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フィンランドで暮らしてみた

2020.10.16 更新 ツイート

フィンランドでサマーコテージに泊まる(まさかのサバイバル篇) 芹澤桂

フィンランドのサマーコテージでの代表的なアクティビティといえば、呑んだくれる酔っ払いたちを除いたら、やはり森に入ってのキノコ狩りやベリー摘みだろう。白樺の樹皮を編んだかごを持って鳥のさえずりを聞きながら木漏れ日あふれる森を歩き回るなんて、自然の恵みによる癒し効果満点だ。

(コテージからすぐ湖)
 

それどころではない

しかし、私がコテージに到着して3日目、森に分け入ったときはそんなに優雅じゃなかった。

2日目に上の子が入院し夫がそれに付き添い、私は歩き始めたばかりの下の子とコテージに残ることになった。その時点ではひと晩限りの入院だと思うから、と何も準備せずに夫たちを送り出したのだ。

子供の入院に付き添う大人1名以外の家族、つまり私や下の子も付いていく場合、病院指定の近くのホテルを安く借りられる制度がある。入院が長引けばそれもありかなと思ったけれど、なんせコテージにも1週間分の宿泊費を払ってしまっているし、通常のホテルの部屋でよちよち歩きの子が歩き回るリスクと騒音を出す可能性を考えたら、コテージの方が安全な気がして私は残ることにした。更に私のように家族が取り残されて食料調達などの困難が生じる場合、社会保健省のサポートで食事デリバリーも有料だが頼めるのだそうだ。それ利用する? と私が辺境のコテージにいる事情を知る病院のスタッフに聞かれたのだけれど、そんな本当に困っている人向けのサービスを使うなんて恐れ多くて遠慮しておいた。

ところが、上の子の入院がひと晩ではなく延びることになった。

本人はいたって元気で、子供病棟の至れり尽くせりなおもちゃやゲームを試しまくり、ムーミンを時間制限なく視聴しまくりと入院ライフをかなり楽しんでいる様子なのだけれど、やはり呼吸器系だけがいまいちでもうひと晩かふた晩様子を見ることになった。

まさかの長期お留守番に備えなし

となると、少しこちらの雲行きが怪しくなってきた。

2日目にコテージに取り残されたときは、引きこもっていてもしょうがないしお天気もいいし、と下の子を敷地内にある公園に連れて行って運動させたり、湖畔を散策してベリーを見つけてはしゃいだりしていた。優雅なものである。

それが3日目の午後に入院が延びたと夫から知らされたときは、冷蔵庫の中に残っている食料を再点検してあと何日やっていけるか指折り数え始めた。

冷凍ピザが一枚。古くて固くなりかけたパン、卵。牛乳は子供用。ステーキ肉。出来合いのキヌアサラダが2食分、生野菜と果物が少し。

子供の離乳食だけはたっぷり持ってきたのでそこは心配いらないものの、ビタミン不足が気になる。

私は抱っこ紐に子供を入れ、タッパーを掴んで森へ繰り出した。

ビタミンを求めて

森と言ってもコテージのすぐ裏手、徒歩20秒で湖畔の雑木林に出られる。そこにベリーがびっしり生えているのを確認済みだった。更に運の良いことに晩夏、まだぎりぎりブルーベリーとリンゴンベリー(コケモモ)のシーズンだった。

次の日から雨が降るという予報だったので今日しかない、と思い、私はブルーベリーを摘み始めた。

旬が終わりかけのブルーベリーは、採ろうと指を伸ばすとぽろぽろとこぼれ落ちる。ひと粒を採るとその反動で同じ枝の他のものが地面に落ちていく。拾えばいいのだろうけど、なんとなく用心して落ちたものはそのままにした。周りを見渡すとふわっふわの苔の上にもブルーベリーがたくさん落ちているので、雨で落ちたかトナカイやウサギが食べに来たかしたんだなぁと地面を読むのが楽しかった。空想するまでもなく動物たちのフレッシュでちょっと臭い痕跡はあちこちに落ちている。

抱っこ紐に入れた子の体重は10kgを超えていてしゃがみこむと膝がプルプルするし、その子がブルーベリー大好きで採るたびにせがむので、次々に口に放り込んであげる間にようやっとタッパーにひとつふたつ入れることができる、といった具合でとても時間がかかる作業だった。リンゴンベリーも入れてミックスベリーソースにしてステーキに添えようと思ったら、こちらの方はまだ熟れきってなくてほぼブルーベリーになったのも計算外だった。

それでも、だ。小一時間でなかなかの収穫になった。

トナカイはさすがに

キノコもそこかしこに生えていた。私はキノコ採りに行ったことがなく毒キノコに当たるのが怖い。いつも現地の友人に「わかる人と一度行けばすぐわかるようになるわよ」と誘われるのだけれど、毎年シーズンに新生児を抱えているか旅行でフィンランドにいないかで行き逃していた。残念、知識さえあれば食料にできるのに。

(見るからに怪しい)
(いけそうな気もする)

トナカイもコテージの周りにわんさかいた。これに関しても狩猟さえできれば……と完全に食料を見る目でトナカイを追っていたのだけれど、よく観察するとトナカイの首や耳にはタグがつけられていたので、近くのトナカイ牧場で放し飼いにされているのが流れてきていただけで、たぶん、食べたら怒られる。そりゃもうこっぴどく。

(となりのコテージにトナカイ)

ブルーベリーによく似た実をつける植物も見つけて、よく調べてみたら毒ベリーリストに載っていた、ということもあった。

危ない。素人がうかつにサバイバル生活気取りするもんじゃない。

(ブルーベリーに似た毒ベリー)

すごすごとコテージに帰ってベリーをことことと煮、砂糖もないものだからただ煮詰めただけのよく言えばシュガーフリー、オーガニックな北極圏の恵みベリーソースを、古いパンをパンプディングにして蘇らせたものにかけて食べた。ビタミン補給完了。

関連書籍

芹澤桂『ほんとはかわいくないフィンランド』

気づけばフィンランド人と結婚して、ヘルシンキで子どもまで産んでしまった。暮らしてみてわかっ た、ちゃっかり賢く、ざっくり楽しい、フィンランドの意外な一面。裸で大事な会議をしたり、いつで もどこでもソーセージを食べたり、人前で母乳をあげたり……。ちょっと不思議でなるほど納得。「か わいくない北欧」に笑いがこぼれる赤裸々エッセイ。

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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