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緊急事態宣言の夜に

2021.02.28 公開 ポスト

コロナ禍におけるさだまさしの、想いと行動。

緊急事態宣言発出――ボクたちの新型コロナ戦記2020さだまさし

緊急事態宣言が発出された夜に作った名曲「緊急事態宣言の夜に」で、「大切な人をなくしたくないんだ」と歌ったミュージシャン・さだまさし。コロナ禍における、想いと行動の記録を綴った新刊『緊急事態宣言の夜に ボクたちのコロナ戦記2020』より試し読みをお届けします。

*   *   *

緊急事態宣言発出

4月7日、7都府県を対象に「緊急事態宣言」が発出されました。内容は、 翌日の4月8日から5月6日まで、事業者に対する休業要請と個人に対して外 出自粛要請をお願いするというものです。僕のような年寄りでも初めて体験する出来事でしたが、そのまま4月16日には対象エリアが全国に拡大されました。

最初の緊急事態宣言が発出された4月7日は、たまたま僕の母の祥月命日で した。「もし母が生きていたら、今回の緊急事態宣言をどのように受け止めた のだろうか」などと考えながら、思いつくまま文章を書きました。きっかけは 僕のプレミアム・ファンサイト、Mass@Mania(まっさマニア)に書いた「『緊急事態宣言』に今 思うこと」というエッセイでした。

始めに新型コロナウイルスとの戦いの現場において命がけで働き続けて下さっている医療従事者の皆様に心からの感謝と敬意を表します。

同じく、警察、消防、銀行業務、郵便事業、宅配業他スーパーや薬局など、 生活インフラに関わる「休むにも休めない」数々のお仕事の方々、本当に本当 にありがとうございます。

また、働こうにも働く場所の無い人々(僕らミュージシャンもですが)に「絶対負けるな!」と心からのエールを送ります。

さて、このような様々な思いを胸に、今夕「緊急事態宣言」を受け取りました。

この「緊急事態宣言」で日本は他の国のように強制的に道路を閉じたり、公共交通機関を止めたり、力によって家を出ることを禁じる、といった『都市封 鎖』は行われません。

ですから一見緩やかで、何も変わらないように感じるでしょうが、実はこれは日本が民主主義国家であることの証明なのです。

「自由な国」である証なのです。誇りに思うべきことです。

だからこそ守り抜きたいのです。

この度の「緊急事態宣言」は、新型コロナウイルスの蔓延が私たち日本国にとっての『有事』である、ということを国が国民に対して「宣言」したことになります。

つまりこの新型コロナウイルスとの戦いは『戦争』と同じということです。

しかし国同士が争う『戦争』と決定的に違うことは、この病魔との戦いは「私たち国民」の力だけで乗り越えることが出来る(また、乗り越えなければならない)ということです。

つまり「自分の健康を守る」ことはこの国の自由を、民主主義を護る戦いであって、それに勝つことが国民の責任であろうと僕は考えます。

治療薬やワクチンという武器を全く持たない私たちにとって、この戦いは「自分が罹患しない」ことでしか「愛する人を守る」ことが出来ない訳ですか ら、まずイライラ悶々とした「不自由で不安」なおのれの心の苦しみとの戦いに勝たなければなりません。

経済のことについて、行政について、あれこれ言って解決するものであれば、申し上げたいことは山ほどありますが、ここは涙を呑み、言葉を呑んでまずは危機の回避に力を尽くす時だと思います。

不平不満、恨み辛みを超えて互いを励まし合い自分の健康を守ることで、大切な人の生命を護ることを優先しましょう。

罹患したら、冷静に自分の状態をきちんと知ること、他の人と接触しないこと。無闇にうろたえず、自分の生命を護る為に出来ることを考えましょう。

まだ罹患していない人は「臆病に臆病に」自分の心と身体を護りましょう。

本当の戦いはこれからです。出来うる限り無駄に動かず、冷静に冷静に耐えましょう。

誤解を恐れずに言うなら、我々はこの新型コロナとの戦いに於ける『戦友』です。 共に力を合わせて戦いに勝ちましょう! 生き抜きましょう!

母の命日の夜に さだまさし

日本には諸外国のように「戒厳令」やそれに匹敵する「行動制限」を行う法 律はありません。

ですから「緊急事態宣言」は「命令」ではなく「お願い」に過ぎないのです。

従って「発令」ではなく「発出」といいます。他の国に見られるような、軍隊による街道封鎖、また警察官による一般市民への行動の制限といった「都市封鎖(ロックダウン)」は行われません。日本にはそんな法律が無いからです。

これは僕の大切にしたい日本の民主主義と自由です。

自由というのはとても難しいもので、あの時期にサーフィンをする人々が非難されたのを覚えておいででしょう。

「この時期にあんなに沢山集まってサーフィンなんかやって」と怒った人がありますが、これは法律違反ではありませんから、実は自由の立派な範疇といえます。

「こんな時期に何をやってるんだ」というのは感情論であって、そのことで人に迷惑を掛けたり、傷つけたりという法律違反さえしなければ、基本的にどのような行動を取ってもよろしいというのが「自由」の基本です。

しかし「何をしても自由だ」は既に自由の範疇を超えた「自分様のご勝手=ミー・ファースト」のことで、これを昔から我々は「利己主義者」と呼びます。

自由のはき違えのなれの果てのことです。

自由には「自分が人にされて不快なことは自分は人に対してしない」、また「自分の意見への反対意見を言う権利を相手に与える」という厳しい不文律があります。

しかし感情論が怒りを孕んで世論を動かすようなことになれば、やがて政治家や評論家が言い出して「緊急事態に於ける罰則付きの行動制限」を明記した法律を作ろうとします。

これには僕は断固反対です。

こういう形で私たちの本当の自由が少しずつ奪われることが嫌なのです。

だからこそ新型コロナの危機に際し、国の思惑など考えず、国民の自制心と英智で助け合って乗り越えようではないか、という檄を送ったつもりでした。

日本人は昔からどんな国難に遭っても、あの戦争の惨憺たる有様のなかでも、どうにかこうにか支え合って生き抜いてきたのですから。

応仁の乱も、関ケ原も幕末も、米軍を中心とする連合軍との戦争もです。

国民同士でなんとか出来ると信じている自分がいます。

さて民主主義における自由の最も大切なものに「移動の自由」があります。

移動制限というのは実はこれ、「懲罰」なのですね。罪を犯した人に対し、その懲罰として「移動の自由」が禁止されます。これが「懲役」です。

スポーツでもルールの違反者には、移動・行動の制限や退場、或いは参加禁止、かなり厳しいと追放という処罰が科せられますね。

こんなに身近なところに自由の正体があったのです。

そこで僕は「俺たちの自由を護りたいんだ」と歌いたいわけなのです。自由を護るために「一時の不自由を我慢する」という「自由」が必要なのです。

このエッセイを読んだスタッフから「あなたは歌手なのだからこのテーマは歌うべきでしょう」と言われ、成る程確かにそうだ、それが僕らの仕事のひと つだ、と思いました。

そして『緊急事態宣言の夜に』という曲にしました。エッセイを書いた翌晩のことでした。

✳︎

『緊急事態宣言の夜に』さだまさし

緊急事態宣言の夜に 様々に思い悩んだ末に

一筆啓上仕る

乱筆乱文 御免被る

お前のおふくろ死なせたくないんだ

ほんとに誰も死なせたくないんだ

俺たちがウイルスに侵されないことだ

今何よりそれが俺たちの闘い

元気なようで かかっているらしい

今度の悪魔はまことにいやらしい

ウイルスを周りに撒き散らさぬように

自分を疑え まず自分を疑いたまえ

家を出るな もっと臆病になれ

出ないですむなら 決して家を出るな

でも出なきゃいけない仕事がある

警察、消防、郵便、宅配、コンビニ

薬局、スーパー、自衛隊のみんな

生活インフラ守る人たちに

感謝を捧げて無事を祈るばかり

がんばれって ありがとうって

ありがとう がんばろうねって

ふとすれ違う見知らぬ誰かにも

嫌いなあいつも 好きなあいつにも

大切な命が必ずあるだろう

ほんとに誰も死なせたくないんだ

仕事失って みんな悔しい

どうにか生きてくれと祈るばかり

文句を言うのは 生き延びた後だ

手を洗え 手を洗え とにかく手を洗え

身勝手な人からクレーム受けても

もくもくと もくもくと もくもくと

人のために今日も闘ってくれてる

ごみ処理、銀行、水道、電気、

ガス、公共交通機関のみんな

お医者も看護師も命懸けで

医療に関わる人たち全てに

ありがとうしか言葉にならない

ありがとう がんばるからねって

お前のおふくろ死なせたくないんだ

大切な人をなくしたくないんだ

今ひとつになろう

ひとつに がんばろう!

がんばれ、がんばれ、がんばれ、病院

がんばれ、がんばれ、がんばれ、子育て

がんばれ、がんばれ、がんばれ、老人

がんばれ、がんばれ、がんばれ、若者 が

んばれ、がんばれ、がんばれ、ニッポン

がんばれ、がんばれ、がんばれ

がんばれ、がんばれ、がんばれ

がんばれ、がんばれ、がんばれ

がんばれー! がんばろう!

関連書籍

さだまさし『緊急事態宣言の夜に ボクたちの新型コロナ戦記2020〜22』

2020年、コロナ禍の日常が始まった。いち早く『緊急事態宣言の夜に』という歌を発表し、メッセージを送ったさだまさし。ミュージシャンとしてどのような思いで活動してきたか、また、自身が設立した「風に立つライオン基金」がおこなってきた様々な支援の様子を綴る。小さな力を大きな動きに――魂のメッセージが胸を打つ、感動の記録。

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緊急事態宣言の夜に

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さだまさし

1952年長崎市生まれ。72年に「グレープ」を結成、「精霊流し」「無縁坂」などが大ヒットする。76年、グレープを解散後、シングル「線香花火」でソロデビュー。2001年、初小説『精霊流し』がベストセラーになる。『精霊流し』をはじめ、『解夏』『眉山』『アントキノイノチ』はいずれも映画化され、話題に。その他の小説に『はかぼんさん一空蝉風土記』『かすてぃら』『ラストレター』『ちゃんぽん食べたかっ!』など。

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