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警察の階級

2021.11.24 公開 ポスト

古畑任三郎でおなじみ「警部補」の本来の仕事とは古野まほろ(小説家)

「巡査長」両津勘吉、「警部補」古畑任三郎、「警部」杉下右京、さらには「警視総監」「警察庁長官」……。このように、すべての警察官には階級・職名が与えられています。でも、それぞれの地位や任務、配置、待遇、昇進のしくみなどを知っている人は少ないのではないでしょうか? 元警察官僚のミステリ作家、古野まほろさんの『警察の階級』は、そんな警察組織の全貌を徹底解説した一冊。「警察モノ」好きなら必読の本書から、一部を抜粋します。

※なお、記事とするに当たり、太字化、改行、省略などの大幅な編集を行いましたので、著者の原稿とは異なる部分があり、その編集による文責は幻冬舎にあります。

*   *   *

警部補はプレイング・マネージャー

本書では、[巡査-巡査長-巡査部長]の職団を『実働と執行の職団』と位置付けていますが、この[警部補-警部-警視]の職団については、『指揮の職団』と位置付けたいと思います。

この職団における警部補の任務は、警察における中級幹部として、巡査部長及び巡査を指揮しつつ、警察事象に即応するとともに、警察組織の管理の一部を担うこと――といえるでしょう。

(写真:iStock.com/TkKurikawa)

巡査=係員は実働員。巡査部長は初級幹部。警部補は中級幹部。よって巡査部長に比べ、警察組織の管理仕事の割合がより大きくなってきます。例えば、巡査部長が交番なり警察署なりで始終イスを温めていることは考えられませんが、警部補となると、具体的に委ねられた職によっては、延々デスクワークに追われ、ExcelやPowerPointと格闘している警察官がいても不思議ではありません。

この職団における警部補の役割は、これは警察永遠の流行語大賞のようなもので、『プレイング・マネージャー』(Playing Manager)です。要は実働者たる管理者。ちなみに警察で管理職というと警部以上を指しますので、ここでは『管理者』なる用語を用いましたが、端的には外回り半分、デスク半分といった感じでしょうか。

 

いちばん解りやすい例は、交番の警部補です。警部補はハコ長、交番のトップ。交番は警察署の出城・出張所なのですから、なら出張所長としてどっしり構えて警棒でも磨いていればいいのかというと……まさか全然そんなことはなく、いざ事件事故等が発生すれば、巡査・巡査部長と一緒に素っ飛んで行かなければなりません。

事件事故が発生しなくとも、巡査・巡査部長と同様の、警ら・職務質問等をしなければなりません。もちろん警部補は中級幹部ですから、巡査のような斬り込み隊長・新入社員がやるようなタスクとは基本、無縁ですが、そして巡査・巡査部長に対する指揮命令権や勤務評定権を持ってはいるのですが、なんと自分自身もナチュラルに外回りの営業仕事を組まれてしまっています。

ゆえに警部補は、そうしたプレイング・マネージャーとして、『自ら率先して実務をこなす姿を見せつつ、ともに活動する巡査・巡査部長のOJTをしたり技能伝承をしたりする』ことになります。また、『実際に現場でともに活動するからこそ、部下である巡査・巡査部長の業務管理や人事管理が適正にできる』ことにもなります。それが中級幹部という言葉の意味合いです。

警部補がやる警察組織の管理は――業務管理や人事管理など――巡査部長のそれとは質・量ともに大きく異なることになります。部下の数も多くなれば、自ら確認しなければならないチェックポイントも激増するからです。よって警部補は、巡査部長時代に学び始め見習ってきた管理仕事を、いよいよ自分自身の職責としてとらえはじめ、今度は管理職たる警部の在り方を見習いつつ、上級幹部になるための訓練を積んでゆくわけです。

警部補と警部の厚い壁

警察署の警部補=係長となると、非管理職のうちのドンなので、巡査・巡査部長から見れば、専務ギルド員としての重みも加わり、かなりのステイタスを感じることでしょう。

(写真:iStock.com/18percentgrey)

そもそも『巡査部長が鬼軍曹的な役割を担っている』のですが、そうした鬼軍曹と警部補の間には非管理職としての連帯感がありますし、他方で、警部以上となるとどうしても役人仕事・役所仕事がふえて官僚的にならざるを得ないため、警部補以下と警部以上の間には、目には見えない厳然とした峡谷なり山脈なりが存在します

言い換えれば――『職人芸を極めたい。他人から口出しされたくない』『自分の思うように仕事ができれば、これ以上の立場は望まない』といったタイプの頑固一徹警察官にとって、警部補は実に居心地のよいポジションとなります。

また、警部補ともなればお給料も決して悪くはありません。警察において、警部補で定年退職する警察官の割合が最も大きい理由の1つには、そうした組織文化もあるように思われます。ともかく、警察署の警部補は『偉い』です。

 

他方で、もちろん警察本部にも警部補は配置されます。ナチュラルに配置されます。巡査・巡査部長となると警察署の方により多くいますが(両者合わせて平均をとると80%前後は警察署にいます)、警部補となると30%~40%は警察本部にいるでしょう。

警察本部のあらゆる所属に満遍なくいます。まして警察本部の専務員ともなれば、最高位のステイタスを認められます。警察本部の専務に登用される・引き抜かれるというのは、時に階級が上がる以上の栄誉です。

しかしながら、実にステイタスが高い分、警察本部における警部補は、『プレイング・マネージャー』のうちプレイヤーの側面をより強く求められます。それはそうです。警察本部にいる巡査・巡査部長は警察署よりずっと少ないのですから。それは要は、自分の部下となってくれる警察官が少ないことを意味しますから。

関連書籍

古野まほろ『警察の階級』

「巡査」から「警察庁長官」まで。全ての警察官は11の階級等を与えられる。常に指揮系統を明確にすることで、どんな有事にも乱れなく対処できるようにしているのだ。各階級の任務、配置、処遇は? 昇任試験、人物選考、現場にこだわる職人肌警察官の救済法ほか、「人」だけが財産である警察の昇任の仕組みとは? キャリアがトップに上りつめるまでのルートとは? 元警察官僚のミステリ作家が、30万人を束ねるスゴい仕組み・「階級」の全貌を描きだす。『警察モノ』ファンだけでなく、全組織人必読の一冊。

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古野まほろ 小説家

東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書等多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。小説多数。

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