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小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常

2021.07.07 公開 ポスト

〈声〉が見つかるまでのこと辻山良雄

(写真:齋藤陽道)

この度幻冬舎から、『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』というエッセイを上梓した。この本は幻冬舎plusで連載している「本屋の時間」がもとになっているが、こうして本のかたちとなりようやく、もともとこの連載が目指していたものに近づくことができたという気がしている。

最初、編集者の相馬裕子さんから連載の依頼をいただいたのは、二〇一六年秋のこと。その時は、店が開店してからもうすぐ一年になろうという時期で、開店に至る経緯を書いた『本屋、はじめました』が出版されようとしていた。彼女からの依頼は、それまでにもいくつか話のあった「店をはじめることについて」ではなく、もっと店の日常に関すること、つまり書店に来店するお客さんとのやり取りや、日々店で起こることに関し、エッセイにして書いてくれというものだった。

そんなこと言われても、そうそういい話なんてないですよ。日々起こることなんてまいにち同じなのだから「日常」なわけだしね。

とまあ、そのように思ったのだが、連載は受けることにした。

そのころのわたしには、書くことや自分のまわりで起こったことに対して、どこかよそ者のような、遠慮するところがあったのだろう。毎回追い立てられるようにして書いた原稿は、「日常」には全然届いていなくて、自分のやっている仕事を正当化しただけの、理屈がまさったものであった。

 

このまま連載を続けられるのだろうかと思いながら一年が経ち、二年が経った。特に劇的な何かが起こったというわけではないが、三年目に入るころから、書くものに次第に変化が現れるようになった。それはいま考えれば、机のまえに座り、パソコンに向かってことばを吐き出すことが、わたしのなかで自然なものになった時期と重なっている。

そうすると、店で起こっていることは変わらなくても、ここにあるものこそが面白いのだと思えるようになった。わたしがいるこの場所は、様々な人が出入りする社会の縮図であり、よろこびやたまにでくわす高貴さ、狭量、醜さ等々、人の心の全きが見える場所でもある。いしいしんじさんはそのことを本書の帯に「奇跡」と書いてくださったけど、その奇跡は本来どんな職場にも、家庭にだってあるものだと思う。

ここにすべてがあるから、わたしは書くために遠くまで行く必要はない。店はわたしに与えられた、ものを見るための場所でもあったのだ。

よく「本が出てうれしいでしょう」と聞かれるが、うれしいのは本が手元に届くまでで、本が出たあとはそれがどのように受け容れられるのか、一喜一憂してただ落ち着かない。

「小さな声……」は、連載に大きく手を加え、再構成したので、読み心地はまた違うと思う。こうして一冊の本になったのは、わたしが〈声〉を見つけるのを、相馬さんがひたすら待っていてくれたからだ。

 

いまのわたしのベストを尽くしました。読んでくださるとうれしいです。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

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小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常

幻冬舎plusの人気連載「本屋の時間」を1冊にまとめた新刊『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』(辻山良雄著)の刊行他情報。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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