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2021.08.27 更新 ツイート

ミレニアル世代がサボテンを愛する理由【再掲】 鈴木綾

この記事が公開されたのは、まだコロナなど世界に存在していなかった2年前。手間もかからず、持ち運びよく、部屋のちょうどいいアクセントになるサボテンに、根を張らない自身の生活を重ね合わせていた鈴木綾さん。ミレニアル世代に人気というサボテンは、コロナ禍で暮らしが不安定ないま、また違った思いを受け止めてくれる友として、私たちのそばにいてもくれそうです。

* * *
 

11個のサボテンの五つの列。計55個のサボテン。細長いのもあれば、小さくて丸いのもある。全部同じ壺に入っている。そして壺も棚も後ろの壁も全部ピンク色。インスタグラムへの完璧な祭壇。

初めてのシュガーリング脱毛が終わって、レジで待っていた。お店のお姉さんがカードリーダーを出していた間、隣のサボテンをじっと見た。シュガーリングはワックス脱毛によく似ているけど、ワックスより肌に優しくて痛くないらしい。イギリス人女性はあそこを脱毛するし、イギリス人男性は脱毛を前提として付き合ってくるので私も居住国の文化に合わせて脱毛をすることにした。名前、生年月日、住所、ビリーーッ。いたっ。

もちろんあそこの鳥肌の写真を撮るわけにはいかないので、代わりにサボテンの写真を撮ってインスタにあげた。

 

なんか、とんがっているものを抜くお店がとんがっているものを展示するというのはどうかな、と思った。そこが冗談の落ちかな、とも思ったけど、サボテンにはもう一つ象徴的な意味がある。そのお店のお客さんの多くは21世紀に社会人になったミレニアルたち。サボテンは欧米のミレニアルたちを代表する植物。

北米園芸店の専門誌によると、2012年から2017年の間、多肉植物とサボテンの売り上げは64%も伸びた。イギリスの王立園芸協会によると、サボテンの去年の売り上げ増加率は34%だった。ミレニアルたちの需要がその背景にある。

欧米のメディアはミレニアルのサボテン志向を頻繁に取り上げる。ミレニアルの私たちは家を買わない。たくさんの家財道具も持たない。賃貸物件を転々とする。オンナジところには長く住まない。出産年齢が遅くなっている。大都市に住んでいる私たちは自然とつながりを感じさせるものが好き。

サボテンは私たちの限界ある欲望をぴったり満たす。サボテンは簡単に持ち運べる。毎日の水やりもいらない。子供と違ってお金も手間もかからない。泣かないし、学校行かない。つまらない生活の風景にちょっとした緑になる。

私はサボテンを持っていないけど、折り紙付きのサボテン・ミレニアル。だって、一年しか住んでいない東ロンドンからもうすぐ引っ越す。その前は二ヶ月間親戚の家でほとんど物置として使われている部屋に住んだ。その前は二ヶ月間住む場所がなくてずっと旅していた。その前は1年間MBAのある街に住んでいた。その前は日本。日本でもあちこちいろんなところに住んだ。あっちこっちから漂流する間、大好きな本をたくさん売った。たくさんの新しい人に心を開いた。その中で今でも繋がっている人もいれば――。

一緒に住んでいた夫婦はスイスに引っ越すから私は引っ越さなければいけない。彼らは一年しかロンドンに住んでいない。スイスの税金はこっちより低いし、サボテンよりはるかに立派な自然がある。だから引っ越すんだって。

私はこの夫婦を「両親」と呼んでいる。だって、結婚している二人と一緒に住むのはちょっと不思議。時々彼らがキッチンでキスをしたり、「愛しているよー」と言い合ったりしているところに入っていくと、本当に親子になっている気がする。

今度は、新しい夫婦が私を「養子」にしてくれる。旦那さんはビジネススクールの同級生で子供を作る前に貯金したいのでルームメイトを探していた。彼らはイスラエル出身。趣味は料理すること。静かに暮らしているし、あまり人を家に呼ばないです、と養子縁組の面接で言われた。彼らの子供になると冷蔵庫の中にある調味料は変わるけど、私はすぐ慣れるだろう。調味料にも養親にも。

私は、今回の引越しをあまり嬉しく思っていない。20代はサボテン生活で良かったけど、もう30歳になった。

今の「養母」もあまり引っ越したくないみたい。2年に2度仕事をやめ、旦那さんに付いて住む国を変える。先週ロンドンのクタクタ通勤族と一緒にディストリクト線に乗っていた時に彼女にふっと言われた。「私はスイスでどんな仕事ができるだろう。」旦那さんが出世できるように彼女はサボテンになってあげている。そう、2019年にもまだそういうのがある。

変わらないもの。慣れ親しんだもの。そういうのを欲しい。だからこういうエッセイを書くのだろう。月2回の掲載日が変わらない。色々書いている間、もしかして根を下ろせる場所、仕事、そして人間関係を見つけることになるんだろう。だって、自分の庭は自分で耕さなくてはならないのだから。

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新しい趣味

毎日を充実させてくれるさまざまな趣味。以前から好きなもの…とはまた違う、このコロナ禍で新しく出会った、再認識した、喜びの世界。

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鈴木綾

1988年生まれ。6年間東京で外資企業に勤務し、MBAを取得。現在はロンドンの投資会社に勤務。2017〜2018年までハフポスト・ジャパンに「これでいいの20代」を連載。日常生活の中で感じている幸せ、悩みや違和感について日々エッセイを執筆。日本語で書いているけど、日本人ではない。

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