お釈迦さまの教えを日々実践している禅僧で、東京都台東区にある臨済宗国泰寺派全生庵の住職をつとめる平井正修さん。新刊『悩むことは生きること 大人のための仏教塾』も好評な平井さんは、修行をするのは「赤ん坊に返るため」だと語ります。どうすれば心穏やかに毎日を過ごすことができるのか? どうすれば悩むことの苦しみから脱することができるのか? そのヒントをうかがいました。
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「生老病死」は人類共通の悩み
── 本書のあらすじに、「あなたの抱える悩みや苦しみに、2500年も前から向き合い、救いと解決の手立てを差し伸べてきたのが仏教」とあります。そもそも仏教というのは、悩んでいる人のために生まれた教えなのでしょうか?
人のためというよりは、もともとは仏教の始祖であるお釈迦さまが、自分自身の悩みを解決したいと思われたところから始まっています。悩みというのは、いわゆる「生老病死」のこと。すなわち、生きること、老いること、病気になること、死ぬことです。
でも、「生老病死」は、結局のところみんなの悩みでもあるんですね。そもそもこの世に、自分から望んで生まれてきた人は一人もいません。どうして自分は生きているのか、どうやって死んでいくのかといった悩みは、国とか時代とか関係なく、根本的な人間の悩みです。
── そうした根本的な悩みに、答えは出ているのですか?
明確な答えを出すのは、なかなか難しいですね。どうすれば悩むことの苦しみから脱することができるのか、心穏やかに毎日を過ごすことができるのか、ということを考えてきたのが仏教なんです。この本の題名でもお伝えしているように、悩むことじたいが生きることなのだと思います。
もっと言うと、たいていの人間の場合、悩みは自分の心がつくり出しています。同じものを見て、悲しいと感じる人もいれば、楽しいと感じる人もいますよね。ほしいと思う人もいれば、こんなものいらないと思う人もいる。すべては自分の心の問題なんです。
ところがわれわれは、外側に自分を悩ますものがあって、だから自分は悩んでいると思ってしまう。本当は、悩んでいるのは自分の心なんです。何から何まで自分の心の問題だということに気づかせるのが、ある意味、仏教の修行の意味といえるでしょう。
── 平井さんは「修行を積めば積むほどわからないことが増えてくる」と本書でおっしゃっていますね。では、なんのために修行をするのでしょう?
赤ん坊に返るため、ですかね。禅の世界では「捨てろ」とか、ちょっと誤解されそうですけど、坐禅をして「死にきってこい」といったことを言うんですね。それはまさに「赤ん坊に返れ」ということです。
われわれ大人は、たとえば人と会うときも、相手の肩書きだったり、お金を持っているかどうかだったり、容姿だったり、いろんなことに惑わされがちです。でも、子どもたちはそんなことは関係ないですから。学ぶところは多いですね。
── 平井さんが、仏教の修行をしてきてよかったと思うのはどんなときですか?
「ありのままでいいんだ」というところに落ち着けることですかね。ありのままというのはつまり、毎日、毎日悩んでいるけれども、それでいいんだと思えるということです。
自然を感じて「ありのまま」に落ち着く
── 坐禅や写経というのは、仏教の知識が浅い人がやっても意味のあることなのでしょうか?
仏教には「八万四千の法門」といって、膨大な量の教えがあります。でも、そのすべてをそらんじても、悟れるわけではない。知識の量とは一切、関係ありません。
むしろ、坐禅や写経は、考えることから離れることに意味があります。考えれば考えるほど、悩みというのは深くなるものです。ですから、ときには考えることをやめてみる。その修行が坐禅であり、写経なんです。
── 本書にも、「考えるだけでなく、自分で感じることも大切」とありますね。
もちろん、自分の頭で考えることは大切です。とくに現代の人間は、すぐになんでもインターネットで調べがちです。調べて出てくることは、あくまで他人の意見であり、知識であり、経験でしかありません。
それを、さも自分が考えたことのような気になってしまう。参考として調べてみるのはかまいませんが、最終的には自分の頭で考えることが重要です。
考えて、考えて、それでもわからなかったら、いったん考えるのをやめて、外に出てみる。そして太陽の光を感じたり、木々の色を感じたりしてみる。「感じる」という世界からやり直してみると、「なんだ、こんなくだらないことで悩んでいたのか」と気づくものです。
花は咲けば散りますし、散った花はもとには戻りません。水は高いところから低いところへ流れていきます。それが当たり前です。誰もがわかっていることですが、こと自分のことになると、散ったものをもとに戻したくなるし、低いところから高いところへ水を流したくなる。
自然を感じていると、もっとありのままでいいじゃないかと思えてきます。そして、目の前の悩みが「なんだ、こんなことは当たり前じゃないか」と思えてきます。解決したわけではありませんが、そんな境地に落ち着くことができるんです。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】平井正修と語る「『悩むことは生きること 大人のための仏教塾』から学ぶ悩みを軽くする考え方」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
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番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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