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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2021.07.15 更新 ツイート

第158回 脱毛 いとうあさこ

私は51年間、“美容”とは無縁に生きてきた。そりゃあ“顔洗ってニベアを塗る”とか“汗をかいたらシャワーを浴びる”くらいは……ってこんなんは“美容”って言わないか。まあいわゆるエステや最新コスメ、みたいなものに特に興味がなく。ボディに対してほったらかしてここまで来ました。そんな私がとうとう始めたのが“脱毛”。しかも“VIO”、つまりあさこの“下のあさこちゃん”周りの脱毛です。

 

私が人生で一番最初に気になった“毛”は“脇”。思春期でした。ずっと「毛は必要なところに生えているんだよ」と聞かされておりましたが、アイドルの水泳大会とか観ていると女子達の脇は綺麗でしたし、大ファンだったマッチさんの、あの脇を隠しながらの選手宣誓もあって。私も綺麗にしよう、と。お小遣いを貯めて、除毛クリームを薬局で購入。クリームを塗り、しばらく放置。毛が溶けてきたらティッシュで拭き取る、みたいな感じだったかな。

その後、元々手足とか毛が薄いのもあって、“脇”以外は特に気にした事なく。30歳の時、半年の無人島生活でホルモンがおかしくなったのか、顎にしっかりとした髭が生えてきた時と、ここ最近の薄毛に関しては静かなるパニックですが、まあそれくらい。そんな私がVIO脱毛に踏み切ったのは、仲良し・大久保佳代子さんの勧め。要は“老後”です。いつか人のお世話になるようになった時、下のお世話の際の“こちら側の気遣い”“清潔を保ちやすい”などの理由で40~50代から脱毛する方が増えてきたとの事。目から鱗。考えたこともなかった。この話をラジオでしたら「全然脱毛しなくていいですよ!」と言う介護士さんからのメールもありましたが、今でかなりの“イライラおばさん”な私。将来“イライラおばあさん”になるのが目に見えていますから、せめて“下のあさこちゃん”だけでも感じよくしておこうかな、と。

それにどのみちわたくし、ボディペイント系を始め、水着みたいなの着て何かやったり、Tバックのお尻に何かぶつけられたり、などなど、なんだかんだ露出する仕事が案外あるもので。そんな時、いちいち気にしなくてよくなるわけで。こうしてわたくし、生まれて初めての“美容クリニック”へレッツラゴーの運びとなりました。

“デリケートゾーン”と言うくらいですから、やはり皮膚のデリケートさはもちろんの事、気持ちとしてもデリケートなゾーン。一番気になるのが施術に際してのオマタちゃんの状態。リアルなお話をするとシャワー浴びてすぐならいいけれど、そうでない時の不安。その辺を“脱毛先輩”の大久保さんに聞いた。「もし直前に洗ったり出来なかったらどうするんですか? 汚れとか。あ、トイレットペーパーがついてたり、とか」大久保さんの答えはシンプルだった。「そんなもん行く前に自宅で洗ったら、もうトイレ行かないんだよ!」なるほど。私は当日仕事があったが、クリニックに向かう前にダッシュで一旦自宅へ。ちゃんとトイレも済ませ、シャワーでオマタちゃんを洗って、下着も替える、と言う完璧状態でいざ出陣。でもなんなんでしょうね。クリニックの駅に着く頃にだんだんトイレに行きたくなってきまして。多分お昼にちょっと味濃いめのカレーうどんを食べて、お茶ガブガブいっちゃったからかな。脳内に佳代子の声が響く。「もうトイレ行かないんだよ!」そう、私はもうトイレに行かない。全部終わるまでトイレは行かない。体に刺激を与えないよう、駅から少しゆっくりめに歩いてクリニックへ。到着すると入り口にはとてもキレイなお姉さんがお二人。名前と予約時間を伝えると「大変お手数ですが、一度トイレで手洗いとうがいをお願いしているのですが」と。そして紙コップを手渡された。コロナ対策をちゃんとしている。さすがこういう所は丁寧で完璧。ただ、トイレに行くのは今はまずい。だって我慢しているんだから。しかも口に水を含むなんて危険過ぎる。ガラガラペッと出すとは言え、“水”を感じた途端に負けてしまうかもしれない。ううん、あさこ、落ち着いて。ここは美容クリニックなのよ。私はキレイになりに来ているの。オマタちゃんではあるけれど、キレイになりに来ているのよ。心頭滅却すれば火もまた涼し。大丈夫、大丈夫。自分の中の精一杯の上品な感じの微笑みと共にお姉さんたちに会釈をし、顔色一つ変えることなく受付から3メートルほど離れたトイレへ向かう。イメージ“いい女”の“スローモーション”。トイレの扉を開ける。目の前には鏡と洗面台。そう、そのまま前に進めば手を洗い、うがいをして受付に戻れる。でも……左を見ると綺麗なトイレが3部屋並んでいる。「あさこ、好きなトコに入りなさいよ。」トイレの声が聞こえた気がした。私は洗面台の所にコップを置き、真ん中の一部屋に一目散に駆け込んだ。ホッとした瞬間、一瞬忘れていたあの声が。「もうトイレ行かないんだよ!」……佳代子、ごめん。私、耐えられなかった。いつもの何倍ものウォシュレットをして、トイレットペーパーも出来うる限りそっと、押えるように拭いた。

そんなこんなで勝手に心の中でバタバタしたのなんてどうでもよく、お姉さん達は丁寧に今後のコースややり方などの相談にのってくださったのち、手際よく処置が始まった。レーザーでバチンとなると部位によっては一瞬だけですがかなりの痛みが走る。そのたびに体がビクンとなるものだから、せっかくつけてくださった目隠しがあっという間にズレて取れてしまう。お姉さんはニッコリ「拷問みたいですよねぇ」なんて笑いながら、目隠しを直してくれる。それを何度か繰り返しているうちに気づけば記念すべき第一回施術、終了。

こんなに“美容”と無縁だった私が、「ついでに」と何年もあるお尻のしこりも取って貰う事にした。全部完了する頃にはまた異国で体張るネタが出来るようになっていればいいなぁ。そしたら私、思いっきり出せるんだけどなぁ。え? お呼びでない? こりゃまた失礼いたしました。

 

【本日の乾杯】トマト。ただ切っただけ。マヨネーズも塩もなし。よーく冷やして、ただ切っただけのヤツをただ口に放り込む。暑くなってくると、こういうシンプルなのがたまらない。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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