
誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽をモチーフに、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに言葉を綴っていただきます。
あの歌に憧れた日々から、颯爽と時代は変わった
歌が導いた未来へと、確実に辿り着いた数十年後の現在
あの歌の中にはパラノイアなんて一つもなかった
ただ夢と理想だけが描かれていた
輝く予言の書、時空を越えて、確かな愛を手繰り寄せて
人生で何度目の初夏、かつては目にも暮れなかった太陽の熱、そして光
富ヶ谷の交差点、歩道橋の上、魔法陣を巡るように軽やかなステップで、世界を嗜める
この光の味は甘く滑らかで、生まれたままの姿で纏うシルクのように、柔肌を慈しむ
一度で名前を憶えられたのは、君の名前だけ、たった一つだけのこと
僕の身体中に書き記した溢れる愛の結晶、スロウモーションのくちづけの後は
一生この世界から消えない誓いを、月と海に向かってゆっくりと交わした
裏道ばかりを探して歩いて帰った日々、人目を避けて下を向いて、あらゆるすべてに背を向けて
過去のゴーストに囚われて、未来も希望も他人事のように感じていた
長く辛い牢獄暮らしのような日々、終わらない修行の果てで
それなりの小さな幸福を見つけようと努力するのが身分相応みたいな、同調圧力の首輪をつけられて
息苦しくて、薄ぼんやりとしか目をあけられなかった
あの日からは全くの別の人生
山手通りの歩道の真ん中で、君と抱き合って、くちづけて、手を繋ぐ
君には僕、僕には君しか見えない
他には何もいらない
周囲は単なる景色にしか過ぎない
暇潰しのパーティは終わった、生贄にもヒロインにもならない
人生の主人公になる
パリで、ロンドンで、イビサ島で、台北で、思い出のニューヨークで、陽の当たる大通りを
君とずっと歩いてゆく
命果てるまで、世界が終わるまで
先のことなんて、どうでもいい
時代は変わらないかもしれないけど、私たちは変わった
世界経済とか、未来への不安とか
パラノイアは昨日のゴミ箱に、丸ごと全部捨ててきた
端っこじゃなく、真ん中の道、大手を振って、僕と君はこれからも一生
陽の当たる大通りを歩いてゆく、時には踊ったりしながらね
PIZZICATO FIVE『THE BAND OF 20TH CENTURY: Nippon Columbia Years 1991-2001』(2019年、日本コロムビア)収録
渋谷で君を待つ間に

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。
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