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サカナとヤクザ

2019.01.21 更新 ツイート

業界最大のタブー、ウナギをめぐる深い闇鈴木智彦

「まだ読んでないの?」と話題のノンフィクション、鈴木智彦さんの『サカナとヤクザ――暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館)から読みどころをお届けする最終回。市場に出回る品の3分の2が密漁・密流通とも言われる、密漁ビジネスの闇中の闇・ウナギ業界の暗部に迫ります。

記事の終わりに、鈴木智彦さんトークイベントのご案内があります。

(写真:iStock.com/kuri2000)

*  *  *

ウナギを食べるのはパンダを食べるのと同じ?

平成26年、ウナギショックが日本を席巻した。

ニホンウナギがIUCN(国際自然保護連合)の絶滅危惧種I Bに指定され、夏の風物詩である土用の丑の日を控えた時期の発表だったことも重なって、日本人が「近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い」種を大量消費していると大騒ぎになったのである。同じ分類にはジャイアント・パンダやアジアゾウなどがいる。

「パンダのように稀少な生き物を食べているのか」

と不安になった人もいるだろう。

実際、日本人は世界のウナギを食い尽くしてきた。安価なウナギの供給源は中国の養鰻(ようまん)池で飼育されるヨーロッパウナギだった。大手の商社・水産業者はどんどん中国の養鰻場を拡張し、稚魚であるシラスウナギを輸入して、活鰻や蒲焼きを輸出していた。ウナギはファスト・フード化し、コンビニや牛丼のチェーン店などでも提供されるようになっていった。東京にもヨーロッパウナギを提供していた老舗がある。

平成20年、激減したヨーロッパウナギはニホンウナギに先んじて絶滅危惧種I A類に指定された。最も深刻な評価だった。翌21年にはワシントン条約の附属書II にも載り、許可なしでの取引が禁止された。EU(欧州連合)は域外との取引を全面的に禁止しているので、原則、全面禁輸といっていい。

ヨーロッパウナギが入手できなくなったことで、日本向けにウナギを養殖している業者はアメリカウナギや東南アジアのビカーラ種で代用しようと試行錯誤を続けた。絶滅すれば次のウナギ……そこにヨーロッパウナギを食い尽くしてしまった過去に対する反省はなかった。

しかし、アメリカウナギはニホンウナギと同じI B指定であり、ビカーラ種もまた準絶滅危惧種である。なにより異種ウナギには養殖のノウハウがなく、共食いなどで歩留まりが悪い上、そもそも味が落ちる。ベンチャー企業などが乗り出した異種ウナギ養鰻は下火となり、需要はニホンウナギに回帰した。

水面下では激しいウナギ獲得合戦が繰り広げられた。絶滅危惧種騒動翌年の平成27年から、怪しげなシラス・ブローカーが暗躍するようになり、知り合いの稲川会系組長から「東南アジアからのシラスウナギがあるんだけど売り先を知らないか?」と電話がかかってきたこともあった。

この頃、大手養鰻業者にも見ず知らずの素人から「シラスを買って欲しい」という電話が相次いだという。絶滅危惧種ビジネスは年々加速していくことになる。

最初はウナギ研究を専門にしている中央大学の海部健三准教授にコンタクトをとった。ウナギの生態研究者であるにもかかわらず、『Kaifu Lab』というサイトを立ち上げ、業界の不透明性を指摘、ウナギの保護を強く提唱している。

「ウナギが絶滅危惧種指定を受けるまで減少したのは、乱獲、生育域である河川環境の変化、海流など様々な原因が考えられます。我々にとって最も困るのは正確なデータがないことです。まずはそこから始めなければならない」

絶滅の危機が叫ばれるようになってもデータすらないのは、これまで何の対策もしてこなかったということである。水産庁が公表している統計もひどくいい加減で、正確な判断が出来ないらしい。暴力団の関与についても、各地でよく話を聞くという。研究者の耳に入るほど、ウナギ業界の暗部は広く知られた話なのだ。

(写真:iStock.com/izumi yokoduka)

「深く斬り込むと東京湾に浮かびますよ」

ブローカーの手を借りなければ集まらないシラスウナギ……これを補填するのが海外ルートである。ネットに公開されている財務省の統計品別国別税関一覧表で、ウナギ(稚魚)の品目コードを入力し、たとえば平成26年の輸入量を検索すると、韓国、中国、フィリピン、インドネシアなどの出荷国が示される。

その中で突出しているのが、約5トンを輸出する香港だ。香港は土地が狭く、シラスが遡上するような大きな河川もない。シラス漁師もいない。ではなぜ香港からシラスが入ってくるのか。実を言えば、ウナギ業界最大の不正はここにある。

台湾は平成19年にシラスを輸出禁止にした。11月から3月までではあるが、この時期以降、シラスは獲れないので実質全面禁輸である。禁輸前の平成18年のシラス輸入元を、先ほどの統計品別国別税関一覧表で調べると、香港からはゼロで、台湾からが4・5トンと現在の香港からとほぼ同数になる。

つまり香港産のシラスは、台湾から金門島を経由するなどして中国に密輸され、香港に運ばれたものということになる。

密輸の黒幕は日本のシラス問屋、シラス問屋にオーダーを出しているのは養鰻業者だ

「香港のシラスは何度も移動してストレスがかかってるはずなのに生存率がいい。価格平均は国内価格の2割増しになるが、シラスがない以上背に腹は替えられない。シラス業者に頼んで香港から運んでもらう」(宮崎県内の養鰻場経営者)

シラスのシーズンになると、大手養鰻業者の経営者が大挙して台湾にやってくる。それぞれの地区を仕切る実力者を接待し、自分たちの取り分を確保するのだ。  匿名を条件にシラス業者はこう打ち明ける。

「マフィアのボスもいますよ。台湾は顔の社会。頻繁に台湾に出向いて交流を深めるんです。密輸出するのはそう難しくない。台湾にも裏と表の業者がいるけど、暴力団ほど付き合いにくくありません」

業界誌記者からは、「台湾・香港ルートに深く斬り込むと東京湾に浮かびますよ」とマンガチックな忠告を受けた。

「マフィアが絡んでいるのは明らか。香港に着くと窓を目張りした車でシラス池に連れて行かれるらしい。映像が撮れれば大スクープ」

大手テレビ局のウナギ番記者も危険な取材と断言する。

まずは偽iPhoneの中国工場に潜入した腕利きの取材コーディネーターと連絡を取って下調べしたが掴めなかった。香港中を探してもシラスを売ってる業者などいないというのだ。韓国系のマフィアという噂もある。

日本でも公開されたキム・ギドク製作総指揮の『鰻の男』は、中国の養鰻業者が鰻を韓国に密輸する作品だ。韓国の現況を考えると、あり得ない噂と一蹴できない。

レッドリスト指定後、ワシントン条約の附属書に記載される恐れが生まれ、危機感を持った水産庁も重い腰を上げた。養鰻業に届け出を義務付け、平成27年6月に内水面漁業振興法の施行令を改正し、11月以降に新たにウナギ養殖を始める事業者を対象として許可制に移行。池入れのシラス量を前年の8割に削減したのだ。シラスに手をつけられないのは水産庁にも自覚がある。

霞が関に取材に行った際、「(頬に傷を描く仕草で)この人たちは密流通にいますから」と水産庁職員は教えてくれた。官僚が暴力団の関与を認める産業が他にあるだろうか。

ウナギの実情を考えると、行政が池入れに着目したのは正解だったろう。ここで制限するのが最も簡単だからである。が、業者はこれにも裏があるという。

「以前は割り当てをもらうために池入れの量を過大申告していた。調査が入れば死んだと言えばいいだけ。だから2割削減でもそれは過大申告していた分で、本当は前年の10割。削減されたのは実質ゼロです」

水産庁主導で「全日本持続的養鰻機構」を設立し、会費としてシラス1キロ当たり1400円を集め、ワシントン条約逃れのロビー活動をするらしいが、根本的な対応策にはほど遠い。

不正に麻痺したウナギ業界に、これ以上の自浄作用を期待するのは酷だ。そもそも日本では絶滅危惧種を専門店、量販店、牛丼チェーンまでもが提供しており、考えてみれば異様である。ブレーキが機能しない状態では、いつかウナギを食い尽くす。

ワシントン条約で規制されれば、シラスも活鰻も加工品も、原則、一切の国際取引が禁止だ。そうなれば消費者が共犯者になることはなくなる。日本人が土用の丑の日を長く楽しむ最善手かもしれない。

*  *  *

ついにウナギ業界最大の暗部、香港の「立て場」に潜入を果たした著者が見たものは? この続きは書籍『サカナとヤクザ――暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館)でどうぞ。

1月26日(土)14時より、幻冬舎イベントスペースにて鈴木智彦さんのトークイベントを開催します。詳細・お申し込みはこちら幻冬舎大学のページから。
 

鈴木智彦『サカナとヤクザ――暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』

アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大多数が実は密漁品であり、その密漁ビジネスは、暴力団の巨大な資金源となっている。その実態を突き止めるため、築地市場への潜入労働をはじめ、北海道から九州、台湾、香港まで、著者は突撃取材を敢行する。豊洲市場がスタートするいま、日本の食品業界最大のタブーに迫る衝撃のルポである。

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鈴木智彦

1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。週刊誌、実話誌などに広く暴力団関連記事を寄稿する。『サカナとヤクザ』(小学館)、『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文春文庫)、『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)など著書多数。

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