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中国経済の属国ニッポン

2021.05.31 公開 ツイート

中国従属化が急激に進む、日本経済の現実 加谷珪一

あと10年経たずして、中国はGDP(国内総生産)で米国を抜き、世界一の経済大国になります。それは単に経済力がトップというだけでなく、テクノロジーや軍事、外交の世界でも強大な力を持つことを意味します。中国が覇権国家となった先の未来とはどういうものなのか。5月26日に発売された『中国経済の属国ニッポン』で、著者の加谷珪一さんは多くのデータを示しつつ、停滞が続く日本経済は中国に取り込まれると警鐘を鳴らします。知られざる隣国の本当の姿と、私たちに起こりうる現実とは……。内容を少しご紹介します。

*   *   *

AI・自動運転・ドローン……先端技術で米国に匹敵

皆さんは私たちの隣国、中国に対してどのようなイメージを持っているでしょうか。多くの人は、安い工業製品を大量に輸出する新興国というイメージを持っていると思います。コロナ危機までは、日本にも大勢の中国人観光客が押し寄せていましたから、「爆買い」というキーワードが頭に浮かんだ人もいるかもしれません。

最近ではさすがに少なくなりましたが、中国のことを貧しい途上国と考えている人もまだいるようです。確かに筆者が子どもの頃の中国は、そうしたイメージそのものであり、人民服を着た大勢の人が自転車に乗って街中を行き来するような国でした。

(写真:iStock.com/Nuthawut Somsuk)

しかしながら、こうした中国に対するイメージはすべて過去のものとなりつつあります。

ここ10年の中国経済は、私たち日本人には想像もつかないペースで発展を遂げ、今や中国の技術は日本を大きく抜いて米国に匹敵する水準となっています。特に次世代産業の主役といわれるAI(人工知能)や自動運転、無人機(ドローン)など最先端分野での存在感は圧倒的です。国民生活も急激に豊かになっており、日本を超える洗練された豊かな消費市場が生まれつつあります。

2021年は中国にとって世界制覇のスタートの年

2020年から本格化した新型コロナウイルスの感染拡大によって各国経済は大きな打撃を受けましたが、一方で、中国はいち早くコロナ危機を収束させたと主張し、実際、中国経済は他国を尻目にプラス成長に転じています。こうした状況から、各国のシンクタンクの中には、中国が近い将来、米国を抜いて世界最大の経済大国になると予想するところが出てきました。そして中国政府もそれを強く意識し始め、まさに2021年は世界制覇に向けたスタートの年と位置づけています。

(写真:iStock.com/ake1150sb)

2021年はもともと中国にとって節目の年とされていました。中国共産党が結党100周年を迎えることがその理由ですが、これに加えて同年からスタートする第14次5カ年計画には、改革開放路線以来となる重要な政策転換が盛り込まれました。詳しい内容は後述しますが、中国政府は2021年を起点として、世界の超大国を目指すという方針を明確に打ち出したのです。

中国は社会主義国家ですから、今でも計画経済が基本となっており、5年ごとに明確なプランを定め、忠実に実行していきます。5カ年計画は政治的にも極めて重要であり、共産党内部では、5カ年計画に何を盛り込むのかをめぐって激しい権力闘争が行われます。

計画経済である以上、5カ年計画で定めた目標の達成は絶対であり、これに失敗した指導部は政治生命を失う危険性すらあります。

輸出国から消費国への脱皮

これほどの重要性を持つ5カ年計画ですが、最新の第14 次5カ年計画には、「双循環」という文言が盛り込まれました。この言葉は、中国が製造業を中心とした輸出主導型経済から内需を中心とした消費主導型経済に舵を切ることを意味しています。

中国はこれまで世界の工場として多くの工業製品を輸出しており、経済成長のエンジンとしてきました。しかし、今後は米国と同じような消費主導型経済を目指す方針をハッキリと示したのです。これは中国にとって、歴史的戦略転換といってよいでしょう。

ビジネスでも軍事力もテクノロジーでも米国に取ってかわる

そして5カ年計画では、今から14年後の「2035年までには1人あたりGDPを中等先進国並みの水準にする」という目標が定められました。この数値から逆算すると、中国は今から10年程度の期間で米国を抜き去り、世界トップの超大国となります。これは日本経済にとってはもちろんのこと、世界経済にとっても極めて大きな変化です。

(写真:iStock.com/TexBr)

GDPの大きさが世界1位というのは、単に経済規模が大きいということだけにとどまりません。経済規模が大きいということは、ビジネスにおける影響力も世界最大であり、軍事力も比例して強大になることを意味しています。たいていの場合、技術力は経済力と比例しますから、中国は政治や経済、軍事、テクノロジーといったあらゆる分野において、米国に取って代わる可能性が高くなっているのです。しかも中国は民主国家ではなく、日本とは根本的に異なる価値観を持つ国です。

地理的に近い日本は中国経済圏に取り込まれる

戦後日本は政治的にも経済的にも米国に依存する形で国家を発展させてきました。しかし、中国が米国を抜いて世界の頂点に立った場合、日本は重大な戦略転換を求められることになるでしょう。

しかも困ったことに、トランプ政権の置き土産ともいえる米中貿易戦争の影響によって米中のデカップリング(分離)が進んでおり、世界はブロック経済に向けて動き出しています。ブロック経済の世界では、距離的に近い国が集団で経済圏を構築することになります。つまり、日本は望むと望まざるとにかかわらず、中国経済圏に取り込まれる可能性が高くなってしまうのです。

関連書籍

加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』

2030年にも、中国はGDP(国内総生産)で米国を抜き、世界一の経済大国になる。2021年、結党100周年を迎えた中国共産党は、歴史的な政策転換を提示。それは、中国を中心にしたブロック経済を構築し、米国や日本抜きでも成長し続けるという内容だ。さらに、テクノロジーや軍事力でも、中国が米国に取って代わる日が近づく。一方で、近年の日本経済は「爆買い」など、中国に大きく依存してきた。隣国の覇権獲得は、日本が今後、中国の土俵の上で外交やビジネスの遂行を強いられることを意味する。このまま日本は中国の属国に成り下がるのか? 数多のデータから、中国の覇権国家化の現状と、我が国にもたらす影響を見通す。

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加谷珪一 経済評論家

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。その後野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「ニューズウィーク」や「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。ベストセラーになった『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『ポスト新産業革命』(同)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

加谷珪一オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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