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前進する日もしない日も

2019.07.08 更新

エシレバターの焼き菓子益田ミリ

ちょっとしたプレゼントというものがある。

ちょっとしたプレゼントというのはちょっとしたお菓子である場合が多い。

ちょっとしたお菓子ではあるが、ちょっとしていないお菓子をもらうこともある。今はもうこの工房だけでしか作られていないおばあさんのお菓子とか、駅からめちゃくちゃ遠い店のお菓子とか。

わたしもたまに買う。最近、張り切って買ったのはエシレバターの焼き菓子。新宿伊勢丹の地下のお店では夕方に行くといつも売り切れていた。

ある日、ちょうど昼間に打ち合せがあり、

「きた、チャンス!」

メトロに乗って買いに寄ったのだった。

 

エシレの焼き菓子は店頭にまだ充分あったのに、気が急いてあれもこれも。「明日会う人用」「2日後に会う人用」のためのちょっとしたお菓子のはずが、「いつか会う人用」「自分用」へと拡大し紙袋はパンパンに……。

 

どこにでも売っているちょっとした(平凡な)お菓子なのに、どんなお菓子よりもうれしかったお菓子がある。好きだった男子がくれた小さなチョコレートのセット。わたしだけにくれたわけではなかったけれど、うれしくて勉強机に飾っていた。結局、あれは最後どうしたのだろう? 食べたのか、それとも賞味期限が過ぎて食べなかったのか。

「ちょっとした思い出だよ。彼がどんな大人になっているのかさえ興味ないんだよ」

あの頃のわたしに笑って伝えたら、あの頃のわたしはがっかりするだろう。

「ずっと好きでいてほしかった!」

怒って泣き出すかもしれない。

彼女の涙をふいてやりながら、恋って眩しいなぁ~と今のわたしもちょっと泣いてしまいそうである。

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前進する日もしない日も

仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に漫画「すーちゃん」シリーズ、『週末、森で』『きみの隣りで』『世界は終わらない』『今日の人生』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『泣き虫チエ子さん』などがある。またエッセイ『女という生きもの』『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』や、絵本『月火水木金銀土日 銀曜日はなにしよう?』(共著)など、ジャンルを超えて活躍する。最新刊は小説『一度だけ』。

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