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岸見一郎(哲学者)×原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)Skype対談

2014.04.02 公開 ツイート

特別企画<br />岸見一郎(哲学者)×原田曜平(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー)<br />Skype対談 第1回

渋谷を歩くのをこわがる若者たち

社会を読み解くカギは、いつの時代も「若者」にあります。いま話題の『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)と、『ヤンキー経済』(原田曜平著・幻冬舎新書)は、アドラー心理学とヤンキーという一見かけはなれたアプローチでありながら、著者お二人の対談から見えてきたのは、若者たちの「今」に対するとらえ方の違い。「今」がどこまでも続いてほしいという願望と、「今」がどこまでも続くことへの恐怖。その断絶はどこからくるのでしょうか――?

(構成:稲田豊史)

 

友達に“常時監視”されている若者たち

都内の会議室で東京の原田さん・京都の岸見さんのSkype対談がスタート。若者への聞き取り調査をもとに、地元を愛する「マイルドヤンキー」の消費動向を明らかにした『ヤンキー経済』の著者で、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー・原田曜平さん。

原田曜平(以下、原田) お恥ずかしいことに、アドラーという心理学者を『嫌われる勇気』ではじめて知ったので、とても勉強になりました。ここに書かれている対人問題解決の方法論って、僕が長年リサーチ対象にしている若者たちが一番必要としているものじゃないかと思います。ただ、『ヤンキー経済』で取り上げた“マイルドヤンキー”たちは、本というものをほとんど読まないので、マンガにした方がいいのかもしれませんが(笑)。

岸見一郎(以下、岸見) “マイルドヤンキー”というのは、原田さんが本の中で取り上げた、新保守層の若者たちのことですね。

原田 はい。マイルドヤンキーは主に「地元族」と「残存ヤンキー」で構成されています。地元族とは、大人になっても生まれ育った地元に好んで住み、小中学校からの友達とずっとつるみ続け、遊ぶ場所も地元で完結する人たち。ここで言う地元の単位は、小中学校の校区くらいの狭さですね。残存ヤンキーは、改造車や改造バイクに乗ったりする昔ながらのヤンキーの流れをくみますが、昔ほどヤンチャではない人たちです。

心理学者アルフレッド・アドラーの教えを用いて、対人関係の悩みを克服する具体策をわかりやすく示した『嫌われる勇気』の著者で、哲学者の岸見一郎さん。

岸見 僕のところにカウンセリングに来る青年たちの多くは、原田さんの言うところのマイルドヤンキーとはちょっと違うかもしれませんが、『嫌われる勇気』は、特に悩める若い人たちを対象にしているので、無関係ではありません。この本は、生きづらいと感じている若者たちがどういう風に生きていけばいいか、そのヒントを示したものになっています。マイルドヤンキーの人にも、大いに参考になると思いますよ。ところで原田さんは、どういった経緯で『ヤンキー経済』を書かれたのですか?

原田 2007年くらいから、マーケティング業界では「若者は消費しない」と言われ続けてきましたが、タバコ、パチンコ、車メーカーさんなどが、「そうは言っても彼らに消費の糸口はないのか」ということで、僕が所属する博報堂に頼ってこられたわけです。それを受けて、ここ5年くらい全国の若者調査を重ねたところ、実は若者のなかにもちゃんとお金を使う消費者がいることが判明したんですよ。それがマイルドヤンキーと呼んでいる人たちで、いつか彼らについて本にしたいなと思っていたんです。

岸見 原田さんは以前、著書『近頃の若者はなぜダメなのか』(光文社新書)で、「新村社会(しんムラしゃかい)」という言葉を使われていますね。若者が空気を読むことを強いられていて、じっさい巧みに空気を読む者も多いけれど、彼らは「村社会」にいるかのような、不自由な生き方を余儀なくされていると。しかもネットの登場により、新しいタイプの村社会が誕生していると。そこに書かれている生きづらさは、僕のところにカウンセリングに来る人の生きづらさに、とても近いと思いました。

原田 マイルドヤンキーも新村社会に生きています。中学時代の狭くて強固な人間関係が途切れず続いているうえ、LINEに代表されるソーシャルメディアのせいで、良くも悪くも昔の友達と「常時接続」されてしまっているんです。一度仲間に嫌われてしまったら、もう戻るところがない。村八分的なものも、昔以上に存在します。

岸見 常時監視から逃れられない社会にいるのですね。

原田 高学歴の大学生も別の意味でそうなんですよ。彼らはマイルドヤンキーとは対照的に、薄くて広い人間関係を形成していますが、たとえば……渋谷を歩くのすら、ちょっと怖がっています。

岸見 どういうことですか?

原田 街のお店なんかで誰かに見つかって「あいつ、(生意気に)渋谷の●●にいるよ」などとツイートされるのを極度に怖れてるんです。タレントでもないのに(笑)。バッシングされる材料は極力排除して、皆「善良な人」であることを過剰なほどSNSでアピールします。もっと言うと、SNSで噂が流れるから恋愛もしにくい。変に目立つことで嫌われたくないんです。

岸見 マイルドヤンキーと高学歴層、いずれも「嫌われる勇気がない」ということですね。今の若い人って、同世代の友達といった「横のつながり」にも、適応する努力をしなければならないのですね。かつては、若い人の社会適応の問題というのは「縦のつながり」に対してだけの話だったのに。

原田 上司とか、先輩とかとの関係の話でしたよね。

岸見 TwitterにしろLINEにしろ、本音のところではやめてしまいたい人も多いのではないですか。

原田 ええ。以前、若者研究所でリサーチを手伝ってくれている大学生がSNSをやることでいろいろ悩んでいるから「やめちゃえば」って言ったら、「やめたいですよ……ただし、みんながやめるなら」と返ってきました。

 

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