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2020.02.20 公開 ポスト

今春注目の戦国大河ロマン『茶聖』刊行記念 著者インタビュー

歴史上最大のプロデューサーは千利休だ!伊東潤

本日発売の歴史小説『茶聖』の著者・伊東潤さんに特別インタビュー。千利休の正体は、真の芸術家か、戦国期最大のフィクサーか。戦国動乱期の武将たちを魅了した理由はどこにあったのか。本作が生まれたきっかけや創作の裏側について伺います。

(撮影:内野秀之)
 

茶の湯がブームになった理由

——本作を書こうと思ったきっかけは何ですか。

伊東 戦国時代を扱う歴史小説家は、いつかは千利休に挑まねばならないと思ってきました。それだけ戦国時代において茶の湯の存在は大きく、信長、秀吉、家康という三代にわたる天下人の政治を陰で動かしてきたと言えるからです。

そこで2015年に書いたのが、連作短編集の『天下人の茶』です。ところがこの作品は利休の弟子たちの視点から利休を描いたこともあり、ネットの反応が真っ二つに分かれたのです。大絶賛してくれる人たちと「分からない」という人たちですね(笑)。

『天下人の茶』は「すべてを語り尽くさない」ことを自らに課し、過度な説明部分を大胆に切り落としました。とくに利休の思惑や感情部分には、あえて立ち入らないようにしました。それは弟子たちの推測によって「推し量る」という方法を取ったので、なおさら利休の心中が分かりにくくなったのだと思います。

単行本では、そうした部分が行き過ぎた感もあったのですが、直木賞の候補作にまでなりました。そこで文庫化の際に改稿を施し、余情で忖度してもらっていた部分に多少の説明を加えました。すると文庫版では否定的なレビューが消え失せました。

しかし連作短編集の上、弟子たちの視点ということもあり、利休の意図を完全に描き切ったとは言えませんでした。そこで利休視点で書いてみようと思ったのが本作になります。

——『天下人の茶』を執筆した動機には、『利休にたずねよ』の著者である故山本兼一氏の存在も大きかったと聞きますが。

伊東 『利休にたずねよ』は不朽の名作だと思います。小説は三度も読み、映画版のDVDも持っています。それほど『利休にたずねよ』は好きな作品でした。

山本さんとは、2013年の4月に文春主催の座談会で一度だけお会いしたことがありますが、その時に大ファンであることを告げたところ、「えっ、そうなの」と驚きになり、とてもうれしそうでした。ところが山本さんは同年10月に入院し、翌年の2月、訃報に接しました。これから座談会などでお会いできる機会が多くなると思っていたのに、とても残念でした。

——本作を読むと、安土桃山時代における茶の湯の影響の大きさが分かりますね。

伊東 なぜ、あれほど茶の湯が流行したのか。単に喫茶店や密談場所として便利だったとか、茶道具の美術的価値だけで、あれほどの大ブームが起こることはありません。誰かが意図的に流行らせようとしたから、あれだけ流行ったんです。それが誰かは明らかです。

天皇には「禁中茶会」、下々には「北野大茶湯」のような一大イベントを主催した秀吉と、それを演出した利休です。ではなぜ、二人は茶の湯をこれだけ普及させようとしたのか。それを描いたのが本作です。

——『天下人の茶』では本能寺の変の黒幕を利休としていますが、本作では、その部分を変えていますね。

伊東 『天下人の茶』は本能寺の変の真相を描いたものではありませんし、小説であるにもかかわらず「伊東が利休黒幕説を唱えている」といったことを、ネット上で頻繁に言われて不本意でした。そんな説を裏付ける史料なんてないし、傍証としても変以後、利休が台頭していったこと以外はありません。

どうして読者の多くが本能寺の変にこだわるのか、不思議でなりませんでした。そのため『天下人の茶』の最も面白い部分が隠れてしまい、とても残念でした。それゆえ今回は「利休は本能寺の変にかかわっていない」ことにしました。

——本作では脇役のキャラクターもいいですね。とくに丿貫(へちかん)と紹安が光っています。

伊東 丿貫は実在の人物で、記録では北野大茶湯で奇妙な茶席を用意し、秀吉に気に入られたことで有名です。茶の湯で世の中を静謐に導こうとする利休と、己の境地を高めることだけに執着した世捨て人・丿貫の対比を描きたかったのです。

紹安というのも興味を引かれる存在です。実母が死に、利休が後妻を迎えることで堺の実家に居辛くなった紹安は、旅する茶人となったようです。それが次第に利休の考えに共鳴し、その跡を継ごうとします。つまり千家そのものは弟の少庵に託し、自らは利休の理想を引き継ごうとしたのです。こうした紹安の心理描写は小説内のことですが、彼の事績や行動からすると全く否定できないことだと思います。

——伊東さんにとって利休とは何でしょう。

伊東 歴史上、最大のプロデューサーにしてディレクターですね。茶の湯を桃山文化最高の地位に押し上げ、茶道具バブルを演出したプロデューサーとしての手腕と、スポンサーの秀吉と手を組み、「禁中茶会」や「北野大茶湯」といった様々なイベントを演出したディレクターとしての手腕が際立っています。

戦国時代というと政治や軍事に目が行きがちですが、信長の懐に入り込み、秀吉の傀儡子(くぐつし)となった利休こそ、戦国時代のフィクサーであり、陰の天下人だと思います。

また武将弟子たちを組織化し、一大勢力を形成しようとした先見性も忘れてはいけません。今では軽視されがちですが、利休と弟子たちの絆は強く、秀吉の没後ともなれば、一大勢力を成したことは間違いないでしょう。蒲生氏郷が奥州に飛ばされた原因も、そこにあるのかもしれません。

では、なぜ利休は武将弟子たちを手なずけ、軍事力まで手にしようとしたのでしょうか。もちろん信長や秀吉のような天下人になりたかったわけではありません。

秀吉の死後まで見据え、軍事力を擁することで、秀頼と家康の仲裁役になろうとしたのではないかと、私は思っています。つまり第三勢力の形成です。
史実を追っていくと(もちろん二次史料もありますが)、こうした可能性が導き出されるのです。

——最後に一言ありましたら、ぜひ。

伊東 多くの歴史ファンの方は史実重視で、一次史料だけを神のごとく信奉しています。しかしそれでは歴史に対する洞察力を養えません。と言っても「史実を無視して想像の翼を伸ばせ」ということではなく、私が言いたいのは「一次史料を踏まえた上で、状況証拠から蓋然性を探り出せ」ということです。一次史料に書かれたことだけを信奉していると思考停止に陥ります。だから様々な一次史料をつなぎ合わせ、時には二次史料に書かれていることでも検討し、自分なりの解釈を導き出すのです。

ただし「これが真実だ!」とやると、それはそれで問題なので、小説という形式を使って世に問えばよいのです。「こんなことも考えられるかもね」ってやつですね。私の作品群は、こうした一貫した姿勢に貫かれています。

大作『茶聖』は2月20日発売です。戦国時代のフィクサー利休とは何者だったのか。皆さんも考えてみてはいかがでしょうか。

伊東潤『茶聖』

天下人・豊臣秀吉の側近くに仕えた千利休。茶の湯が、能、連歌、書画といった競合する文化を圧倒し、戦国動乱期の武将たちを魅了した理由は何だったのか。 戦場は二畳の茶室、そこで繰り広げられる天下をも左右する緊迫の心理戦。信長、秀吉、家康……死と隣り合わせで生きる者たちとの熱き人間ドラマ。

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伊東潤

1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。『黒南風の海――加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』(PHP研究所)で「第1回本屋が選ぶ時代小説大賞」を、『国を蹴った男』(講談社)で「第34回吉川英治文学新人賞」を、『巨鯨の海』(光文社)で「第4回山田風太郎賞」と「第1回高校生直木賞」を、『峠越え』(講談社)で「第20回中山義秀文学賞」を、『義烈千秋天狗党西へ』(新潮社)で「第2回歴史時代作家クラブ賞(作品賞)」を受賞。近刊に『天下大乱』(朝日新聞出版)がある。伊東潤公式サイト https://itojun.corkagency.com/  ツイッターアカウント @jun_ito_info

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