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もうレシピ本はいらない

2023.02.18 公開 ツイート

台所が調味料地獄になってない?ここまで減らせる!究極の味付けテク 稲垣えみ子

アフロヘアがトレードマークの稲垣えみ子さんが驚きの食生活を公開し、第5回料理レシピ本大賞料理部門エッセイ賞を受賞した『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』が文庫になりました。50歳で不安を抱えたまま会社を辞めた稲垣さんの人生を救ったものは何だったのか? 本書から一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

「A印」の憂鬱

料理ってものを始めたのは中学時代です。きっかけは父の単身赴任。母が定期的に父の元へ通わねばならなかったので、その間の食事は私と姉が交互に作ることになったのでした。

必要に迫られてのことではありましたが、母が購読していた婦人雑誌から切り抜いたレシピを一生懸命見ながらピーマンの肉詰めやらサケのムニエルやらをこしらえるのは決して嫌いじゃなかった。完成品の美味しそうな写真を見て味に想像を巡らせ、さらに実際にそれを食べることができるなんて、食い意地の張った人間にとってはまあある種の魔法みたいなもんです。そう今にして思えばあれが夢の始まりだった。

 

中でも感心したのは、多くのレシピにつきものの「A印」という調味料の組み合わせでした。

 

たとえば、ある丼物の上からかけるタレは……。

(A)だし汁大さじ2、醬油大さじ1、砂糖小さじ2、みりん小さじ1

 

いやいやなんだか化学の実験みたい!

しかしその指示通りにキッチリと測って味付けをすると、確かに間違いなく美味しいのです。味がピタリと決まる。で、いつも作るたびに、こんな複雑な組み合わせを考えつく人ってどんだけ天才なんだろう? と思っていた。

だって、組み合わせる調味料の種類と量を考えたら可能性は無限大です。で、その無限大の中から「コレ」っていう着地点を見つけ出すまでにはどれほどの試行錯誤と経験と想像力と天性のカンが必要なことか。

だからこそ、その「天才」の知恵をちゃっかり我が食卓に取り入れさせていただこうと、新しいレシピ本が出るたびにチェックせずにはいられないのでした。

 

……ところがですね、次第に私、この「A印」がなんだか重荷になってきたのです。

ぬか漬けキュウリとミニトマトとバジルの冷や汁

私が子供の頃は、調味料の数はごくごく限られていました。いわゆるさしすせそ、すなわち砂糖、塩、酢、醬油、味噌が基本です。そのくらいなら、それほどの手間もなく調味料を量って入れることができました。

 

ところが世の中が豊かになるにつれて、調味料の種類はもうどんどんすごいことになってきた。辛いものだけでも豆板醬やらコチュジャンやらかんずりやら柚子胡椒やらマスタードやら練りカラシやら、油にしてもサラダ油キャノーラ油オリーブ油ゴマ油エゴマ油ココナッツ油……酢にしても米酢黒酢ワインビネガーバルサミコ酢……A印の行列はもうどんどんどんどん長くなる一方です。レシピ通りに作ろうと思うと、我が家の調味料庫の瓶の数はどんどん収拾がつかなくなってきて、何を取り出すにも一筋縄ではいかなくなってきた。

もうこれは、調子に乗って買ったものの着ない洋服が溢れかえっている我が家のクロゼットと同じではないか。林立する瓶をかき分けてお目当ての調味料をガチャガチャと取り出して、蓋を開け、ちまちまと大さじ小さじに入れて測る。しかしそんなにしょっちゅう使うわけじゃないから何年も前に買った調味料が化石のごとく延々と蓄積していく。そしてますます調味料入れはごった返し、だから毎回のように発掘調査が際限なく繰り返される。その手間は、看過できないほどイラッとするものになってきた。

 

そして、問題は手間だけのことではなかったのです。

ここまで味付けが複雑になると、レシピを見ても出来上がりがどんな味になるのやら全く想像がつかなくなってきました。それはワクワクすることでもあるけれど、一方で、自分で料理をしているというよりも、なんだか指示に従って「させられている」ような感じがしてきたのです。

だからレシピ本がないと料理が作れなかったんだ

そして、際限なく増え続けるレシピ本の数。

 

だって本屋さんへ行くたびに、レシピ本コーナーには「わあ」と食いつきたくなる新刊がずらりと並んでいる。簡単で美味しい調理、健康にこだわった料理、気の利いた酒の肴……ああどれもこれも食べてみたい! しかしそのうち我が家のレシピ本コーナーは何がどこにあるのやらわからなくなってきて、挙げ句の果てには昔作った料理をもう一度作ろうと思っても、もはやそのレシピがどの本に載っていたんだかが思い出せないありさま……。

これじゃあ何のためのレシピ本なんだか全くもって意味不明じゃないの!

 

しかしね、それでも私はレシピ本を買うのをやめることはできないのでした。

 

だって、レシピ本がなかったらどうやって料理したらいいのか全然わからないんだもん。それほど凝った料理じゃなくても、例えば炒めものとか煮物とか単純な料理ですら、何も見ないで作るとなるとたちまち足がすくんでしまう。

それはなぜなのか。

つまりは、本を見なければ、どうやって味付けをしたらいいのかが皆目わからなかったからです。

まさか、いろんな料理ごとにあの複雑な「A印」を覚えておくなんて絶対出来ません。かといって、自らあのような調味料の組み合わせを考え出すことなど絶対に不可能です。

(写真:iStock.com/rustycanuck)

言い換えると、レシピ本がないと料理が作れないのは、あのA印のせいだったんじゃないだろうか。

そして「塩味グループ」が残った

そうなんです。だからこの問題は、新たな食生活を始めたことでまさに「瞬時」に解決したのでした。

だって基本食はメシ、汁、漬物となれば、どれも味付けはワンパターン。っていうか、味付けといえば味噌汁に味噌を入れるだけなんですから。以上。頭を悩ます余地などどこにもありません。

 

なので私、生まれて初めて「調味料を処分する」という作業に着手することになりました。

さて、何をどう処分する?

 

まずは香辛料。これはA印に入っていたから買ってみたものが山ほどあったが、よく考えると10年前のものも……。ということは要するにめったに使わない、つまりはいらないということだよね。みりんは晩酌で飲む酒で代用できる。

会社を辞めて小さな家に引っ越したということも大きかった。台所が狭すぎて調味料を入れる場所そのものがほとんどないのです。というわけで、究極まで絞り込みを続け、最後に残ったのが、冒頭の「塩・醬油・味噌」でありました。

 

で、我ながら驚いたことに、どんな料理をするのも、この3つで全然十分だったんです!

*   *   *

続きは幻冬舎文庫『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』をご覧ください。

稲垣えみ子『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』

アフロえみ子が、冷蔵庫なし・カセットコンロ1台で作るのは「一汁一菜」のワンパターンご飯。調理時間は10分、一食200円。旬の野菜さえあればアレンジは無限で、全く飽きない。それに何より最高にうまい!「今日のご飯何にしよう」の悩みから解放され、「自分が本当に食べたいものを食べる自由」を取り戻して幸せになる、驚きの食生活を大公開。

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もうレシピ本はいらない

「一汁一菜」のワンパターンご飯。これが最高にうまいんだ!

冷蔵庫なし・ガスコンロ1口で作るアフロえみ子のご飯は、調理時間10分、一食200円。「今日何食べよう」の悩みから解放される驚きの食生活を公開。

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稲垣えみ子

1965年、愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒業。朝日新聞社入社。大阪本社社会部、「週刊朝日」編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめ、アフロヘアの写真入り連載コラムや「報道ステーション」出演で注目を集めたが、2016年1月退社。その後の清貧生活を追った「情熱大陸」などのテレビ出演で一躍時の人となる。著書に『アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと。』『魂の退社』などがある。

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