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フィンランドで暮らしてみた

2022.07.22 更新 ツイート

フィンランドの夏休みは「しれっと」「堂々と」とるもの 芹澤桂

夏だ。夏休みだ。フィンランドの夏休みはやたらと長いなと知ってはいたけれど、いざ自分が休みをとる同僚にもとられる立場となると、長さだけでなく徹底した準備に脱帽してしまった。

まず、今までも再三書いてきたけれど、夏休みは平均で4週間ある。とはいえ就業初年度はタイミングによってそんなにもらえなかったり、シフト制の仕事の場合は細切れにとったりするからみんながまるっと一か月いなくなるわけではないけれど、4週間というのが一般的だ。羨ましいって思ったでしょ。 本当に?

 

恐ろしいのはここから。小学校の夏休みは5月下旬から8月上旬までの2か月と1~2週間ほどある。つまり、両親のどちらも4週間夏休みをとれる職種、環境であったとしてもシフト制で取らなければならず、なおかつそれでも足りないのだ。なので子供が小さいうちは祖父母や親戚を動員したり、学童的なものに通わせたり、ボーイスカウトのような泊りがけイベントに子供を送り込んだりとやりくりが必須になってくる。両親そろって休みがとれないというのも悲しい。

しかしそれでも休みはやってくる。

みんなしれっと休みをとる

休みに入る前だが、日本だと何かと根回しが必要だった。何週間も休むとなると社内外への周知をし、何かあったときのための引継ぎ資料を用意して、極めつけは丁寧なメール。

「●日から●日までお休みをいただいております。ご迷惑をおかけいたしますが、何かあった際は下記へ連絡ください」

などと休み中に連絡が取れる番号まで教えちゃう。

しかしフィンランドの準備とは何か。まず周知なんてしない。ミーティングの予定を立てるときなどに話題に出ればしれっと「あ、その日は休みです」などと言うだけにとどめるか、こっそり共有カレンダーに書き込む程度のものである。いいようにとると騒ぎはしない、休み自慢をしないといったところか。だってみんな休むんだから、周りの反応だって「あっそ」なものである。

そしてメールも自動返信機能を活用し、送ってきた人にだけ、

「●日から●日まで休みです。その間メールは見ません」

とそっけないことこの上ないメッセージを流すのである。

この「休み中にメールは見ません」宣言、怖いぐらいに氾濫していて、自動返信メールの半数ほどにこの一文が入っている。ぶっきらぼうすぎて受け取ってしまうとこっちが「あ、すみませんでした……」と小さくなってしまうのだけれど効果は絶大である。そこまで言い切られると、知らずにメールを送ってしまっただけにも関わらず、そういえばそんな致命的に急ぎの用事でもないしな、と思い直すきっかけにもなる。

正直、大丈夫ではない

それではそんなに長い休みを取って大丈夫なのかというと、大丈夫ではない。いや、正確には大丈夫ではあるが、物事は何も進まない。相手がお客さんであれ、パートナー会社であれ、フィンランド(および北欧)の企業に勤めていれば休暇真っ盛りの7月は打合せができなくてもしょうがないし、請求書を送って支払われなくても仕方ないし、大事な決断はできないのが普通なのである。そして海外事業に従事している身としては「こんな事情なのですみません」と謝り倒すのも仕事である。

ちなみに休みに入るのはサービス業も同じで、観光地にあるレストランでも平気で7月は休んだりする。7月のフィンランドと言えば暑すぎず最高気温はせいぜい25度、晴れも多く、今がかきいれ時なのに! と移住当初はその商魂のなさに歯がゆく思ったものだが、まあサービス業につく方々もそんな貴重ないい時期に働きたくもないのだろうと今ならわかる。

また、7月は首都ヘルシンキから人がいなくなるとも言われているからレストランだって閉めてもいいのだろう。実はこれまで何年も、その「人がいなくなる」実感がわいていなかったけれど、自分だけ7月に働いてみれば見事に誰にも連絡が付かないし、働き盛り世代かつオフィスワーク層の多い集合住宅に越してきてみれば本当に駐車場が空になってみんなサマーコテージやら海外旅行やら行っているようである。今日もたまたまパートナー会社の一人と電話で打合せして、言われた最初の一言が「君がここ数日仕事で会話した初めての人だ」と驚きと自嘲に満ちたものだった。実は私もまったく同じで、それまで森の中の静かな湖の上を一人ボートで漕ぎ出ているような感覚を楽しみながら個人作業に没頭していた。それもまた夏の醍醐味である。

「あなたの権利」は「みんなの権利」

ちなみに我が家の夏休みはコンパクトに2週間だけ取ることにして、残りの2週間は秋に回すことにした。過ごし方も家族でのキャンプのみで特に飛行機や宿の予約もいらないのでいつにするかのんびりしていたら、私より少し大きな企業に勤める夫の会社では同じ部署内でみんなが一斉にとらないように休みのシフトを組まねばならず、当初希望していた週に取れなくなってしまった。更に休み直前に夫の同僚の一人が疾病休暇でいなくなってしまい穴ができたため、急遽一週間遅らせて取ることにし、私の休みもそれに合わせて調整し、と少しばたばたしていた。当たり前だけどみんなが希望の日に取れるというわけでもないのである。

しかし私が上司に4月か5月の段階で夏季休暇のスケジュールを打診した際、「この日程で本当に大丈夫でしょうか」と恐る恐る聞く私に上司は「休みを取るのは君の権利だよ」ときっぱりと言い切ったものだった。この「あなたの権利」は上司・部下間でも、同僚間でも、友人間でもよく使われる言葉である。みんなで敢えてはっきり口にして、みんなで労働者の権利を守ろうという確固たる意志を感じる。

さて、次回は更に休みの直前の様子や、休暇手当なるものに触れようと思う。

(車でフェリーに乗ってキャンプへ})
(キャンプ場のひとつ。野生のベリーが食べ放題)
(城や遺跡もたくさん巡ってきました)

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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