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マンマ・ミーア!

2019.12.28 公開 ツイート

ナポリの大晦日は○○が空を飛ぶ!?海外年越し事情 もりともこ

ある日突然、イギリス人の夫から「リコンをクダサーイ」と言われ、傷心と勢いで「カミーノ」へと旅立ったのをきっかけに、世界中を旅し続けている、もりともこさん。
現在、スペイン、イタリア、モロッコでの安宿暮らしを描いた「マンマ・ミーア!」が好評発売中です。
連載最終回となる今回は、この時期に興味深い「海外年越し事情」について。

*   *   *

 イタリア、ナポリ。大晦日の夜。
「今夜は危なくなるから、10時から11時ぐらいまでのあいだは外に出たらダメだよ」
 住み込みボランティアをしていた宿で、夜勤のスタッフに教えられた。えっ、なんで?
「ナポリにはね、大晦日になると、家の中でいらなくなったものを窓から外に放り投げる習慣があるんだよ。机とかテレビとか、食器とかフライパンが宙を舞うからね。本気で危ないんだ」
 あぁ、そうなんですか! って、って、えーーーーーーっ⁉ 
ぶっとんだ習慣に驚きつつも、近所の騒音に文句をつける時はアパートの窓からティッシュやビール瓶を投げて「うるせぇ!」と声をあげるのも珍しくない土地柄。「さすがはナポリ」と納得して、夜の11時を待って外に出てみた。

「ぎゃーーーっ、何これ、怖っ!」
住宅街はまるで戦場だった。人気はなく交通も止まり、爆竹や花火が飛び交って、そこらじゅうで火花がパチパチヒュンヒュンいっていた。まるで暴動とかストライキを思わせる怒りの花火。家具を窓から投げるかわりに、花火を投げる人も多いんだろうか。これがナポリ流の1年のケリのつけかた?

そして住宅街を抜けると、今度はど派手なお祭り騒ぎが待っていた。メインストリートには紙吹雪や大小のバルーンが舞って、ギラギラとライトアップされてまるでリオのカーニバルのような華やかさ。いくつもの広場でライブやダンスパーティが始まっていた。

ナポリ市民が放つ花火、おそるべし!

 

大きな花火があちこちでバラバラに(無秩序に!)打ち上がる。ナポリらしきカオス


【ナポリ市民の年越し】
20:00 [食う!] 親戚一同会してのディナー。海の町だけにメインは魚料理。ひたすら食べて飲む。
22:00  [捨てる!]いらないものを窓から外に投げ捨てる。(もちろん、投げない人もたくさんいる!)
22:00  [投げる!]外に花火を投げ放つ。またはベランダや路上で花火。
23:30 [歩く!]いい感じに酔いが回って海まで散歩。
24:00 [集う!]海沿いに市民集結。打ち上げ花火があちこちに。
02:00 [歓喜!]公式大花火大会開始。始まるの遅っ!

 
午前3時の帰り道。町はゴミ箱と化していて、道の脇には壊れたソファーとか鏡台とかが、ジャマくさそうに置かれていた。そんな“祭りのあと”感にもまたグッときて、「好きだぜナポリ!」と胸を熱くした大晦日。

海沿いで、灯ろうを空に放つ友。今年もいい年になりますように!
これ一体誰が片づけるんだー! と思ったけど翌朝にはキレイになっていたよ

フランス、南インド、アルバニア悲喜こもごもの年越しドラマ

こんなパワフルなナポリの年越しに対して、ほかの国はどうだったかなと思い返すと、ステキだったのはフランスのボルドー。午前0時の広場では、集まった人たちが知り合いも他人も関係なく、ハグとキスをしあって「ハッピーニューイヤー!」って言い合うの。知らない者同士が一緒に新年を祝うのっていいなと思いました。その瞬間って、みんないい笑顔しているし。

南インドで年越しをした時は、その夜に食べたカレーに当たってお腹を壊して、宿のトイレにこもりながらカウントダウンの花火の音を聞いた、なんてこともあったけど。
 
アドリア海に面したアルバニアの小さな町では、年末だというのに何の盛り上がりもなくて少々ガッカリ。スペイン人の友達と「この国は経済が厳しそうだから、祭りどころじゃないんだよ」なんて言いながら家で飲んでいた。

すると午前0時。

いきなり外で花火が鳴り出して、マンション(5階)のベランダへ飛び出した私たち。「ワーーーオ!」。なんと、正面の湾に面したすべての家から、一斉に花火が上がっていたんですよ! 湾に沿って並んだ家々の花火がひとつの大きな弧を描いて、それが海面にも映し出されて、どんな花火大会でも見たことのない美しさ。私たちは感動とサプライズで開いた口ふさがらず、そのあとは笑いが止まらなかった。
「あは、あは、あははは……すごいすごい! ってか、誰が仕掛けたの、この花火!」 
「なんでなんで? こんなひっそりとした町でどうやって? よく分かんないけどアルバニア最高!」
あとで地元の人にきいてみると、この町では行政が大花火を打ち上げるお金はないけれど、毎年カウントダウンと同時に市民が家で花火を15分間上げる習慣があるらしい。市民が協力しあって描く、巨大な光のアート。まるで武道館のペンライトか大文字焼きか、『欽ちゃんの仮装大賞』みたいなチームワークに、アルバニアという国の隠れた力を見たね。

年越しひとつをとっても分かるように、知らない町へ行くと予期しないドラマが待ち受けている。楽しいドラマばかりとは限らないけれど、それでも知らない文化を体験したり、遠い国の人と知り合えるのっていくつになってもわくわくする。日焼けが嫌だからと家にこもって仏頂面をしているよりは、顔がシワシワになっても遠くの町の空の下で、何かオモシロイものを探していたいわー。
旅先の宿で、将来の旅の計画を語ってくれる若者に会うと私は必ず応援します。うん、いいね、絶対行ったほうがいいよと。
少年よ、書もスマホも捨てなくていいから旅に出ろ!」
 年末年始の休暇、みなさんはどこへ行って、どんなドラマに遭遇するんでしょうか? 
 気を付けてよき旅を。いつか、どこかの国でお会いしたら乾杯しましょうね!

ただ今オーストラリアにて、就労ビザ不要のバイト探しに挑戦中。クリスマスの今日、静まり返った公園でこの原稿を書いてたらアボリジニの酔っ払い夫婦がやってきて「お姉さん、今日だけは仕事しちゃダメだよ。メリークリスマス!」と言って去って行ったよ

もりともこ『マンマ・ミーア! スペイン・イタリア・モロッコ安宿巡礼記』

家なし、金なし、男なし。人生落ち気味の中年ライター、母の死を機に”住み込み暮らし”の旅に出る。劣悪すぎる環境にブチ切れながらも、ともに過ごした相棒は生涯の友に。気づけば悩みも吹っ切れた!情熱的な女だらけのスペイン巡礼宿から、時給100円のモロッコ安ホテル、果てはスラング飛び交うナポリの宿まで。前向き度120%旅エッセイ。

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