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2022.11.26 公開 ポスト

「趣味は映画製作」「特技は芝居」異色の刑事をめぐる物語のA面とB面【榎本憲男×東紗友美 前編】榎本憲男

映画製作と女優業を趣味とする異色の刑事・刈谷杏奈の活躍を描く、榎本憲男さんの『アクション 捜査一課 刈谷杏奈の事件簿』が刊行した。榎本さんは映画プロデューサー、映画監督としての経歴も持ち、本作にはその頃の経験がふんだんに盛り込まれている。以前から親交のある映画ソムリエの東紗友美さんとの映画×小説対談が実現した。

*   *   *

 『アクション』とっても面白かったです!

榎本 ありがとうございます。

 どういうふうに面白かったか、まず私のほうから語っていいですか。

榎本 もちろん。むしろそのほうがありがたいので(笑)

 まず、この小説の面白さをA面とB面に分けたいんですよね。

榎本 レコードみたいに?

 そうです。まず、A面は普通の面白さと言うか、警察小説としての面白さですね。始まってすぐに死体が発見されて、捜査が始まる。謎が深まり、その謎が期待を裏切るような形で解明され、真実が浮かび上がるっていう……。

榎本 いや、それ基本ですから(笑)。そこができてないと編集者に怒られちゃいますよ。

 でも、私はそんなに警察小説を読んでいるわけじゃないんですけど、意外な真実の中でも意外だったんでびっくりしました。私が知っているタイプの意外な真実じゃなかったって言うか。迷路を辿っていったらこんなところに出ちゃったって感じで。そこで見る風景がすごく壮大なので、びっくりしたと共に快感がありました。

榎本 ええ、なるべくそういう風に書きたいなと思っているので、そういう褒められ方は嬉しいですね。今日はいい日だ(笑)

 榎本さんは警察小説の基本だって仰ったけど、私にとってはあんまりそういうスタンダードな作品には思えなかった。独特の味わいがありました。

榎本 まあ、変な作家(北上次郎氏の書評より、褒め言葉として使われています:編集部注)とか言われてるので、そうかもしれません。

 ストーリーというか、それがA面で、それがとても楽しめたということをまず言いたかったんです。じゃあ、B面にいっていいですか。

榎本 なるほど、A面はクライムノベルのプロットについてなんですね。

 B面はキャラクターについてです。私は映画を鑑賞する時でもキャラクターに注目するタイプなので。

榎本 いやいや、誰だってキャラクターには注目しますね。キャラクターはストーリーのキモなので。だから、映画ではキャスティングが命だってよく言われるでしょう。

 そうですよね。で、このヒロインの刈谷杏奈は、刑事でなおかつインディペンデントの映画シーンで女優をやり監督もしているってぶっとんだ設定になっているじゃないですか。こんな設定で本当になんとかなるの? と思って読んでいたらみるみるうちに引き込まれて、最後はこの設定がビシッとキマる。これが凄くよかったなあ。どうしてこんな設定にしたんですか?

榎本 いやあ。そう言われて思い出すと、あんまり立派な理由はないんですね。ひとつは自分が映画業界で長く働いていたし、小さな映画も撮ったことがあるので、自分がよく知っているジャンルに引きつけておくほうが書きやすいという、自己都合がまずあったんです。これがA面(笑)

 へえ、A面はあんまり前向きじゃないんですね(笑)

榎本 それを言われると、B面はもっと後ろ向きなので話しにくいな……。幻冬舎さんから、うちでもなにか出しませんかと言ってもらったんで、ある企画を出したんですが、これはものの見事に却下され、編集者に「まずは警察小説を書いて下さいよ」と説得されたんです。それで、「じゃあ、女優で刑事なんてのはどうですか」と若干不貞腐れ気味に言ったら、「いいですね、それでいきましょう」と意外にも乗ってきちゃったのでやばいと思いつつ、まあ、企画が通らないってこともあるだろうからって思ってたら、これは強引に通しちゃったみたいで、なんとか絞り出したって感じです。

 なんとか絞り出せるもんなんですか。

榎本 まあ、もがいてるうちにできてくるんですよね、自分でもちょっと不思議な気もしますが。

 キャラの話に戻りますけど。警察って職業はなんとなく職務をまっとうするじゃないですか。

榎本 ん? どういうことかな。

 キャラの色つけとしてその人に趣味があってもいいんですけど、ただ警察っていう職業には、あまり疑問は持ってないようなキャラが多い気がするんです。

榎本 そうかもしれませんね。警察は社会の悪を取り締まる仕事なので、なかったら困る。存在意義が明確なので、小説家とはちがいます。だから警察官は自分が警察官であることに対してあまり疑問を持っていないキャラが多い気がします。

 でも、刈谷杏奈にとっての映画って趣味というにはあまりにも大きくて、彼女の警察の領域、これは本来ならば不可侵のはずなんですが、そこにまで食い込んできているような気がするんです。

榎本 ああ、なるほど。

 刑事というのが本当に自分のなりたかったものなのかということについて、彼女には疑問があるわけですよね。本来ならば社会的な使命を強く自覚するべきキャラクターじゃないですか刑事って。

榎本 最近は、100%そうとは限らなくなっているとは思うけど、刑事キャラクター造形の基本かも知れませんね。

 と同時に、女優として、あるいは監督としても絶対の自分を確立してるわけでもないじゃないですか。どちらも道半ばって感じの存在ですよね。

榎本 おっしゃる通りです。中途半端って言えば中途半端なんです。彼女なりに一生懸命やってるんですけど

 そこがいいと思うんですよ。

榎本 いいんだ(笑)

 ええ、そういう迷いがね、よくわかると言うか。私も映画ソムリエを名乗っていますけど、これからどういう風にやっていこうかなとか、ときどき考えちゃったりしますから。

榎本 ああ、でも考えてみれば僕もそうかな。映画会社をやめて、自主映画みたいなの撮って、そして今は小説を書いているという。どれも一生懸命やってきたつもりですが、彼女と一緒でもっと頑張らなきゃいけないという自覚もあるので似てますね。

 でしょう(笑)。で、ここで映画ソムリエとして言わせてもらえば、『アクション捜査一課 刈谷杏奈の事件簿』は警察小説として面白いとと同時に、いまだ彷徨っている自分を自覚している人たち、私も含めてなんですが、そんな人にお薦めです!

(後編につづく)

関連書籍

榎本憲男『アクション 捜査一課 刈谷杏奈の事件簿』

山奥で女装した男の首吊り死体が見つかった。趣味で映画製作と女優業に励み一課で浮き気味の刈谷杏奈は、田舎署で燻る内藤と捜査を命じられる。上層部が自殺に拘泥する中、はぶられコンビは、問題発言で炎上中の女性議員と男の繋がりを入手。男は何者なのか?真実を求めて、杏奈は議員を罠に嵌める大芝居を始める。愚直な女刑事の推理劇、開幕!

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趣味は映画撮影。特技は芝居。警察小説界にニューヒロイン誕生!文庫『アクション 捜査一課 刈谷杏奈の事件簿』の情報をお届けします。

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榎本憲男

一九五九年和歌山県生まれ。大学卒業後、西武セゾングループの文化事業部に勤務。その後東京テアトルにて映画事業に携わる。劇場支配人、番組編成担当、プロデューサー等を務め、退社。二〇一一年、監督デビュー作「見えないほどの遠くの空を」の公開と同時に、同作の小説を発表。一六年『エアー2・0』が大藪春彦賞候補となる。他の著書に「巡査長真行寺弘道」「DASPA吉良大介」シリーズなどがある。

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