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歌のち歌、ときどき旅

2019.04.01 公開 ツイート

まだまだ行くよエッセイ103

プラネタリウムで歌ったときの大事件!? 歌う旅人・香川裕光

旅するアーティスト香川さんが、このたびプラネタリウムでライブをしたんだそうです。
どんな感じなんでしょうね~!
なかなかにワクワク、ハラハラするその様子をお楽しみください!

消えた大三角

ここ最近は月1くらいの頻度になってしまったこのエッセイ。すっかり春が来てしまった。春は好きだ。太陽に温められた風を浴びて、早くも梅の花が開いていたり、それを嬉しそうにウグイスが飛び移っていたり、保育園児が列になってお散歩をしていたり。「ふふっ」と笑いが零れるようなシチュエーションにもチラチラ出逢える。……という原稿をやりとりしている間に、すっかり桜も咲いてしまった。

旅の荷物も、かさばるニットやコートは持たず身軽だ。身体が軽いと、心も軽くなって瞬発力が増す。春のうちにやりたいことが山ほどある。

 

こんなおじいちゃんみたいな感情に浸れるのも、少しは“大人”になったということなんだろうか。受験シーズンに参考書を抱えて電車に揺られていた、あの学生達。結果はどうだったのだろう。春は訪れたのだろうか。

そんな僕は、実は「受験」というものをこれまで1度も経験したことがない。地元の小学校へ通い、市立の中学校を見事3年で卒業。その後“1番楽して入学できそうな公立高校“へ、推薦入試で合格し進学した。当時の推薦入試は、作文と面接だけで、どちらも得意分野だったため特に努力をした覚えもない。

入学したのは工業高校で、在学中、まともに勉学に励んだ覚えがない。卒業後はミュージシャンを目指して上京するつもりだったし、勉強する暇があればギターを弾いたり曲を書いたりしなければと、憑りつかれたように練習していた。

なので、受験勉強はおろか、定期試験の勉強すらしていない怠け者であった。今思えば、頭が悪くて当然である。良い子のみんなは真似しないように。しかしまぁ、音楽と男友達に囲まれた良い青春時代だったと、懐かしく思っている。

(写真:iStock.com/ClaudioVentrella)

先月の半ばに、珍しい場所で唄わせてもらった。

どこなのかというと、それは地球から何千億光年も先にある場所。我々の生きるこの太陽系を含む “天の川銀河”さえも飛び出して、いうならば“宇宙の端”で唄ったのである。

もちろん、本当に宇宙旅行をしたわけではない。それは「プラネタリウム」のステージだった。

以前からずっと歌ってみたかった場所だったので、プラネタリウムの事務局へ自ら直談判に行き、実現させてもらったコンサートだった。「満天の星空と音楽のコラボ」というヤツだ。

僕は星や宇宙がとにかく好きで、わざわざ島根の山奥の天体観測場まで行き、震えながら天体望遠鏡を覗き込んだこともあれば、ハワイの山の頂上で星空観察をしてみたこともあり、これまでたくさんの星空へのロマンを語ってきたつもりである。プラネタリウムの星空は、もちろん人工的なものではあるが、その美しさは侮れない。むしろ、自然では再現不可能な最上の星空を年中愉しむことができるわけだから、そんな場所で唄が歌えたら、きっと歌っているこっちも最高の気分になれるに違いない。

プラネタリウムでのコンサートは、我々演者と“星空を操作するスタッフ”の方との連携プレーで作りあげる。たとえば、「ブレイク」と呼ばれる曲のアクセントのタイミングで、箒星が頭上を流れるような演出も可能だ。より素晴らしいステージにできるよう、緻密な打ち合わせとリハーサルのもと、コンサートを作り上げていった。

すごいのは、最新のプラネタリウムのシステムだ。ドーム状いっぱいに広がるスクリーンに星空を映し出されるわけだが、そこにあるどんな星にも実際に行くことができる。いうならば宇宙版の「Google Earth」である。専用のソフトを設定するだけで、この宇宙のどんな場所までも、実際に3D映像で簡単に連れていってくれる。実際に僕も行ってみたら、光のスピードでも何千億年もかかるような場所でも、ひとっとびだ。そのスケールと、美しさに、演奏も上の空になるくらい見入ってしまった。

しかし難しいのは「真っ暗闇の中で演奏をしなければならない」ということだった。譜面はおろか、自分の手元さえも良く見えない。ライトを点けるとその灯りが星空に影響してしまうからだ。唯一、星に影響を及ぼさない“赤いランプ”でぼんやり照らしながら、“勘で演奏する”しかない。

そしてせっかくならと、今回は歌の合間で簡単な“星空紹介”をやらせてもらうことにした。

事前に用紙してもらった原稿を僕がゆっくり読むと、それに合わせて星と星を線で繋いだり、星座を映し出したりしてくれるのである。僕はできるだけ、「森本レオ」ばりの囁くようなウィスパーボイスに努めることにした。

しかし、この星空紹介の原稿がひじょ~~~に曲者だった。

あんまり聞き馴染みのない名前が多い。「プロキオン」なんだか「ブロキオン」なんだか。アルテミスだの、ベテルギウスだの。とにかく、覚えにくいワードが満載だ。

子ども達もくるし、ここは大人として間違ったことを教えてしまうわけにはいかない。事前に何度も練習して、台本にも“赤文字”で読み仮名や、印をたくさんつけておいた。ここまで準備したのだから、原稿を読むだけだし、なんとかなるはずだ。

 

そして本番、滞りなくステージは進み、ついに「星空紹介コーナー」となった。緊張は最高潮。大丈夫。きっとうまくいく。

しかし、譜面台に置いていた台本を見たとき、僕は声を失った。

なんと、赤いライトに照らされた台本からは、メモした“赤文字”がキレイさっぱり“消えていた”のだった。受験生なら誰もが経験するであろう英語単語帳と赤い下敷きの効果と同じ原理である。

なるほど、そうか、そういうことか。やはりちゃんと受験勉強しておくんだった。こんなことになるとは。英語の栗栖先生、あの頃は英語の授業だからいいだろうと「ハリーポッター(日本語版)」ばっかり読んでてごめんなさい。

ぼんやり映し出された原稿に目を凝らしながら、僕は濁点だか半濁点だかわからない言葉については“どっちとも聞き取れる曖昧な言い方で誤魔化す”という強行に出た。

大丈夫バレてない。あと少しだ。

 

しかし、安心した矢先のことだった。

 

 

「この星たちを線で繋ぐと浮かび上がるのが……」

 

「冬の大四角形です…!!」

 

おもいっきり三角形を四角形と読み間違えて読んいた。

星空には美しい三角形が浮かび上がっている。

会場の客さんの姿は暗闇で見えないが、三角形というか「?」が頭上に浮かんでいるのが見んでもわかる。やってしまった……。

 

なんとなくウヤムヤにしながら、プラネタリウムのコンサートは幕を下ろした。小さな失敗も多少あったかもしれないが、スタッフや演奏者とのチームワークで乗り越え、素晴らしい時間を作り出すことができたはずだ。

何億光年も向こうの宇宙の話である。実際にそこに、本当に星が存在しているのかどうかは、行ってみないとわからない。我々が今夜も目に映している光は、過去から放たれた光なのだ。

「正解なんて本当は存在しないのだ」と森本レオばりの良い声で呟いて誤魔化してやろうと思う。

 

・・・・・。

 

いやほんとすみませんでしたー!!!

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歌のち歌、ときどき旅

旅するシンガーソングライター香川裕光は、今日もギター片手に、日本のどこかで(ときどき海外で)、歌ったり笑ったり食べたりしています!

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歌う旅人・香川裕光

1986年広島県生まれ。20代前半の頃は重度障害者のための介護施設に勤め、介護の仕事の傍らで、ギターを持って歌っていた。この施設で、歌が人の心の奥に強く鋭く届くことに感動し、もっと多くの人に歌を聴いてほしいと一念発起。日本中を旅しながら、ライブを続けるように。そんなとき、TBS系列で深夜の時間帯に放映されていたオーディションバラエティ番組「Sing!Sing!Sing!」に、「他薦」されて出演したところ、審査員の高評価を得る。結果的に、最終決戦の場である「歌王」出演に至り、そこでグランプリに選ばれた。 

全国各地にて年間150本以上のライブ活動を行いつつ、広島のラジオ番組でDJもこなす。YouTube配信にて、オリジナルやカバー曲の動画を200本以上アップ。チャンネル登録者は1万人を超えている。映画『ケアニン~あなたでよかった~』の主題歌『星降る夜に』書き下ろし、世界遺産・嚴島神社高舞台での単独の奉納コンサートなども。

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