本が好きな人なら、「ハードカバー」「ソフトカバー」ということばを、どこかで聞いたことがあるかもしれません。本はページを束ねた本文の紙を、〈表紙〉で挟むように製本しますが、その表紙が硬い材質で作られているものを「ハードカバー」、本文用紙と同じ大きさの、柔らかな紙で作られているものを「ソフトカバー」と言います(上製本・並製本と言うこともあります)。
かつての単行本は、ハードカバーで作られることが主流でした。「本を出版する」ということが限られた人にのみ可能であり、ある種のステイタスを表していた時代には、重厚な印象のハードカバーが求められたのでしょう(さらに言えば、より豪華な「函入り」の装丁も、昔の本にはよく見られます)。いまでも研究者の出す専門書や、小説家の主著となりえる大作には、それにふさわしいハードカバーが使われることが多いです。
しかし最近では、持ちやすくて軽みのあるソフトカバーの本が増えてきたように思います。専門的な本でも、國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)や、中島岳志さんの『保守と立憲』(スタンド・ブックス)などは、ソフトカバーの親しみやすさをうまく使ったよい例だと思います(ソフトカバーにすることで、普段難しい本を敬遠するような読者にも、「手に取ってみよう」と思わせることができます)。たまに出版社から、装丁に対する意見を聞かれることがありますが、現場の感覚として大体はソフトカバーを薦めています。
自分のことで言いますと、「ハードカバーで立派に包まれるような著者ではない」と思っていましたから、最初の本『本屋、はじめました』を出すときは、迷わず「ソフトカバーにしてください」とお願いしました。二冊目の『365日のほん』はハードカバーになっていますが、本文が文庫サイズの大きさであり、「小さいからいいだろう」という気持ちでした。しかしハードカバーで装丁されることにより、『365日のほん』は「365冊の本が1冊の本のなかに入っている」というコンセプトが、よりわかりやすいかたちで表現されたと思っています。
店頭で本をご覧になる際に、その本が「どのように包まれているか」に注目することも、また面白いことでしょう。
今回のおすすめ本
「本が売れない」と言われるなか、柔軟な発想や技術を武器に、本を売っていこうとする人々がいる……。
「本屋」の形を模したであろう、大胆なブックデザインは佐藤亜沙美さん。手に持つとあるべき角がなく、他にない読書体験が味わえます。本の形はそれほどまでに、内容と分かちがたいものでもあります。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
○2024年4月12日(金)~ 2024年5月6日(月)Title2階ギャラリー
科学者、詩人、活動家、作家、スパイ、彫刻家etc.「歴史上」おおく不当に不遇であった彼女たちの横顔(プロフィール)を拾い上げ、未来へとつないでいく、やさしくたけだけしい闘いの記録、『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』が筑摩書房より刊行されました。同書の刊行を記念して、原画展を開催。本に描かれましたたリーゼ・マイトナー、長谷川テル、ミレヴァ・マリッチ、ラジウム・ガールズ、エミリー・デイヴィソンの葬列を組む女たちの肖像画をはじめ、エミリー・ディキンスンの庭の植物ドローイングなど、原画を展示・販売いたします。
◯【書評】New!!
『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)[評]辻山良雄
ーー震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊
◯【お知らせ】New!!
店主・辻山の新連載が新たにスタート!! 本、そして読書という行為を通して自分を問い直す──いくつになっても自分をアップデートしていける手段としての「読書」を掘り下げる企画です。三ヶ月に1回更新。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。
毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。4月16日(日)から待望のスタート。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
○黒鳥社の本屋探訪シリーズ <第7回>
柴崎友香さんと荻窪の本屋Titleへ
おしゃべり編 / お買いもの編
◯【店主・辻山による<日本の「地の塩」を巡る旅>書籍化決定!!】
スタジオジブリの小冊子『熱風』2024年3月号
『熱風』(毎月10日頃発売)にてスタートした「日本の「地の塩」をめぐる旅」が無事終了。Title店主・辻山が日本各地の本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方をインタビューした旅の記録が、5月末頃の予定で単行本化されます。発売までどうぞお楽しみに。
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本屋の時間
東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。