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フィンランドで暮らしてみた

2021.11.26 更新 ツイート

空き地で楽園の裏側をのぞき見たとしても 芹澤桂

モルディブ内で拠点とする島と宿を移したその2軒目の宿は近代的なホテルだった。決して巨大ではないけれど一階に朝食を取れるレストランとロビー、小さなお土産物屋があり、屋上にはルーフトッププールとジムもある。2階建てより高い建物のない島から来ると一気に現代へ戻ってきたみたいな気分になった。

 

屋上のプールは、インフィニティプールで海と一体化して見え、さらに沖に目を凝らせばたまにイルカが遊んでいるのが見えるという天然水族館並みの楽しさに反していつも空いていた。11月の終わり、オフシーズンでホテル全体が空いていたのと、こんな時期にわざわざここに泊まるのは私たち同様寒い場所から来た人々、つまりビーチや砂浜に強い憧れを抱いた人種で外海へと泳ぎに行くのだろう。おかげでプールはいつも貸し切りで使わせてもらい、たまに他の宿泊客に遭遇すると「うわ、人間だ」と驚くような状況だった。

記憶にないモルディブ

モルディブでの宿泊も5泊目だったので、朝食をゆっくり取りビーチに行き、お昼をやはり島のローカルな食堂で取ったら散策をしてそれからプール、というのんびりルーチンもすっかり出来上がっていた。そのせいかこの島の強い印象があまりない。

そこで夫に、あの島なにかあったっけ? と聞いてみたところ、入学したての小学一年生みたいにたいへん元気のよい返事が返ってきた。

「コカ・コーラ工場!」

そうだった。島の中央にコカ・コーラの工場があり、申し込めば誰でも見学をできるとのことで、夫は一人で出向いたのだった。中は騒音がすると聞いたので私は赤子と遠慮したのだけれど、静かだったとしても工場に自主的に行ったかどうかは怪しい。日本になら工場見学はいくらでもあるし、コーラよりもいいけれどもっと美味しくて楽しい工夫がされた大人の社会科見学も充実している。

しかしフィンランド人は違う。あの世界的なコカ・コーラがここに! その裏側を見られるなんて! と、うちの夫は喜び勇んで出かけていった。1時間にも満たない見学から帰ってきた夫は満足そうだったので、きっと楽しかったのだろう。そういえばこの島は夕方になるとほぼ毎日暗い雲に覆われて夕立が来たのだけれどそれにさえも夫ははしゃいでスペイン同様窓に貼り付いていたから、出身国変わればときめき対象さえも変わるのだなと感心した次第だ。

ゴミが集まる楽園

その夫の工場見学の間、私は抱っこ紐に入れた赤子を連れて小さな島をぶらぶらしていた。地図で見るとホテルや住宅のあるエリアは島の東半分のみ、西半分はなにもない。通りもなにもだ。ヘルシンキの我が家の近所にも似たような、グーグルマップ上にでさえなにも描かれていない空間があり、実際に行ってみるとそこはブルーベリーの宝庫だったりするのだけれどここはモルディブ。砂漠でも広がっているのだろうか、とのぞいてみることにしたのだ。

案の定そこは、だだっ広い、灰色の砂が広がった空き地だった。ところどころに緑の芝のようなものが生えているものの、土壌の問題か何かでなにも建てられないのだろう。そして一角には前回の島と同様、ゴミが集められていた。集積場と呼ぶにはあまりにも無秩序で、砂の上にただゴミがうず高く、2階建の建物ぐらいの高さに山となっている。遠くに錆びたショベルカーやダンプカーも見えるからこれから埋め立てるのだろうか、それとも行き場がなくてただここに集められたのだろうか。あまりにもむき出しな楽園の裏側に、まあ楽園なんてそんな簡単に存在しないよね、と妙に納得した。

ホテルに戻ってから支配人と話す機会があったついでに、そのゴミの山のことを聞いてみた。彼はゴミの山を見られたことを恥じる様子もなく、観光客が持ち込むゴミ、特にペットボトルなどのプラスチックゴミが年々モルディブを訪れる観光客が増え観光産業がうるおうに連れ問題になっているのだという。また海流でよその国からゴミが流れ着いてしまうことも。私が見たのと比にならない量のゴミが国中から集められた、文字通りゴミの島になっている島も存在するのだという。

水上コテージに泊まればただただ綺麗な海の上でエキゾチックな、もしくはコンチネンタルなご飯を食べ、ホスピタリティに溢れたサービスを受け、ダイビングやシュノーケリングで海に潜り、モルディブいいとこ最高また来たい、で終われたのだろうし、どちらが本物のこの国の姿かなんて考えても無駄なのだろうけれど、まるでテーマパークに泊まるようなただただ夢を見る旅に、この夫が勝手に「新婚旅行」と名付けているものが行き着かなくて、それだけでも私は満足だった。こんな旅ならリゾート旅も悪くはないかな、とこっそり思った。

それでもやっぱり日が浴びたくて

そんな通称地上の楽園において今宵も平常運転の夫は11月末、ブラックフライデーで各旅行会社がセール中なのをいいことにまた、次の旅行の計画を立て始めた。

ホテルのWi-Fiの調子が悪いとのことで近くのカフェに一人で出向き、そこのフリーWi-Fiと海外ローミングを駆使してまで取ってきたのは、一ヶ月半後の日本行きのフライトであった。ほくほく顔でホテルに戻ってきた後はプールサイドでさらに日本から飛べるリゾートも検索し始めている。

楽園とまでいかなくとも日本には冬でも太陽、お日様と青空がある。フィンランドでは暗い時期になにがなんでも日を浴びようというフィンランド人の情熱は続く。

(屋上のプールは曇り空のほうが使い勝手がいい)
(島のハイストリート、商店などがある)
(これが島のハイライトと言う人もいる)
(もちろん楽園らしくイルカツアーにも参加。船で漕ぎ出すと併走してくれる)

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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