1. Home
  2. 生き方
  3. 歌のち歌、ときどき旅
  4. 沖縄で結婚式することになったけど、おじい...

歌のち歌、ときどき旅

2018.12.25 更新

まだまだ行くよエッセイ101

沖縄で結婚式することになったけど、おじいちゃんは搭乗ゲートを抜けられるか!?歌う旅人・香川裕光

前回連載100回目だったので、今回は101回目です。
最近、香川さんは『カメラを止めるな!』を観たようですが、今回のエッセイタイトルの「ゴミを捨てるな!」ゾンビ映画とは無縁の、ほのぼの家族のエピソードです。

* * *

ゴミを捨てるな!

ハワイからの帰りに、機内でひたすら映画を観た。8時間半の長時間フライトとなれば、どう考えても映画三昧だ。
最近の“機内映画”ってすごい。なかなかの最新作を観ることができる。観たかったけど映画館へ行けていなかった『レディ・プレイヤー1』『デッドプール2』『万引き家族』などを一気に愉しむことができた。なんて快適なんだ!

 

そんな中、「おーー!!これ入っとんかーーー!!」と歓喜したのは、これまた見逃してしまっていた映画『カメラを止めるな!』だった。
無名の役者のみで制作された、いわゆる“B級映画”。予算は300万円。単館上映から口コミで“空前絶後の大ヒット”となり興業収入30億円以上に。関係者も口を揃えて「あれはおもしろい!!絶対観るべき!!」と絶賛の映画だ。ところが不思議なことに、観た人に「どんな映画なの?」と聞いても、全員が「うまく説明できない。とにかく観て」としか教えてくれない。ポスターから見るにゾンビ系ホラー?って感じだったが、どうやら普通のゾンビ映画とはひと味違うらしい。

ということでとにかく観てみた。

〈「カメラを止めるな!」視聴中〉
なるほど・・・。プッ・・・!え、これ・・・?わ!びっくりした。いや、ん・・・?なんか、しょぼくない??あ、もう終わり・・・?ん!? あ・・・。へーー!! ふむふむ。あっはっはっは!!!
おーーーーー!!!!あーーーー!!!!!あっはっはっはっはっは!!!グスン・・・。

いやぁ素晴らしい。確かにこれは説明できない。説明するとネタバレに繋がるし、「とにかく観てみて」と言っていた友人の気持ちがようやく分かった。あえていうなら、“様々な視点で愉しむことのできる映画”だ。あまり今までにないというか、映画好きにはたまらないゾンビ映画なのかもしれない。おすすめである。

(写真:iStock.com/kokoroyuki)

さて、101回目の原稿である。本当は前回の100回目のときに今回の原稿を入れようかと思っていたのだけれど、ハワイの星空のことも書きたかったというのもあるし、あえて“地味な101回目”にしたかった旅話がある。
実は、私事になるが、先月の終わりに、沖縄で“結婚式”を挙げた。いわゆる“リゾ婚”というヤツである。あんまり派手に人を集めて盛大な式をするより、家族と、ほんの少しの友人だけで、ささやかな式を挙げたくて、そうさせて頂いた。

実は僕は、生まれて此の方1回も“家族旅行”というものをしたことがなかった。もちろん夏にキャンプに出かけたり、親戚の家に泊まりに行ったりくらいはしていたけれど、家族みんなで旅館に泊まったり、飛行機で出かけてホテルに泊まったりなんて、したことがなかったのだ。
僕の祖父母は齢80歳を越え、まだまだ元気だが、こんな機会でもないと、旅行を一緒にできる機会は、もうないかもしれない。妻も快く了承してくれたこともあって、1年くらい前から、会場の下見や式の準備を進めていたのである。

ただし、問題があった。
うちの祖父は生真面目で、若いときから仕事にばかり打ち込んできた堅物で、遊びを知らない。80年以上生きてきて、沖縄に行ったこともなければ、飛行機に乗ったこともないらしい。離着陸の衝撃でびっくりして心臓が止まったりしないだろうか。
「わしゃ、飛行機なんて恐ろしくて乗れん。船で行く」
の一点張りだ。
なんとか家族みんなで説得して、飛行機に搭乗させようとするも、
「わしゃ、足にボルトが入っとるけ、ゲートで止められて乗れん」
と出発口で青ざめている。最近の搭乗ゲートは技術が進んでいるのか、ベルトや腕時計も、わざわざ外さなくても大丈夫なことが増えたんじゃなかったか。じじいのボルトくらいで足止めはされないはず・・・。

恐る恐る目を閉じながらゲートを潜った祖父は、何事もなく搭乗口へと足を運ぶことができた。

しかし、その直後にばーちゃんの方が引っかかった。こっちにもボルト!?と思ったが、スマホをポケットに入れっぱなしにしていたらしい。ばーちゃんは特に焦ることもなく、テキパキと対応を済ませると、搭乗口へ足を運んだ。祖父とは正反対に、うちの祖母は、スマホやタブレットも使いこなすコンピューターおばあちゃんなのである!

離陸のタイミングで祖父は青ざめていたが、フライト中に体調が悪くなったりすることもなく、一同は無事、沖縄へ辿りつくことができた。あー良かった。

沖縄へ初めて来たということは、祖父母にとって“青い海”を観るのが初めてなんじゃないだろうか。
広島の瀬戸内海や、島根の日本海もそれはそれで美しいが、珊瑚礁が織りなす蒼い海は、またひと味違う魅力がある。
さらに、沖縄料理や、美ら海水族館や、初体験がたくさんあることだろう。80歳を越えて、新しいことを体験できるってなんだか素敵だ。なんていい孫なんだ、自分。まだ見ぬ僕の孫よ、そこんとこどうかよろしく。

沖縄の北部に、「古宇利大橋(こうりおおはし)」という絶景スポットがある。その景色を祖父母に見せたくてレンタカーで向かった。エメラルドグリーンの海がどこまでも広がり、沖縄ならではの美しい風景が、僕らを祝福してくれている。11月でも暖かい湿った風をきりながら、レンタカーは走る。

祖父母は18歳で結婚して、すぐに父が誕生した。
祖母は米や野菜作り、祖父は探鉱で真っ黒になりながら、3人の子ども達を養うため、懸命に働いたらしい。
その後も、造船工場で貨物船を作る仕事をしたり、トラックの運転手をやったり、今は島根の田舎でのんびり農業をやっているが、それはそれは、たいへんな人生だったのだろう。どうしようもない壁にも、なんどもぶち当たってきたに違いない。
生真面目で、厳しくて、怖いじいちゃんだったけれど、今はすっかり角が取れて、ニコニコしているし、ちょっとしたことですぐ涙を流す。

「じーちゃん、どうよ?蒼くて綺麗じゃろう」

助手席に座る祖父に誇らしげに問いかける。
車窓に描かれた蒼いパノラマでは満足できなかったのか、祖父はおもむろに窓を開けた。沖縄の風を感じながら、きっと80年間のあれこれが走馬灯のように巡っているのだろう。まだ32年しか生きていない僕には、今の祖父の気持ちは理解できない。

祖父は窓を全開にして、当然のような顔でさっきまで食べてた「ちんすこう」のゴミを外に投げ捨てた。
そうそうそう。ちんすこうの亡骸は沖縄の海に還してっと・・・

ってコラ!!!
「ゴミを捨てるなー!」

都会の人が田舎に行くと、「この美しい自然を守らなければ」という気持ちが生まれ、ゴミを拾ったりするらしいが、逆に普段から自然が美しい田舎に住む人ほど、意外と平気でゴミ捨てたりするヤツがいるらしい。
いやあかんあかん!!

海の女神が怒ったのだろう。
助手席から投げた祖父のゴミは、風圧で押し戻され、後部座席に座る祖母の顔面に直撃した。
ヘラヘラ笑う祖父と、プンプン怒る祖母。
僕も含め、みんな歳を取ったけど、変わらない大切な「家族」である。

祖父母と、父と母、姉弟。そして一生懸命式場や全家族分の飛行機とホテルを手配してくれた愛する妻と、そのご両親、ご家族。沖縄まで駆けつけてくれた仲間達。
みんなへの感謝を胸に抱きながら眺めた海は、僕の人生32年間の中で1番蒼く、美しく想えた。
あと68年くらいはこの家族と生きていたい。(いや、全員は無理か。笑)
じーちゃん、ばーちゃん、長生きしてよ!

関連キーワード

{ この記事をシェアする }

歌のち歌、ときどき旅

旅するシンガーソングライター香川裕光は、今日もギター片手に、日本のどこかで(ときどき海外で)、歌ったり笑ったり食べたりしています!

バックナンバー

歌う旅人・香川裕光

1986年広島県生まれ。20代前半の頃は重度障害者のための介護施設に勤め、介護の仕事の傍らで、ギターを持って歌っていた。この施設で、歌が人の心の奥に強く鋭く届くことに感動し、もっと多くの人に歌を聴いてほしいと一念発起。日本中を旅しながら、ライブを続けるように。そんなとき、TBS系列で深夜の時間帯に放映されていたオーディションバラエティ番組「Sing!Sing!Sing!」に、「他薦」されて出演したところ、審査員の高評価を得る。結果的に、最終決戦の場である「歌王」出演に至り、そこでグランプリに選ばれた。 
全国各地にて年間150本以上のライブ活動を行いつつ、広島のラジオ番組でDJもこなす。YouTube配信にて、オリジナルやカバー曲の動画を200本以上アップ。チャンネル登録者は8300人を超えている。

最新情報はこちら:公式HP
Facebook

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP