。

「クラブフェースは絶対に開いたらあかん。シャット・フェースにして、左手の甲を上に向けんように、むしろ下向き加減にテークバックする。ダウンでも左手甲を上に向けんようにおろして、上から叩く、この手の使い方を学ばんと、ボールはうまく打てへん」

こうして、留吉流プッシュ・ショットを完成させた留吉は、のちにアメリカツアーに参戦した際、あのボビー・ジョーンズともエキジビションで対戦し、賭けに勝って球聖から5ドル紙幣をまきあげた。ジョーンズのサインが入ったその5ドル紙幣は、廣野ゴルフ倶楽部のミュージアムにいまも飾られている。

留吉がヘーゲンから盗み、自分のモノにしたプッシュ・ショットは、世界にも通じるスウィングの基本エッセンスであったことが立証された出来事と言っていいだろう。

この話を紹介したのは、いまさらながらではあるが、ライが悪いときでもプッシュ・ショットならうまく打てるということを思い出させてくれたからだ。

私は、芝が薄くライが難しくなる冬場になると、毎年のようにスコアが悪くなり調子を落としてしまっている。これをなんとか克服したいともがいているのだが、留吉のプッシュ・ショットが救世主になるのではないか……と考えたのだ。

近年の私は、グリーンに落ちたらすぐに止まってくれるボールを求めて、高い球筋を打とうとしすぎていたようだ。このため、フェースを開き気味に使って、スウィープするようなスウィングになっていた。

芝が青々としてボールが浮いているライではうまくいっていたが、芝が枯れて寝てしまい、ベアグラウンドに近いライになると、ボールとフェースがうまくコンタクトしなくなるのだ。

そこで初心に帰り、スウィープではなくダウンブロー、留吉流の左手甲の使い方を実践して、球筋を低く抑えてラインを出すスウィングを練習し始めたところである。

留吉の言う通り、「インパクトしたらしまい」「フォロースルーは惰性で上がるだけ」を強く意識して打っている。まだ自分のモノになっていないので、トップ気味に入ったり、少しダフったりもしているが、多少ミスヒットになっても方向性だけは出てくれる。

ライが難しい季節なのだから、多少のミスヒットは仕方ないが、ラインが出ていればグリーンを捉えられなくても、花道など寄せやすいところへは運べる。あとはアプローチとパットで頑張ればスコアは作れそうな感じがしているところだ。

いまこそ取り入れたい「六本木セッティング」

留吉について、もうひとつ紹介したいことがある。それは、彼が優秀なクラブ職人で、いろいろな工夫を施したクラブを自ら作成し、プレーに生かしていたことだ。「トム・ミヤモト」モデルのクラブは、当時のゴルファーの垂涎の的だったようだ。

1940年、当時としては破格の賞金である千円をかけたプロトーナメントが開催された。会場の新川崎GCの6番には202ヤードの長いPar3があった。留吉はこの6番のためだけに、番手の刻印がない薄いウッドヘッドのクラブを作ってこの試合に参戦していたのである。

おそらく5番ウッド(クリーク)ぐらいのスペックだったようだが、先のでこぼこの地面からのプッシュ・ショットを3番ウッド(スプーン)で練習した留吉は、肉厚の薄いウッドヘッドはアイアンよりボールを上げやすいことを知っていたのだ。

この逸話で思い出したのが、女子プロの「六本木セッティング」だ。つまり、難しいロフトの立ったアイアンを抜いて、7番や9番のウッド、もしくはユーティリティを多く入れたクラブセッティングのことである。

ウッドやユーティリティが6本程度入っているので、「六本木」というらしい。以前はドライバー、スプーン、バッフィ、クリークの四本木で、その下は5番アイアン~PW、AW、SW、パターで14本というセッティングが定番だった。

しかし、7番・9番ウッドやユーティリティが開発され、5番・6番のアイアンの代わりにこれらのクラブの中から選択して代替し、アイアンは7番からというセッティングが多くなったのだ。

これも、留吉が考えたように、よりボールを上げやすいクラブで楽にプレーしようという工夫なのだろう。プッシュ・ショットは基本に忠実なダウンブローだから、球筋としては低く出る傾向となるが、7番・9番ウッドやユーティリティならそれでもボールは上がってくれるのだ。

私も、去年は5番アイアンを抜いてユーティリティ(25度ロフト)に替えていたが、今年からは6番アイアンも抜いて28度ロフトのユーティリティを導入した。

年齢が増すにつれ、どうしても筋力の低下などで、キレのいいアイアンショットは難しくなってくるものだ。女子プロでさえも「六本木」なら、高齢ゴルファーも積極的にウッドやユーティリティを導入するべきなのは当然の帰結だろうと思う。

スウィングの基本エッセンスであるダウンブローは大切に守りながら、球筋が低くなるデメリットはやさしいクラブで補う。これで冬場の難ライ対策がうまくいくといいのだが。

 

参考資料:杉山通敬『ゴルフ花伝書』ゴルフダイジェスト新書classic、2008年

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岡上貞夫

1954年生まれ。千葉県在住。ゴルフエスプリ愛好家。フリーライター。鎌ヶ谷カントリークラブ会員。1977年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。大学入学時は学生運動による封鎖でキャンパスに入れず、時間を持て余して体育会ゴルフ部に入部。ゴルフの持つかすかな狂気にハマる。卒業後はサラリーマンになり、ほとんど練習できない月イチゴルファーだったが、レッスン書ではなくゴルフ名言集やゴルフの歴史、エスプリを書いたエッセイなどを好んで読んだことにより、40年以上シングルハンディを維持している。初の著書『ゴルフは名言でうまくなる』(幻冬舎新書)が好評発売中。

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