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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2020.03.27 更新 ツイート

「自粛を要請」という中途半端な指示が生んだ「イベントやる、やらない」問題を考えたカレー沢薫

オタクは、自分の推しや好きなジャンルのことを「沼」と呼ぶことがあり、仲間を増やすことを「沼に引きずりこむ」と言うこともある。

良く考えてみたら、何故そんな地獄のような言い方をするのか。推しや推しジャンルは、尊きもののはずである。

「湖」と言ってもいいし、仲間を増やすことは「湖畔のティーパーティに誘う」と言っても良いはずだ。

 

だが、当然そんなキレイな表現は似合わない、やはりオタ活は「沼」と表現するのが一番似つかわしい。

沼の特徴は、ぬかるんでいて一度ハマると抜けずらい、そして何より「透明度低い」つまり「底が知れない」のである。

何回も言ったが、良くも悪くも情緒を乱す存在である。
吉良吉影のように「激しい喜びはいらない、深い絶望もない、植物のような人生」を目指すなら「じゃあ殺人を犯すな」と言う前に、まず「推しを作るな」と言わなければならない。

好きになればなるほど、推しに対し、思春期の金髪少年のようにナイーブになってしまうので、少し距離を置きたいと思っても、その時にはすでに自分の意志では抜けられないのである。

また推しの尊さが底なし、ストップ高知らずなのは言うまでもない。
「もう大丈夫、推しの顔の良さに慣れた」と言って、次のページを開いた瞬間、両目を押さえてラピュタから落ちて行くのがオタクというものだ。

もちろん、推しの尊さに限度がないのは良いが「展開」にも底がなく、さらに沼が「無限に広がっていく」場合は、恐怖なのである。

人気ジャンルになると、当然、メディアミックス、グッズ、イベントなど、様々な展開をしていく、そうやってどんどん沼が深くなると、足がつかなくなる。
つまり、沼の深さに対し、己の財力や時間が追いつかなくなるのだ。

全く広がらない過疎沼にハマってしまい、沼と言うより穴から顔を出しているだけになっているオタクからすれば、羨ましい限りだが、あるのに金や時間がなくて、手に入れられない、参加できないというのはとても苦しいことだ。
そこで、睡眠時間を削ったり、魔法のカードに「もう少し足を伸ばしてください」と頼めば「リボボボーン」という呪文と共に、ある程度ついて行けるかもしれないが、何せ「底がない」ため、いつか生活自体が破綻する恐れがある。

また、声優沼からゲーム沼、2.5次元沼から、舞台俳優沼、と沼は横にも広がり続けるため、気づいたらオープンウォーター状態、というのも良くあることだ。

このように決して優雅なだけでなく、死の危険があるという意味でやはり「沼」と表現するのが相応しいだろう。

しかし、当然悪い意味だけではなく、浸かっていて「気持ちいい」のが沼であり「しんどい」「無理……」などと言いつつも、沼から顔を出しているオタクの顔は常に、笑顔、もしくは笑顔を越えた「無表情」であり、苦しみしかない、という人間はほとんどいない。

よって「沼に引きずりこむ」というのも「同じ地獄を味あわせたい」ではなく「お前もこれ好きそうだから、一緒に楽しもうぜ」という純粋な善意からなのである。

ただ、引きずり込んだ相手が、自分よりハマって命を落とすということも、ままあるためそういう表現になっているだけだ。

いわば、フットサルチームに誘っているのと大差ないのだ。
しかしフットサルが爽やかな笑顔で「一緒に良い汗かこうぜ」と言っているのに対し、沼への誘いは「一緒にワキから変な汁だそうぜ」と、聞き取れないぐらい早口で言ってくるため「妖怪が出た」と思われやすいだけである。

ともかく、決して苦しみを分かち合いたいわけではなく、許容不可能な喜びで一緒に死にたいだけなのだ。

しかし、最近では悪い沼への引きずりこみ、が見られるような気がする。

ご存じの通り、今はコロナウィルスの影響で様々なイベントが中止されている。
楽しみにしていたイベントが潰れたオタクも大勢いるだろう。

しかし、中止になったイベントもあるが、予定通り行われるイベントもある。
そうすると、潰れた方は、どうしても「何故、あのイベントは中止しないのか」と思ってしまうだろう。

そこで「こんな時にイベント強行なんて不謹慎だ中止しろ」と攻撃するのは「こっちが苦しんでいるのだから、お前も苦しめ」という悪い沼への引きずり込みである。

オタクの沼への引きずりこみは、結果的に死人が出ようと、常に「良かれと思って」という動機でなされるべきだろう。

こういう自体になっているのは政府が「自粛を要請」という中途半端な指示を出したため、イベントによって対処が割れてしまったせいである。

よって「政治が悪い」。
具体的な他人や他ジャンルに憎しみを抱き、足を引っ張るぐらいなら、ぼんやりとした巨大な物を憎んでいた方がいい。

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カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 〜オタク沼地獄〜』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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