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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2019.07.30 更新 ツイート

第112回 HEY!ポール!いとうあさこ

2008年に旗揚げしました我が劇団・山田ジャパン。おかげさまでの10周年。昨年からやってまいりました10周年記念三連打公演の第三弾。そうです、ラストとなります「HEY!ポール!」。まだまだ雨の続く7月終わり、草月ホールにて上演させていただきました。

この「HEY!ポール!」は再演でして。初演は6年前の2013年6月シアターサンモール。お客様の反応が明らかに今までと違った。「なんか山田ジャパンって面白い劇団があるぜ!」「次の山田ジャパンも絶対観よう!」“山田ジャパン”の広がり、そしてこれからを実感したとても大事な作品の一つです。

 

物語はとある雑居ビルにある「東京センターポール」と言うポールダンスが観られるカフェバー。傷を抱えた常連客たちが、ある日ふとしたきっかけからそれぞれの傷をさらす事に。常連客の一人である平汰はそれをかわそうと……。パンフレットに書いてあるのはこんな感じ。そんなあらすじになぞらえて、私もいろいろさらしてみましょうか。では発表。公演中の“傷エピソード”三連打。

まず本当の意味での傷。今回わたくしの役は“おばさんポールダンサー・その子”。初演の時と同じ役です。6年前、43歳でもなかなかキツかったポールダンスを、49歳、やらせていただきましたよ。ちゃんとわがままボディ丸出しの衣装で。うふふ。あ、ポールダンスって露出多めな衣装ですよね。あれはセクシーさもあるのですが、皮膚でポールをひっかけてぶら下がったりするので肌を出していないとダメなのです。腕力、体幹も鍛えなくてはなりませんが、あとはその皮膚がつれる痛みに耐える我慢強さも大事。そんなわけで全身アザだらけ。数えてみたら大小合わせて74個。“あさこギネス”更新の新記録。ただそれだけアザを見ていたら私、気づいたんです。“格好いい”アザと“格好悪い”アザがあるという事を。今まで普通だな、と思っていた紫色の大きな丸タイプのアザはなんとねぇ。“格好いい”んですよ。見てられる。逆に“格好悪い”のは、小さな丸が水玉模様みたいに10~15個くらい集まって出来たアザ。中高時代、天文班に所属していたから「ああ、このアザ、バラ星雲に似てるわね」くらい言ってみたいものですが、とにかく格好悪く、なんか汚い。ホントにどうしたらこんなアザが出来るかわからないのですが、二の腕の内側や内腿などの柔らかい所や、何故かおへそ周りにもたくさんある。ただその無数のアザたちも公演が終わって一日一日薄くなって消えてゆく。まるで満天の星たちが少しずつ消えてゆき、新しい朝が始まるような……あ、また天文班出ちゃった。イヒヒ。

お次は私ではなく劇団員2人の傷(?)。とある稽古日。本番も近づいてきて、疲れも溜まってたんでしょうね。珍しく肉を食べたくなりまして。その稽古場の近くにファストフード的なステーキ屋さんを発見。休憩時間に私と同じく初期メンバーの羽鳥由記嬢、元宝塚で何故かうちの劇団に入ってきた長江愛実の3人で行く事に。その道中の会話です。

い「サウスタワー(稽古場の名前)って言うくらいなら、ノースタワーもあるのかな?」
長「どうだろう? ここって新宿の西ですか?」
い「えっと、方角はわからないけど。いわゆる西新宿はあっち(逆方向)だよ。」
羽「あ、新宿の西だからサウスタワーじゃないかと?」
長「そうそう。」

ん? なんか聞き間違いかな?
い「えっと……サウスは、南、だけどね。」
羽・長「……え!?」
い「西はウェスト。」
長「えー!? 聞いたことない!!」
い「“西”部劇でウェスタン、とかさ。ほら。関“西”だからジャニーズWEST、とかさ。」
羽・長「ほえー。そうなんだー。」

いやいやいやいや。その場にいる3人中2人が“サウス=西”ってなかなかじゃない? うーん。山田ジャパンは……最高の、コメディ集団、です。はい。

最後は傷、というか、恥ずかしかった事。誰かが頑張っている姿とか、人の幸せな笑顔とか、空が青いとか。なんだかんだで泣いている姿がテレビにうっかり映ってしまう事が多い私ですが、舞台のカーテンコールで泣くのがイヤ。舞台を観に来てくださったお客さまからしたら、私なんぞの涙だの感情だのは関係ないじゃないですか。その方の見終わった時の感情の邪魔をしたくない。しかも最後、私が挨拶をするので泣いてしまったら話せない。などなど、とにかく終わりは笑顔でいたいのだ。千秋楽。最後という事で、ゲストの皆さんを紹介し、ちょっとお話をしたり、物販の紹介をさせていただいたり。ここまではよかった。でも感情は急にやってくる。それは私がこう叫んだ時。「最後にこの山田ジャパンを作った、この会場のどこかにいるであろう山田能龍にも大きな拍手をお願いいたします!」会場は割れんばかりの拍手。

ああ、こんな凄い拍手をいただけるようになったんだなぁ。以前もお話しましたが、元々能龍さんとは芸人仲間として出会い。私の「舞台やりたい!」と能龍さんの「劇団作る!」が嘘みたいに同じタイミングでつながり。「一緒にやっていこう」の握手から10年。1回1回の公演でだっていろいろあるんですから、そりゃあ10年の歴史振り返ったら数え切れないほどの出来事があったわけで。だから“山田能龍”って言った瞬間、グワッとこみ上げてくるものがありました。でもそんな10年の締めくくりだからこそ泣かずにしっかり挨拶せねば。めっちゃくちゃ我慢して踏ん張って叫びました。
「ありがとうございました!」

記事になっていた能龍さんのインタビューの言葉。「結成の時に新宿の安居酒屋で『どうせいつかバラバラになったとしても、今日みんなで握手したことは覚えておこうな』と話したことを覚えています。」私も覚えています。忘れない。あの時の気持ちを胸にまだまだ進む山田ジャパンをこれからもよろしくお願いいたします。あ、結局打ち上げでワンワン泣いたのは内緒で。

【本日の乾杯】
舞台が全て終わった後、疲れすぎて何も喉を通らず。でもほんの少しでよいのでリセットしたい。そんな時、前にロケ先で買ったウニをお気に入りの小皿にとって。日本酒ロックを1杯だけゆっくり呑む。リセット終了。よい時間。
 

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いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

寂しいだか、楽しいだか、よくわからないけど、日々、一生懸命生きてます。 人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。

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