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美智子さまという奇跡

2019.04.18 公開 ツイート

令和の天皇皇后両陛下には「皇室の当事者研究」をお願いしたい 斎藤環/矢部万紀子

宮中祭祀、春季皇霊祭の儀・同神殿祭の儀(平成21年3月)(宮内庁HPより)

雅子さまの病気は、戦争のような生存の危機を体験していない世代が、生きる意味を見失って苦しむ「実存のうつ」だったと、精神科医の斎藤環さん。では、新しい時代の天皇皇后両陛下にとっての実存となりうるテーマは何なのか? そして、新しい天皇皇后両陛下への大胆な提案とは? 斎藤環さんと『美智子さまという奇跡』著者のコラムニスト・矢部万紀子さんの対談、後編です。

*   *   *

「研鑽」に努めてしまう、まじめなお二人

矢部 拙著『美智子さまという奇跡』にも書きましたが、両陛下が戦争をテーマとされる切実さが、皇太子ご夫妻にはないのです。そうなると、新しい時代の天皇皇后は、何をテーマとするのか。それが実存となるわけですよね。

斎藤 平和への願いは変わらないでしょうが。切実さで言うと、やはり被災地へのお見舞いでしょうか。

矢部 それだけを引き継ぐとなると……。

斎藤 ですが、格差問題などと言うと政治になってしまう。(皇太子が長くテーマにしている)水問題も、水道民営化という話になれば政治になってしまう。

矢部 広く環境問題ととらえることもできますが、そうなると「原発は?」といったことも出てきて、やはり政治に近づいてしまいますね。雅子さまについて言えば、皇后という地位についたら元気になって、ハッピーになるという見方をする人もいます。

斎藤 実存は中身であって、地位では埋められないんですよ。やはり何を自分のテーマとするか。

矢部 被災地に行き、涙を流して喜んでくれる国民がいれば、それは来てよかったと思いますよね。

斎藤 それは思うでしょう。ただ、彼女のポテンシャルを生かし切る場面ではないですよね。そこをどうするか?

矢部 彼女が望んだ皇室外交も、やはり難しい状況は変わらないと思います。そもそも皇室は行きたくて外国に行くのではない、招かれて行くのだと言う人もいます。

斎藤 確かに、行くからには大義名分が必要ですよね。そうなると翻訳ですか。フランス語も自在でしょうから。

矢部 日本語を英語にするのも得意でいらっしゃる。ただそういうことも、体力、気力がそろわないといけないでしょうが。

斎藤 やり甲斐を感じれば、かなり頑張れると思うんです。人が健康になるのは、やはり自分が持っている能力を生かしている時だと私は思っているんで。

矢部 雅子さまが完全に回復される日は、来るのでしょうか?

斎藤 心の病の場合、先に回復と言える状況になってからでないと、回復とは言えないんです。公務を全部こなしました、宮中祭祀も完璧です。そういう状況になれば、ご回復と言えるかもしれません。体の病と違って心の病は、はい回復しました、今日からなんでもやってください、とはならないんです。

矢部 となると、少しずつ公務や祭祀の数を増やしていくしかないのですね。何かゴールのない旅のように感じます。私なら嫌になってしまいますが、皇太子ご夫妻はすごくまじめなんですよ。雅子さまは2018年12月、2019年2月が皇太子さまとお誕生日を迎えられ、文書と記者会見で所感を公表されましたが、共通する言葉が「研鑽」でした。研鑽に努める、と二人ともおっしゃって。

斎藤 皇室を「研鑽しなくていい方向に変えます」と言えばいいのに。

矢部 むしろ逆で、天皇と皇后を見習ってますます頑張ります、だと思います。

矢部万紀子『美智子さまという奇跡』

1959(昭和34)年、初の民間出身皇太子妃となった美智子さま。 その美しさと聡明さで空前のミッチーブームが起き、 皇后即位後も、戦跡や被災地を幾度となく訪れ、ますます国民の敬愛を集められます。 美智子さまは、まさに戦後の皇室を救った“奇跡”でした。 ですが、奇跡は、たびたび起こることがないから、奇跡と言われます。 今私たちの目に映るのは、雅子さまの心の病や眞子さまの結婚問題等、 次の世代の方々が、世間にありふれた悩みを抱えている姿です。 美智子さまの退位と共に、皇室が「特別な存在」 「すばらしい家族」である時代も終わるのでしょうか? 皇室報道に長く携わった著者が「奇跡の軌跡」をたどる、等身大の皇室論です。

 

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美智子さまという奇跡

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斎藤環 精神科医

1961年、岩手県生まれ。医学博士。筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、精神分析、精神療法。「ひきこもり」ならびに、フィンランド発祥のケアの手法・思想である「オープン・ダイアローグ」の啓蒙活動に精力的に取り組む。漫画・映画などのサブカルチャー愛好家としても知られる。主な著書に『戦闘美少女の精神分析』『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』(以上、ちくま文庫)、『アーティストは境界線上で踊る』(みすず書房)、『「社会的うつ病」の治し方』(新潮選書)、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川文庫)、『承認をめぐる病』(日本評論社)、『人間にとって健康とは何か』(PHP新書)、『オープンダイアローグとは何か』(医学書院)などがある。

矢部万紀子 コラムニスト

1961年三重県生まれ。コラムニスト。83年朝日新聞社に入社し、記者に。宇都宮支局、学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。94年、95年、「週刊朝日」で担当したコラムをまとめた松本人志『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)がミリオンセラーになる。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理をつとめたのち、書籍編集部で部長をつとめ、2011年、朝日新聞社を退社。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長となる。17年に株式会社ハルメクを退社し、フリーランスで各種メディアに寄稿している。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。

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