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家族間殺人

2021.10.10 公開 ポスト

加害者・被害者家族の支援にも限界がある阿部恭子

加害者家族を支援する阿部恭子さんの新刊『家族間殺人』が発売になりました。3人の家族を失い、孤独になってしまった女性。周りが支えようとしても、うまくいかないことがあります。はたして、どうすればよかったのかーー。

*   *   *

家族を失い孤独になった恵さんを、これまで細々と繋がっていた支援者たちは支えようと努力したが、

「触らぬ神に祟りなし」

そう言って、彼女のもとから仲間たちはひとり、またひとりと去っていった。

 

とにかく自慢話ばかりでした。彼氏が医者だと言っていますが、おそらく主治医のことで妄想だと思うんです。嘘もつくし、常にかまってほしいという要求が強すぎて、支えきれなくなってしまって……」

女性たちは敏感で、彼女から離れていった。男性はさらに彼女との関わりを嫌がった。

筆者も恵さんを支えたいと思ってきたが、相談者は恵さんひとりではなく、対応する時間にも限りがあった。その点は、理解してもらえていると信じていたが、実際にはそうではなかった。

恵さんが満足するまでこちらが対応しないと、他の相談窓口や他のスタッフに「いじめられた、差別を受けた」などと訴えるのだ。

彼女は経済的にも困窮していたが、生活保護の受給をぎりぎりまで拒んでいた。

「父は外車でよく迎えに来てくれた」「高級レストランの常連客だった」など、恵さんはかつての贅沢な暮らしぶりをよく誇らしげに語っていた。だが、本当の話かどうかはわからない。

(写真:iStock.com/Yue_)

昔はそれなりにいい生活をしていたことから、生活保護には頼りたくないと言ってきかなかった。

アルバイトもしていたが、掛け持ちは年齢的にもきつくなっていた。支援者が生活保護を申請するよう説いても、「自伝を書いて印税で生活する」「お見合いをする」などと現実的ではない計画を持ち出して、拒否し続けていた。

恵さんを担当したカウンセラーは、恵さんは境界性パーソナリティ障害の疑いがあると指摘した。

そうなってしまった原因は家庭環境にあった。家庭は本来、安心できる空間であり、家族は最初に信頼関係を結ぶ相手である。

恵さんの場合、暴力が支配する家庭で常に怯えて過ごし、信頼関係を構築するという経験を欠いたまま大人になった。カウンセラーいわく、彼女の被害妄想と思われる言動は、彼女にとっては実在する被害だという。普通の人には仕方がないと割り切れることでも、裏切られたと傷つき、人格否定と捉え、相手に対して攻撃的な態度をとることもあった。

虚言や見栄を張る癖も、耐え難い現実からの逃避だった。

今年に入り、恵さんが亡くなったという情報が入った。自殺の可能性が高いという。 仕事を失い、家族を失い、生活が困窮すればするほど、過酷な現実から逃れるかのように妄想が酷くなっていったようだ。亡くなる直前は、生活保護を受けてひとりで暮らしていたが、本人にとっては不本意だったという。

独居老人やシングルマザー、介護を抱えた人々が孤立しないための支援は広がっているが、恵さんのようなひとり暮らしの無職の女性への介入は難しい

恵さんはこれまで何度も男性との間でトラブルを起こしてきたが、トラブルが起きるということも人と繋がっている証であり、恵さんの生きる力になっていた部分は否めない。それすらなくなると、状況は急激に悪化してしまう。最後まで力になってあげられなかったことは、悔やまれてならない。

関連書籍

阿部恭子『家族間殺人』

家族に悩まされた経験を持つ人は少なくないだろう。配偶者のモラハラや支配的な親きょうだいの言動に「いっそのこと……」と思ったことはないだろうか。実際、日本の殺人事件の半数は家族間で起きている。家族の悩みは他人に相談しにくく、押さえ込んだ感情がいつ爆発するかわからない。傍から幸せそうに見える家族ほど、実は問題を抱えていることも多い。子どもへの度を超えた躾、仮面夫婦や夫と姑の確執、きょうだい間の嫉妬による殺人など理由はさまざまだが、そこに至る背景には一体何があるのか? 多くの事例から検証し、家族が抱える闇をあぶり出す。

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家族間殺人

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阿部恭子

NPO法人World Open Heart理事長。東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。二〇〇八年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)がある。

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