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君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か

2020.07.10 更新 ツイート

渋沢栄一は言った「お金は大切にせよ、そして軽蔑せよ」 佐々木常夫

新一万円札の顔、そして2021年NHK大河ドラマで吉沢亮さんが演じることでも話題の、明治の実業家・渋沢栄一(しぶさわえいいち)。彼の言葉や思想を、元・東レ取締役の佐々木常夫さんがわかりやすく解説した書籍『君から、動け。 渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』(小社刊)から一部をご紹介します。

講演する渋沢栄一(大正13年6月1日)/写真提供:渋沢史料館

渋沢が語るお金の価値

渋沢はお金というものについて、次のように述べています。

 

お金はどんなモノにも変わることができる。お金には「いろいろなものを代表できる」という価値がある。だからお金はモノと同じく大切にすべきである。一枚の紙切れや一粒のコメさえ粗末にしてはならないのと同様に、お金も粗末に扱ってはならない、と。

一方で渋沢は、「お金は大切にすべきものだが、必要に応じてうまく使っていくのもそれに劣らず良いことだ」とし、「よく集めて、よく使って、経済活動の成長を促すことも心がけてほしい」と言います。

よく使うとは、正しい支出をすること、良い事柄に使っていくということ。お金をよく使うことを知らないと、ひたすらケチに徹する守銭奴になってしまう。世間ではお金を大切にする=守銭奴になると思い込んでいる人もいるが、お金を守るだけでよく使わなければ、お金を大切にしているとは言えない

したがって我々は金遣いの荒い人間にならないよう努力すると同時に、守銭奴にならないよう注意する必要がある、と言うのです。

お金とは淡白に付き合え

しかし渋沢は、お金をよく集めよく使うことを推奨する半面、お金の持つ危険性について次のように指摘しています。

『君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か』(佐々木常夫著、1300円+税、小社刊)

人情の弱点として、利益が欲しいという思いが勝り、富を先にして道徳を後回しにする弊害がある。それが行き過ぎると金銭を万能なものと考えてしまい、何より大切な精神の問題を忘れ、モノの奴隷になってしまいやすい

このような金銭のマイナス面に足を取られないためには、「まっとうな富は正しい活動によって手に入れるべきである」という考え方に則り、道徳心とともに金銭を利用することが望ましい。金銭は大切なものだが、人を貶める軽蔑すべきものでもある。金銭に執着すべきではないと、渋沢は考えていたわけです。

実際渋沢は、大実業家でありながら金持ちになろうとはしませんでした。

多くの株式会社を作りながら、株式を独占するどころか次々と売却し、それによって得たお金でまた新たな会社を設立する。渋沢は金持ちになることより、国家社会のために事業を起こすことを優先したのです。

渋沢は自身の金銭観について、「青淵百話」などで次のように語っています。

自分は金持ちになるつもりは毛頭ない。国の富を独占することも嫌いである。いくら金持ちになったところで、それが社会の人々のためにならなければ無意味である。無意味なことに人生を費やすより、自分の知恵を使ってやりがいのある仕事をして一生を過ごす方が、はるかに価値のある人生を送ることができる。

要するに自分は、大金は持つな、仕事は愉快にやれという主義なのである。

人は誰しも大金が欲しいし、お金を貯めたいし、大金持ちになりたいと苦心する。だが人の欲望には際限がない。いくらお金を手に入れても、もっともっとと果てしなく欲しがる。こういうお金に貪欲な人間が増えると、国家社会は危うくなる。

だから自分は、富に対して淡白でありたい。お金に貪欲な人間より、知識豊富な働き手が増え、国家社会を利することを強く望んでいる。

このように渋沢は、お金に対する人間の弱点と、ともすれば国を危うくするお金の怖さを踏まえた上で、「お金とは淡白に付き合うことを心がけた方がいい」と言っているわけです。

大金は人を翻弄する

私自身は、お金に対しては基本「ケチ」な人間です。

買わずに済むものは買いませんし、値切れるものは値切ります。百円でも千円でも、少しでもお金のかからない方をとります。銀行でお金をおろすのにかかる手数料も、もちろんかからないようにしています。

(写真:iStock.com/high-number)

旅行の宿泊施設などにしても、機能が同じなら安い方が断然いい。豪華さやステイタスにお金をかけるのは、あまり意味がないことのように思えるからです(趣味で続けているゴルフのクラブやウェアも、ほとんどが人からのもらい物か普及品。道具やモノへのこだわりはほとんどありません)。

ただし、私は家族に対しては惜しみなくお金を使いました。妻の入院では本人の意向を汲んで個室にし、自閉症の長男にはアパートを借りて一人暮らしをさせたりもしました。

楽な出費とは言えませんでしたが、病気や障害のある家族のためを思えば無駄遣いではありません。私なりにやれる範囲で、正しいお金の使い方をしたつもりですが、このようにお金というものは、メリハリのある使い方を心がけることが大事ではないでしょうか。

もっともお金というのは、渋沢の指摘する通り、人を狂わせるものでもあります。

例えば私の知るある会社の社長は、社長というステイタスに飽き足らなくなり、もっと上の地位を求め、多くの企業を取り仕切る財界のトップになることを目論みました。

その人は自分がその地位に就くために、多くの社員を使ってあらゆる手段を試みていましたが、血眼になって欲望を貪る姿は見苦しいの一言に尽きます。

口では「会社のためだ」と言うのですが、どう見ても自分がお金と権力に執着しているのは明らかです。お金も権力ももう十分手にしているはずなのに、もっと欲しい、もっと上に行きたいという欲望に抗えなくなってしまっているのです。

結局この人は真の意味で財界のトップにはなれず、有り余るお金で数億円の自分のお墓を建てていました。死んだ後もなお、自分の地位やお金を誇示したかったのでしょうか。有能な経営者だった人が、これほどお金に惑わされるとは、私自身驚かされるばかりでした。

お金は自分だけのものではない

会社組織では、上に行くほど給料が上がります。特に役員待遇以上となると、黙っていても相当なお金が入ります。ましてや一部上場企業の社長ともなれば、肩書きだけで巨額のお金を手にすることができます。つまり、地位がお金を作るわけです。

したがって、社長になった人はその座を離れようとはしません。最も高い給料をもらい、最高権力を持ち、人になんでも命令できるとなれば、大概の人は欲に目が眩むようになる。欲望の前では、人はいとも簡単に志を失うと言っても過言ではありません。

(写真:iStock.com/itasun)

その証拠に、四十代の頃は「社長は老害になる前に若手にその座を譲るべきだ」と言っていた人間が、自分が社長になった途端その座に恋々として全く辞めようとしないということがあります。

「自分は五年で辞める」と宣言していたトップが、「後継者がいないから」などの理由をつけて、六年、七年と社長の席に居座り続けるという例もあります。

よく「上に立つ人間は孤独だ」などと言われますが、そんなのは私に言わせれば噓っぱち。会社で一番給料が高くて、秘書もいて車もあって、好きなように会社を動かせる身分を、「孤独だから放り出したい」なんて考える人はまずいません。

悲しいことですが、これほどまでに人はお金に弱く、お金によって変わりもするのです。

もちろん、お金に狂った人間が尊敬されることはありません。周囲から軽蔑され、信頼を失い、いつしか周りは敵だらけという状態になります。前述しましたが、権力を手にした人間は十年もすると腐ります。腐った人間は惨めな末路を辿ることになります。

では、どうすれば富を得ても腐らずにいられるか。

そのためには「いかに自分が苦労して築いた富だとしても、自分一人のものだと思わないことだ」と渋沢は言います。

人はたった一人では何もできない。国家社会の助けがあって初めて利益を得られる。富を手にすればするほど、社会に助けてもらっていると考えなくてはならない。したがって、富を得た者は富を得たお返しとして社会への貢献を考えるべきである。

これを実践できる人が、本物の富豪と言えるのかもしれません。

*   *   *

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君から、動け。渋沢栄一に学ぶ「働く」とは何か

30代に渋沢栄一を知り大変な感銘を受け、以降、その思想を働き方・生き方の羅針盤としてきた、元・東レ株式会社取締役の佐々木常夫氏が、心に深く残っている渋沢栄一の言葉や思想を選び、背景を紹介しつつ、その言葉と思想をビジネスにどう生かし実践したのかを語ります。

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佐々木常夫

1944年、秋田市生まれ。株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活を送る。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建などさまざまな事業改革に多忙を極めたが、いかにワークライフバランスを保つかを考え、定時に帰る独自の仕事術を身につける。2001年、東レ株式会社の取締役に就任。03年より東レ経営研究所社長。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを務める。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任している。『そうか、君は課長になったのか。』(WAVE出版)、『40歳を過ぎたら、働き方を変えなさい』(文響社)、『運命を引き受ける』(河出文庫)など著書多数。

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