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病的に自分が好きな人

2019.05.14 公開 ツイート

インターネットに生息する「妙に偉そうな人たち」の正体 榎本博明

根拠のない自信がありすぎる。相手の都合や気持ちは眼中にない。プライドが傷つきやすい。ホンネで話せる友だちがいない。イラッとするとツイッターでつぶやく……あなたのまわりにも、こんな人はいませんか? いま、自分のことしか考えられない「自分大好き人間」が急増しています。そんな彼らの心理メカニズムを徹底解明したのが、心理学者、榎本博明先生の『病的に自分が好きな人』。本書の一部をダイジェストでお送りします。

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誰でも「情報発信者」になれる時代

かつては不特定多数の人々への情報の発信は、マスメディア関係者にかぎられていた。

(写真:iStock.com/kimberrywood)

マスメディアが取り上げ、発言権を得られるのも、各界の専門家や顕著な実績を残した人物にかぎられ、ときに街頭インタビューのように一般の人々の声が発信されることはあっても、それはマスメディア関係者の主導のもとに行われた。

インターネットは、マスメディア関係者が独占していた情報発信の権利を一般の人々に開放した。インターネットを使えば、特派員でも何でもない、ごくふつうの個人が、日本中、世界中の人々に対して、情報を発信することができる

これによって統治者に都合のよい情報のコントロールが難しくなり、多くの国々の統治者を脅かしているといった側面もある。ある意味では、民主化の力になっているといったメリットがある。

だが一方では、異常に考え方の偏った人物が勝手な自己主張を流したり、感情的になった人物がきわめて歪んだ攻撃的な情報を流したりするといったデメリットもある。

そのような発信の権利を得たことによる自己効力感の肥大化は、とどまるところを知らない。プロとアマの区別がなくなり、その気になれば、だれもがプロであるかのようなコメントを発信することができるようになった。

文学賞を受賞した人物をニュースで見て、ちょっと反感をもった人が、その人物の作品を酷評するコメントを書き込む。じつは、書き込んだ人物は、その作品を読んだことがないばかりでなく、ふだんから文学などにまったく無縁だったりする。

野球中継を見ていて、応援しているチームが思うように力を発揮せずにイライラしてくると、解説者まがいに投手や打者を、したり顔で酷評する書き込みをする。

元プロ野球で活躍し、現役選手よりも経験豊かな解説者と違って、草野球さえ経験のない単なるプロ野球ファンが、自分より経験も能力も実績もはるかにまさる選手たちを上から目線で酷評するのである。しかも、だれもが読めるようなメディアに発信する。

なぜそこまで偉そうなのか?

かつてなら実績や能力からして論じる資格がないということで相手にされなかったような素人でも、専門家気取りで上から目線の論評をすることができる。それも世界中の人々に向けて発信できるのだ。

(写真:iStock.com/DragonImages)

このような発信権を手にしたことで、現代人の「自分大好き」度合は、自己効力感という形でみるみる肥大化していく。この万能感の幻想が、傍若無人の態度を助長する。

「自分大好き」の度合が肥大化しすぎて見失われがちなのが、相手の立場に立つという姿勢である。

先の例でいえば、その作家が思い通りにならない現実の中でいかに苦労を重ねてきたか、逆境を乗り越えるために頼れるのは自分の能力だけだと信じてどんな努力をしてきたか、書いても書いても限界を突き抜けることのできない日々をどんな思いで乗り切ってきたか、そんなことには一切お構いなしに、無責任な態度で一刀両断に切り捨てるようなコメントをする。

あるいは、その選手が血の滲むような過酷なトレーニングの末にやっとチャンスをつかんだこと、それでもすぐに限界にぶちあたり、今スランプを何とか乗り越えようと人生を賭けるつもりでフォームの改造に取り組んでいること、そんな必死な相手に対して、何も知らない素人が上から目線でこき下ろすようなコメントを発する。

他人の事情や気持ちなど関係ない。大切なのは自分がどう思い、どう感じるかだけ。この種の共感性の欠如や、自分自身を神の如くに過大視したコメントが世に溢れている。こうした風潮も、自分大好き人間を大量に生み出す元凶となっている。

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病的に自分が好きな人

根拠のない自信がありすぎる。相手の都合や気持ちは眼中にない。プライドが傷つきやすい。ホンネで話せる友だちがいない。イラッとするとツイッターでつぶやく……あなたのまわりにも、こんな人はいませんか? いま、自分のことしか考えられない「自分大好き人間」が急増しています。そんな彼らの心理メカニズムを徹底解明したのが、心理学者、榎本博明先生の『病的に自分が好きな人』。本書の一部をダイジェストでお送りします。

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榎本博明

心理学博士。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、大阪大学大学院助教授などを歴任。現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演などを行う。 主な著書に、『病的に自分が好きな人』(幻冬舎新書)、『薄っぺらいのに自信満々な人』『「上から目線」の構造』(日経プレミアシリーズ)、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)、『「過剰反応」社会の悪夢』(角川新書)、『モチベーションの新法則』(日経文庫)、『<自分らしさ>って何だろう?』(ちくまプリマー新書)などがある。

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