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  4. 第196回 雪

“雪”ってなんでしょう。清いですよね。生まれも育ちもお江戸の私はたまにしか見られない雪にテンションが上がってしまう。東京では交通手段がストップしがちで大変な事も多々なのですが、どうしてもどこかでウキウキしちゃう。

小さい頃、かなり雪が積もった日がありまして。飼っていたビーグル犬のビーがそんな庭を駆け回るのですが、姿は埋もれて見えず。でも動いている所はモグラのように雪がモコモコ盛り上がるので、どこにいるかはわかる。目を凝らすとビーの白いしっぽの先が時々ちょっとだけ見えて、それがあまりにかわいくて悶絶した。

 

更に雪を“素敵”にしたのは映画「私をスキーに連れてって」の登場。もう自分がどうであれ「知世になりたいっ!」ってなりまして。高校の卒業旅行がスキーに決まった途端、知世ちゃんと同じ白いウェアを買いに。ただどこも白は売り切れで、残っていた深緑のウェアを購入。でもね、やっぱり雪パワーってすごい。脳内ではユーミンソングがかかりまくり、“深緑”でもスキー場の自分、ちゃんと“知世”でした。バーン(←映画観た方はわかりますよね?)。

そして先日、グランピングに行った時のこと。実は私、“アンチ”グランピング派。だってグランピングって“高級”じゃないですか。その値段出すならホテルや旅館へ、と思ってしまい。だったら普通にキャンプ行って、シンプルに焚火を見つめながら、時に空を仰いで星を見て、ただ酒を飲む。これだけでいい。ただ昨年膝の手術をしたもので、今年のキャンプは諦めていたんです。私はいつも冬キャンプのみなので、どうしても防寒具などで大荷物だし、片づけもこの膝ではちょいと無理だな、と。それが何故か焚火の良さを熱弁する仕事が続き、すっかり“焚火欲”が抑えきれなくなりまして。で「そうだ、グランピング行こう」となったのです。

行先は河口湖方面。実は以前ロケでお世話になった所で、その景色、テント、食事に至るまで「最高!」と思わず言いたくなるような所なのは確認済み。メンバーは劇団・山田ジャパンの座長・山田能龍、同じく旗揚げメンバーの羽鳥由記と私の3人。ちょうど一日だけ出来たお休みが、二人とも奇跡的にちょうど合いまして。一泊で行く事になりました。

決まってからの私のはしゃぎようったらありゃしない。とにかくいつものように天気予報、見まくり。予約をしたのが2週間前で、週間天気じゃ“その日”は出てこないのに、毎日見ちゃう。そして“寒さ”に莫大な不安を抱えている由記ちゃんが「来てよかった!」という気持ちになってほしく、スーパーに行く度「これなら温まる」と思えるスープ、お茶、葛湯、おしるこなどなど、あらゆるのものを購入。他にもキャンプ用毛布数枚、防寒着類を自分の分プラスもう一人分、湯たんぽなどなど。気づいたらものすごい荷物の量に。“手ぶら”が売りのグランピングに行く人間にはとても見えない。

数日前になって天気予報に突如現れた“雪”の文字。どうやら一泊した翌朝、雪らしい。しかも東京でも結構降るかもと。ただこういう時、普段だと「そうは言ってもねぇ。結局降らなかった、みたいな事多いよねぇ」とか思っちゃって。そんなのダメなのは重々承知ですが、今まで何度もこういう事があったから、つい。悪いくせです。でもね、今回はなんかちょっと引っかかるものがあって。当日朝、どこかサービスエリアとかでチェーン売ってないか調べてみると1か所発見。電話して確認すると私の車のサイズ用のチェーンはあるとの事。行きがけにそこに寄ってチェーンを、キャンプ場近くのコンビニでお酒を買い、いざグランピング場へ。

結論から言うとグランピング、最高でした。予報では15時くらいから曇りだったのですが、私たちが着いた16時頃でもまだまだ晴れていて、雄大な富士山が真っ赤な夕日に照らされて目の前にドンといた。まずはもちろん焚火の準備。2台も大きな焚火台があって、薪も山積み。どんどん火を作る。ああ、これだ。このパチパチ音だ。なんて幸せなんだろう。地元の野菜やお肉たちをゆっくりのペースで焼きながら、いろんな話をしたり、時に黙ってそれぞれ焚火を見たり、飲んだり。結局、消灯時間の22時まで晴れていて、星も美しく。豊かな時間。とても、いい夜。来てよかった。

そして朝。こちらは天気予報、ばっちり当たり。6時前から降り出した雪。焚火に雪が入る度、チリチリ、と聞いた事のない音が聞こえてくる。それはあまりに美しく、ああ、感動! なんて言ってる場合ではありません。東京とは違ってサラサラした雪がどんどん積もっていく。他の泊まっていた皆さんも朝食のホットサンドとスープをせわしなく食し、次々に帰ってゆく。こちとらもチェーンはあるけれど、素人ですから。“ゆっくりな朝”はまたいつか、という事で早々にグランピング場を出た。でもホントにあっという間でどんどん積もる。その後、高速が閉鎖になったり、そこから誘導された道がガードレールの無い、狭い下りの山道でなかなかヤバかったり。その度、能龍さん、由記ちゃんが、ドライバーあさこを励まし、落ち着かせてくれた。道すがら動けなくなっている車も多かった。脱輪してJAFを雪の中、立って待っているトラックの運転手さんに何も出来ないけれど声だけかけに行ったり。上り坂の途中で停まってしまった車を他の車の人も協力してみんなで押し上げたり。その際、押している一人のおじさんが「次は自分の車かもしれないんだから」と恐縮するドライバーさんに気を使わないよう促したり。あと車同士すれ違う時、100%どちらかが停まり、お互いちゃんとお礼をしてすれ違っていた。これは雪道に限らず、本当は当たり前であってほしいけれど、普段は結構無視してスーッと行っちゃう人が多いので、なんか「素敵やん」って思った。

道中いっぱいの“優しさ”を感じながら、とにかくゆっくり安全に。八王子まで高速のチェーン規制もあって、実に6時間以上かけて戻ってまいりました。実はチェーンの装着を購入時教えていただいていたのですが、雪の中と言うのもあってうまく出来ず。ビチョビチョの地べたに座ったり、寝転がりながら着けたものでお尻、ずぶ濡れ。家に着いて車から降りると能龍さんが大笑い。どうやら体温で温まったらしく、濡れた尻から湯気が出ている、と。どっからどう見てもおもらしじゃん。そんな私をあの時見かけたご近所の皆さん。あれ、おもらしじゃないですからね。雪で濡れただけですからね。ひとつよろしくです。

 

【本日の乾杯】先日、アメリカでのロケ終わり。空港で飛行機待つ間に入ったお店でビールを1杯。そのツマミが“インゲンのガーリック炒め”。シンプルだけど、ロケが終わった解放感も相まって激ウマよ。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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