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「女性天皇」の成立

2021.10.04 公開 ポスト

第2回

女性・女系天皇、議論せず高森明勅

わたしたちの「女性天皇」が日本を変える——。
天皇が切望し、国民が圧倒的(87% *2021年、共同通信の世論調査より)に支持する「女性天皇」を、政治家や有識者は黙殺し続けるのか。「皇室典範」のいびつなルールを死守し、皇統を途絶えさせるのか。新刊『「女性天皇」の成立』(高森明勅著)から試し読みをお届けします。

*   *   *

令和二年二月十六日付「読売新聞」の一面トップに「女性・女系天皇 議論せず/政府方針 皇位継承順位 維持/立皇嗣(りつこうし)(れい)後に確認」というスクープ記事が載って、皇位継承の行方に不安を抱く人たちを驚かせた。この記事の一部を紹介すると、次の通り。

「政府は、皇位継承のあり方をめぐる議論で女性・女系天皇を対象としない方針を固めた。男系男子が皇位を継ぐ皇室制度を維持する。秋篠宮(あきしののみや)さまが継承順位一位の皇嗣となられたことを広く示す『立皇嗣の礼』が行われる四月下旬以降、こうした考えを確認する見通しだ」

「政府はこれまで、非公式に学識経験者らに接触し、それぞれの意見を聞き取ってきた。これを踏まえ、女性・女系天皇を実現するための法整備は見送ることにした。公の場で議論を行うための有識者懇談会も設けない方向だ」

「性別にかかわらず天皇の直系子孫の長子(第一子)を優先した場合……秋篠宮さまの皇嗣(皇位継承順位が第一位)としての地位見直しにつながるだけでなく、悠仁(ひさひと)さまが天皇につけない可能性も出てくる。そうなれば、『皇室の安定性を損ないかねない』(政府関係者)と判断した」

(写真:iStock.com/eakrin rasadonyindee)

この記事のポイントは三点。

その一は、政府の方針として、皇位継承をめぐる制度改正を検討する際に、“女性天皇・女系天皇”の可能性はあらかじめ排除するということ。

その二は、この問題をオープンに討議する諮問機関(有識者懇談会?)を設けないということ。

その三は、今の制度のもとでの皇位継承の順位(第一位=秋篠宮殿下、第二位=悠仁親王殿下、第三位=常陸宮(ひたちのみや)殿下)は変更しないということ。

こうした方針を「立皇嗣の礼」挙行()に「確認する見通し」なのに、何故このタイミングで(いわば未確認のはずの)情報が早々と新聞に流れたのか。おそらく、政界や世論の反応を探ろうとする政府サイドの意図的なリークと考えるのが、自然だろう。

政府が「非公式に学識経験者らに接触し」ていた事実は、この報道が出る前から私はつかんでいた。と言うのは、“接触”を受けた「学識経験者」の当事者(複数)から、婉曲にその事実を伝えられていたからだ。ちなみに私自身への接触はなかったが。

この記事が、皇位継承のあり方に関心をもつ人々を驚かせたのは何故か。

政府は、上皇陛下のご譲位を可能にした皇室典範特例法の附帯決議によって、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」について検討することを“約束”させられていた。にもかかわらず、そのためには決して避けて通ることができないはずの「女性・女系天皇」という“課題”を、議論の対象から外してしまった。これはすなわち、附帯決議への“ゼロ回答”以外の何ものでもないからだ。

皇位継承の行方を不安定なものにしてしまっている原因とは何か。現在の皇室典範がかかえる「構造的」な欠陥が原因だ。

(写真:iStock.com/Aleksandra Selivanova)

では、その構造的欠陥とは何か。それは、明治の皇室典範では“セット”で制度化されていた、(1)正妻以外の女性(側室)のお子様(非嫡出子)やその子孫(非嫡系)であっても、皇位継承資格を認めることと、(2)皇位継承資格を「男系の男子」というかつて例を見ない極めて“窮屈”な条件に縛ること、という二つのルールのうち、(1)を除外しながら、(2)“だけ”を採用していることだ。

たったお一方だけの天皇の正妻(皇后)から代々、必ずお一方以上の男子がお生まれになることを期待するのは、無理だ。

そこで以前、「男尊女卑」(男性を尊重し、女性は男性に従うものとして見下すこと)の考え方が社会に広く行き渡っていた時代には、「男系の男子」を確保するために側室の存在が公然と認められ、制度化さえされていた。

側室のお子様も、継承順位の点で嫡出子の後ろに回されていたものの、継承資格が与えられていた事実がある。これは当時の価値観に照らして、特に非難されるべきことではなかった。

しかし、現代においてそのようなルールが許されるはずはない。現に、昭和二十二年に制定された今の皇室典範では、非嫡出子(および非嫡系)には継承資格を認めていない(第六条)。ならば、側室の存在と非嫡出子の継承可能性を前提としてこそ可能だった、「男系の男子」という継承資格の“縛り”も一緒に解除するのが当然だった。しかし、それは見送られていた。

これこそが今の典範の「構造的」欠陥だ。

従って、附帯決議で約束した通り皇位の安定継承を本気で目指すのであれば、「男系の男子」という縛りの見直し、つまり「女性・女系天皇」の可能性を視野に入れた議論が欠かせないはずだ。しかし、それを「対象としない方針」であれば、まさにゼロ回答と言わざるをえない。

国民の代表機関である国会との約束であり、しかも極めて重要な皇位継承にかかわる課題に対し、あまりにも不誠実な政府の対応ぶりだった。

(第3回へ続く)

関連書籍

高森明勅『「女性天皇」の成立』

古来、女性天皇は推古(第33代)以下、皇極(35代)=斉明(重祚37代)、持統(41代)、元明(43代)、元正(44代)、孝謙(46代)=称徳(重祚48代)、明正(109代)、後桜町(117代)天皇の10代8人。とくに古代では、強烈な存在感を放つ。女性君主を徹底的に排除するシナとは異なり、日本の皇統は男女双系(父方母方両系)で、女性の地位が高かった。だが令和の現在、皇室典範改正の停滞から大きな可能性が閉ざされ、政府は女性・女系天皇の議論すらせず、安定的な皇位継承の実現を放棄している。もっとも象徴的な国柄である天皇および皇室と日本の未来があぶない。

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「女性天皇」の成立

天皇が切望し、国民が圧倒的(87%,2021年共同通信の世論調査より)に支持する「女性天皇」を阻むものは何か? 「男尊女卑」「女性差別」社会はいらない。わたしたちの「女性天皇」が日本を変える——。緊急提言。

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高森明勅

昭和三十二(一九五七)年、岡山県生まれ。

神道学者、皇室研究者。

國學院大學文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち、現代の問題にも発言。「皇室典範に関する有識者会議」のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。國學院大學講師。

著書に『謎とき「日本」誕生』『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と国民をつなぐ大嘗祭』『日本の10大天皇』『皇室論』『歴史で読み解く女性天皇』『天皇「生前退位」の真実』などがある。

ホームページ「明快! 高森型録」のURLはhttps://www.a-takamori.com/

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