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震度7の生存確率

2020.08.16 公開 ツイート

大災害に直面すると人は動けない。動物の本能が仇となるとき 佐藤和彦/仲西宏之

東日本大震災や熊本地震など、大きな地震が起こるたび、これまでの悲惨な体験から学び取った知恵がまったく活かされず、同じことを繰り返している日本。

実際に被災した経験を持つ著者は「災害に直面して100%の生存確率はない」とおっしゃっています。ただそのような中でも、発災時にどんな行動をとれば少しでも生存確率が高くなるか、書籍『震度7の生存確率』には巨大地震を生き残るために必要な知識が詰まっています。

近い将来の発生が確実視されている首都直下地震と南海トラフ地震。発災の瞬間にひとりひとりが何をすべきか、本書から抜粋して紹介します。

*   *   *

災害に直面してフリーズ!心理的にも動けない?

突然、大災害に直面して最善の行動をとるのは大変難しいことです。多くの人は固まって動けなくなります。

自然災害に直面すると、目前に危機が迫るまでその危険を認めない傾向があることが知られています。災害心理学の研究者であるジョン・リーチは、多くの目撃者が大災害に直面して「凍りついて動けない」ために犠牲者となると証言しているといいます。

(写真:iStock.com/Saklakova)

なぜ凍りついて動けなくなるのでしょうか。その理由をリーチは人間の脳の働きで説明しています。人間は、通常の習慣的な行動をとる時には「刺激→反応」を意識せずに自動的に行うようにできていますが、通常とは異なる事態に直面すると、この「刺激→反応」システムの調整がうまく機能しなくなるので、

・何もできなくなる人 70~75%

・我を失い泣き叫ぶ人 15%以下

・落ち着いて行動できる人 10~15%

になるといいます。心理学者が「正常性バイアス」と呼ぶ状態です。

震度7の地震に襲われると、人間は激しい揺れで物理的に動けなくなるだけでなく、人間の脳に備わっている機能が働き心理的にも動けなくなる可能性が高くなります。あなたに知っておいていただきたいことは、激しい揺れに見舞われると物理的にも心理的にも動けなくなる可能性が高いことです。そして、そのわずかな瞬間に「しゃがむ、つかまる、動かない、離れる、隠れる(逃げ込む)」を選択する必要があることです。

滅多にない、体験したこともないような大災害に直面すると、その瞬間に人間はパニックになると思われがちですが、どうやらそれは間違いのようです。パニックになるよりも動きが緩慢になったり、まったく動けなくなったりすることが知られています。先ほどの正常性バイアスの影響です。

 

ところが物理的・心理的な原因以外にも人が動けなくなる理由があります。それは、麻痺と呼ばれる状態に陥ることです。アマンダ・リプリーの『生き残る判断 生き残れない行動』では、

「特定の状況下では、炎上している飛行機、沈没しかけている船、また急に戦場と化した場所などでも、多くの人はまったく動きを止めてしまう。決定的な瞬間がやってきても、何もしない。体の機能を停止してしまい、急にぐったりして動かなくなる。……」

と報告しています。同書は地震だけではなく、テロを含めた危機を調査しており、「麻痺に陥った状態はパニックよりも頻繁に起こる不思議な行動」として取り上げています。

では、なぜ麻痺が起こるのでしょうか。実は、人間に限らずあらゆる動物に麻痺が起こることが確かめられています。動物は、極度の恐怖にさらされると完全に活動を停止する強い本能を持っているようです。人間も動物なので例外ではなく、麻痺が起こります。

なぜ、危険に直面している最中に危険度をさらに高めるような「動けなくなる」反応が起こるのでしょうか。それは、動物が捕食者に襲われた時に、麻痺状態になると捕食者の攻撃から生きのびる可能性がより高くなるためと考えられています。リプリーは、

「ライオンは、病気や腐敗した獲物を食べることを避ければ、生きのびて遺伝子を伝える可能性が高くなる。多くの捕食動物は、もがいていない獲物には興味を失う。……それは食中毒を避ける太古からのやり方である。……」

と解説しています。動きを止めることで、捕食者に自分が病気や腐っているから食べちゃダメだよという偽のシグナルを送り、生きのびようという戦略です。捨て身の戦法です。

災害は捕食者に食べられる種類の危険ではありませんが、極度の恐怖を感じた時に起きる“麻痺”は、人間にとって本能のレベルに組み込まれているために災害でも無意識のうちに発動する根深い問題です。

 

震度7の地震に襲われると、

・揺れの激しさで物理的に動けない

・滅多に起こらないことが起こると正常性バイアスが働き心理的に動けない

・極度の恐怖にさらされると麻痺が起こり本能的に動けない

という3つの異なる理由から人間は動けなくなる可能性が高くなります。前述のリーチの調査結果に従えば、70~75%の人は何もできなくなります。正常性バイアスと麻痺というふたつの理由から、災害に直面して動けなくなる人が多くいることは不思議ではありません。あなたが発災の瞬間を生きのびるには、「発災の瞬間に動けなくなる」ことを頭に入れておいてください。

*   *   *

それでは動けなくなることを念頭に置いた上でどのような対策をとるのがよいのでしょうか。詳しくは書籍『震度7の生存確率』をご覧ください。

関連書籍

仲西宏之/佐藤和彦『震度7の生存確率』

巨大地震発生!その瞬間、どうすれば生き残れるか?「机の下に隠れる」と助からないって知ってましたか?巨大地震が続き、首都直下地震や南海トラフ地震の信ぴょう性が日に日に高まっている。いざ、巨大地震が起きた時、生き延びる妨げになっているのがこれまで教わった地震対策や地震教育の間違いだ。一家に1冊。家族で共有したい「我が家の巨大地震対策教本」になること間違いなし!

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震度7の生存確率

東日本大震災や熊本地震など、大きな地震が起こるたび、これまでの悲惨な体験から学び取った知恵がまったく活かされず、同じことを繰り返している日本。

実際に被災した経験を持つ著者は「災害に直面して100%の生存確率はない」とおっしゃっています。ただそのような中でも、発災時にどんな行動をとれば少しでも生存確率が高くなるか、『震度7の生存確率』には巨大地震を生き残るために必要な知識が詰まっています。

近い将来の発生が確実視されている首都直下地震と南海トラフ地震、発災の瞬間にひとりひとりが何をすべきか、本書から抜粋して紹介します。

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佐藤和彦

一般社団法人日本防災教育振興中央会 理事、総合危機管理学会 理事、一般財団法人日本総合研究所 特任研究員。

1963年埼玉県生まれ。東京経済大学経済学部経済学科卒業、慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。一般財団法人日本総合研究所 主任研究員 経営研究部長を経て2016年6月退職、同年10月より現職。

仲西宏之

一般社団法人日本防災教育振興中央会 代表理事、総合危機管理学会 理事。

1959年広島県生まれ。80年大阪工業大学建築学科在学中、起業を機に同学を中退。阪神・淡路大震災の被災経験からボランティア活動に取り組み、各地域の防災教育NPOの全国組織の創設を呼びかけ、2015年7月一般社団法人日本防災教育振興中央会設立、現在に至る。

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