1. Home
  2. 生き方
  3. あぁ、だから一人はいやなんだ。
  4. 第197回 悪い虫

今でも言うのかな?「悪い虫がつかないように」なんて表現。昭和の女子、いや、昭和の“若い”“かわいこちゃん”はよく言われておりました。要は“悪い虫”=悪い男。私は今までそんな“悪い虫”とはとんとご縁なし。まあ過去の“働かない男”たちは一緒にいて楽しかったので、私の中で“悪い虫”にはカウントしておりません。オホ。それが40代後半になってからでしょうか。よく“悪い虫”がつくようになってしまいました。あ、“男”ではなく、“本当の”虫です。

 

小さい頃は周りの人が蚊に刺されていても私だけ刺されない、みたいな事が多く。「やっぱり私、AB型だからかな」と、根拠があるようで何にもない事を何故か誇らしげに言っていた。調べてみると体温の高い人や汗っかきの人が刺されやすいそう。そう考えると若い時の私は汗っかきではありましたが、平熱は35度台で低め。血圧も40・80とだいぶ低いので、献血行っても血を採ってもらえず、オレンジジュースをもらってスゴスゴ帰ったりしておりました。それがここ5~6年は血圧も70・120と実に教科書みたいな数字をたたき出し、平熱も36.6度。「ほら、私の手、こんなに冷たいんだ」と殿方の頬をそっと触る、そんな女になりたかったけど、手のひらも足の裏もめちゃくちゃ熱い。よく言えば“代謝がいい”ですが、悪く(?)言えば“大人になった”かなぁ。そんなこんなですっかり蚊に刺されるようになった私。下手したら誰も刺されてないのに私だけ、なんて事もある。でも刺してくる蚊はメスで産卵に必要なたんぱく質を摂取する為に血を吸う、と聞いてからは蚊を見る目が変わった。だって同じ女として、出産の為に命がけで血を吸いに来ているなんて、尊敬。ああ、いいよ。血、吸えばいいよ。なんてウソ。そんな風に思えたのは一瞬で、結局痒いのはイヤだからパチンとしちゃう。

そんな私が以前、“悪い虫”にたかられた大事件が。それはフィリピンの無人島で一泊するロケをした際。夜は浜辺で寝る事に。昼間ヤシなどの大きな葉っぱを集めて簡単な屋根を作り、着ていたジャージを砂の上に敷いてゴロリ。途中、頭の上の草むらに何かが通ったり、潮が満ちてきて足元に波がかかったり、と何度か目が覚めましたが、海風と波音が心地よく結構眠れまして。朝起きたら砂地だというのにオカリナがうつ伏せで寝ていた、という恐ろしい出来事はありましたが、なんとか無事に朝を迎えました。元々電波少年で“無人島慣れ”している私はまるでいつもそうして暮らしているかのように海へ行き、海水で顔を洗い、指で歯磨きをした。とにかくお腹が空いていたので、拾ったヤシの実を岩や貝などを使ったり、思いっきり投げたりしてなんとか割ろうと格闘中、オカリナが私に「あさこさん、すごい事になってますよ」と。確かにその野性味溢るる姿は“すごい事”か。「島の住民っぽい?」と笑って答えると「違いますあさこさん! 首のところ、めっちゃくちゃ刺されていますよ!」現地の方に聞くと通称“ニックニック”と言うアブか何からしく、首周りを中心に全身100カ所以上ボッコボコに刺されておりまして。何故かその日は痒みも出ず、余裕のよっちゃんでしたが、翌日から痒みの嵐。「痒(かゆ)死(じ)ぬ~!!」とのたうち回る事、数週間。本当に地獄でした。

その地獄が、再び。先日ロケで台湾の少し自然豊かな所へ。足を使わなくてはいけなかったので、昨年夏に手術した左膝が“治りかけ”状態の為、黒いサポーターを膝にして参戦。ロケが終わってサポーターを取ろうとズボンをめくって左足を出しました。サポーターを脱ぐと左膝下に細かい黒い点々が。「あらやだ。サポーターの毛玉か。そんなに使いこんだか」とその“毛玉”をはらう。すると赤茶色い液体の跡がピーッとついた。「あらやだ。毛玉じゃなくて、何か植物の種か実か」と思って再度はらう。その黒いちっちゃい点は全然取れない。するとその点の一つが、飛んだ。フワーッと、飛んだ。飛んだ? ってことは? ……虫!? ギャー、です。どう見ても虫には見えない。本当にちっちゃい黒い点なんです。パニックになりながらふくらはぎに付いているその黒い点をはらいまくる。そうか、さっきの赤茶色い液体は血だったのか。急いで車に避難。すぐさまネットで検索してみた。

「台湾 黒 虫 小さい」

答えはすぐに出た。その名も“小黒蚊”。“シャオヘイウェン”と読むそうだ。字では“蚊”とありますが、蚊ではなく吸血の虫との事。「これにさされるともう地獄のような痒みと腫れが続く」と書かれていた。地獄? またニックニックの時と一緒か。確かにその日はそんな痒みもなく大したことない感じ満々。ただ翌日にちゃんと地獄はやってきた。赤い発疹が左の膝下にぐるっと1周100個以上。正直自分でも気持ち悪い。そしてそいつらの痒さったら半端ない。一生懸命ガマンをするのですが、あまりに痒い為「もうどうなってもいい!」と搔きむしってしまう。

帰国後すぐ、各国各地で虫に刺される度に駆け込む近所の皮膚科へ。「“今度は”どうされました?」と先生。“台湾”“小黒蚊”と伝える。先生は即行ネットで調べ、さらには“世界の虫と皮膚病”みたいな図鑑も出してきて「なるほど」と。すぐに飲み薬と塗り薬を処方してもらった。おかげさまで1週間ちょっと経って、だいぶおさまってきましたが、まだまだ一日数回、バカみたいに痒くなる。ただネットにはこう書かれていた。この子たちは小さすぎて衣服の上からだと針が届かなくて刺せない、と。しかも高く飛べないのでどうしても低空飛行。でも山の中にいるので人間たちはたいていは長ズボンを履いているから、皮膚が出ているなんて事がない。それが私はサポーターをしていたが為に、それを脱ぐべくズボンをまくり上げた。「皮膚だ!!」きっとこのチャンスを逃すまいと一生懸命“たかった”のだとすると、なんだか許したい気になる。なんて書いている間に薬が切れたのか痒みが襲ってくる。ああ、小黒蚊め。許すまじ!! やっぱり、許すまじ!! くう、痒い!!

 

【本日の乾杯】そんな台湾ロケで食べた胡瓜のピリ辛漬け。こんなの最初に出されたら、飲んじゃうよ。台湾のビール、その名も“台灣啤酒”。もう字が美味しそう。

 

 

 

*   *   *

この連載をまとめた文庫本の第3弾『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』が発売されました!

24時間テレビの裏側や、40代から50代になった時の気持ち、初挑戦したことなど、今回も盛りだくさんの内容となっています! ぜひご覧ください。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

{ この記事をシェアする }

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP