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ダークツーリズム

2018.07.31 更新

人類の悲劇を巡る旅へ井出明

istock/anyaberkut

人類の悲劇を巡る「ダークツーリズム」が世界的に人気だ。7月30日に発売された『ダークツーリズム~悲しみの記憶を巡る旅~』(井出明)は、代表的な日本のダークツーリズムポイントから旅のテクニックまで紹介。未知なる旅を始めよう。

ダークサイドから地域を見る

〝ダークツーリズム〟という言葉を初めて聞いた時に、皆さんはどう感じるだろうか。

 私がこの言葉に出会ったのは、実はそう古い話ではなく、2011(平成23)年8月の小樽が最初であった。この年、小樽商科大学は様々な100周年記念事業を開催しており、その中の一つに国際シンポジウムがあった。

 私は、これからの北海道観光について論じることにしたが、特に強調したのは、「北海道の悲しみの記憶を観光資源として組み直せないか」という問題提起であった。北海道には、囚人労働、アイヌ問題、大戦末期の朝鮮人労働、炭鉱の閉山など悲しい記憶が多くあり、これらを観光資源として使うことができるのであれば、観光に関する新しいパラダイムシフトが生まれると考えていた。

 私がその講演を行った際の質疑応答で、おそらくニュージーランド人の先生が「あなたのやっていることは、Dark tourismと言われていて、海外では盛んに研究されている」と述べられ、初めてダークツーリズムなる概念と出会った。

 考えてみると、私自身、サイパンや沖縄に行けばマリンアクティビティも楽しんだが、同時に戦跡も回っていたし、ウランバートルの学会に出た時は、合間を縫って社会主義政権下における虐殺を学ぶために「政治粛清祈念博物館」を訪れたりしていた。

 ダークツーリズムは「人類の悲劇を巡る旅」と定義される。私は自分の興味の赴くままに旅をしていたのだが、ダークツーリズムという言葉をあてがってみるとこれまでの旅に一本の筋が通ったように感じられた。

 本書は学術書ではなく、基本的に私の実際の旅の足跡を辿るという紀行文の形式を採ってみた。第一章には、「ダークツーリズムとは何か」という総論を置いたが、これに関してもイメージ的な理解を中心としたものになっている。全体としては、ダークツーリズムとは何かということについて、おおまかにつかんだ後、紀行文を読み進めることで旅の雰囲気を味わっていただければ、筆者の狙いとしては十分達成されたことになる。

 そして、皆さんの中から悲しみの記憶を巡る旅に出る方がおられれば、それは望外の喜びとなる。

 現在のところ、ダークツーリズムに関する体系的な学術書は日本語では出版されていないため、本書を読まれた方でさらに興味を持たれた場合は、東浩紀編著『福島第一原発観光地化計画』(ゲンロン)の筆者執筆部分を読んでいただきたい。そちらは、理論的な厳密性や整合性を重視したものになっているため、調査や研究の資料として有用であろう。

 また、今回は入門書であることを意識し、外国の事例をあまり取り上げていない。2018(平成30)年7月刊『ダークツーリズム拡張』(美術出版社)では、多くの外国の旅行記を収録してある。こちらもお手に取っていただければ幸いである。

 構成について全体を説明しておきたい。第1章として総論を置いた後、まず国内のダークツーリズムポイントを並べた。

 小樽を第2章に置いているのは、どんな地域でも必ずダークサイドがあり、そのダークサイドから地域を見れば、全く新しい地域への理解が広がるであろうことを意識していただきたかったからである。小樽は、紛れもなく全国屈指の観光都市であるが、悲しみの記憶という視点からこの街を見た時、そこに見える様相はそれまでとは全く違ったものになっている。

 北海道のコンテクストをつなぐという意味で、次の第3章にはオホーツク沿岸の紀行を配置した。冬の寒さが厳しいこの地域は、様々な意味でダークツーリズムの考え方が馴染みやすいとも言えるのだが、戦争や足尾銅山の公害などといった点も含めて、北海道の近代を問い直した。

 第4章では、日本の最南端部にある西表島におけるダークツーリズムについて扱っている。西表島はエコツーリズムの聖地であるが、この島にも戦争にまつわる悲しい歴史がある。

 第5章は、近年観光プロモーションに熱心な熊本を取り上げ、熊本に行くのであれば、あえて県の観光プロモーションに乗らない地域を見てはどうだろうかという観点から紀行を書いてみた。ただし、本章の記述は熊本地震の発生前の旅であるとともに、本文で詳しく言及している水俣病資料館もリニューアルされたことを申し添えておく。

 第6章は、東京に住む者にとって手軽な観光地である長野をダークサイドから見ることの意義に踏み込んだ。

 国内編のまとめとして第7章では「日本の公害の原点」とも言える足尾銅山を取り上げ、具体的な紀行の形で掘り下げてみた。

 第8章からは海外の事例を扱っている。まず、津波災害からダークツーリズムの方法論で復興したインドネシアのバンダアチェについて記した。

 第9章では、日本の左派運動は国際的にどういう意味があったのかという点について旅をしながら考えようということで、韓国とベトナムを取り上げた。

 最終章となる第10章は、本書のために書き下ろしたもので、福島を中心とした東日本大震災とダークツーリズムの関係性について考察している。

 また紀行を扱った各章の終わりには、「旅のテクニック」というコラム的な記述を配した。「旅行の楽しみの半分は計画」という言葉もある。プラン作りの参考にしてほしい。

 ダークツーリズムという言葉は、今や辞書にも載るようになり、その概念的な意味は共有されつつある。ただし、ダークツーリストである旅人の具体的な営みはほとんど知られていないだろう。ここにある旅行記を通して、ダークツーリズムをどう享受するのかという点について、思いを巡らせてみてほしい。

……本編は『ダークツーリズム~悲しみの記憶を巡る旅~』をご覧ください。

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関連書籍

井出明『ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅』

人類の悲劇を巡る旅「ダークツーリズム」が世界的に人気だ。どんな地域にも戦争、災害、病気、差別、公害といった影の側面があるが、日本では、それらの舞台を気軽に観光することへの抵抗が強い。しかし、本当の悲劇は、歴史そのものが忘れ去られることなのだ。小樽、オホーツク、西表島、熊本、栃木・群馬などの代表的な日本のダークツーリズムポイントを旅のテクニックとともに紹介。未知なる旅を始めるための一冊。

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井出明

観光学者。 金沢大学国際基幹教育院准教授。 近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授などを経て現職。 1968年長野県生まれ。 京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、 同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。 博士(情報学) 社会情報学とダークツーリズムの手法を用いて、東日本大震災後の観光の現状と復興に関する研究を行う。共著に「観光とまちづくり―地域を活かす新しい視点」(古今書院)他。

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