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地球の中心で何が起こっているのか

2015.05.15 公開 ツイート

日本の大地に何が起きているのか? 巽好幸

神奈川県の箱根山で活発な火山活動が続いています。火山性地震も頻発し、大涌谷付近を中心に地殻変動も観測されているようです。東日本大震災では日本列島が一瞬にして5メートルも東へ移動したといいます。いま、日本の大地で何が起きているのでしょうか? 世界が認める地質学の第一人者が解き明かす、地球科学の最前線――地球の中心で何が起こっているのか』。この書籍の内容を全3回のダイジェスト版でお届けします。


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 中国春秋時代に書かれた兵法書に由来すると言われる「不動如山(動かざること山の如し)」。南北朝時代の武将北畠顕家(あきいえ)や戦国大名の武田信玄が軍旗に記したこの言葉を始めとして、私たちはしばしば大地を不動の象徴と捉えてきた。

 その一方で、「変動帯」と呼ばれる地域に暮らす私たち日本人は、大地、言い換えれば「地球」が激しく変動することも知っている。

 2011年3月11日に東北地方を襲った超巨大地震では、震源から200キロ近く離れた陸域でも、一瞬にして5メートル以上も大地が移動した。

 また、日本の屋根とも呼ばれる中部地方の山岳地帯では、年間4ミリもの隆起が続いている。このスピードは、世界の屋根「ヒマラヤ山脈」の上昇とほぼ同じ程度。単純に計算すると、これから僅か100万年の間に、日本アルプスの高さは7000メートルにも達することになる。

 さらに、私たちには馴染みの深い「火山」も、大地が変動する証だ。標高3776メートルにまで達した富士山は、平均すると年間1センチもの割合で成長してきたことになる。そう、地球は本来ダイナミックに変動するものなのだ。

 では、なぜ大地が動き、火山が噴火し、そして地球が変動するのだろう?

 その根源は、地球の中心部にある。

 地球では、深部へ行くほど温度が上がることはご存じだろう。地球の真ん中、私たちが「核」と呼ぶ部分は、なんと5000~6000度という高温なのだ。

 中心がこれほど高温であるにもかかわらず、そこから約6400キロの距離にある地表は、平均約15度。こんな温度差の存在を、自然が許すはずがない。

 地球は、この強烈な温度差を解消すべく、中心から表面に向かって熱の移動を起こし、最終的には、温度差をなくそうとしている。

 ところで、最近いくつかの講演会で喋ったときに、驚いたことがある。結構多くの人たちが、「地球の中にはマグマが詰まっている」と信じているのだ。よく目にする地球の輪切り断面図で、地球の中が真っ赤に塗られているからだろうか?

 しかし決してそんなことはない。地球の内部は、外核と呼ばれる部分を除くと、固体なのである。ただし、固体ではあるが、活発に「対流」している。

 私たちは、「熱の移動の3原則(対流・輻ふく射しや・伝導)」のことを、小学校で教わっている。

 この中の一つ「対流」が、地球内で熱を運ぶ手段なのだ。つまり、地球はその中で、物質をグルグルと回しながら、熱を地表に向かって運んでいる。そしてこの対流があるせいで「プレート」が動き、地震が起こり、マグマが誕生して、火山ができるのだ。

 

 では、地球の中の様子は、どのようにすれば探ることができるのだろうか?

 映画では、地球の中心(センター・オブ・ジ・アース)なんて、アイスランドからちょいと行けることになっている。しかしそれは、フィクション。地球の中を調べるのは、結構厄介なのだ。今のところ、人類が掘った最も深い孔は、13キロ弱。地球の半径の0・2パーセントにも満たない。

 地球内部の調査は、主に「地震波トモグラフィー」と呼ばれる方法で行われる。

 病院でX線CT(コンピューターライズド・トモグラフィー、コンピューター断層撮影)のお世話になった方も多いことだろう。この方法はX線の透過率が物質の種類や密度によって異なることを利用して、私たちの体の中を驚くほど高解像度で映像化する。

 地震波トモグラフィーは、これと全く同じ原理で、X線の代わりに地震波を、吸収率の代わりに地震波の伝わる速度を用いて、地球の中の断層撮影を行うものだ。この方法を用いることで、地球の中の構造や、対流の様子を、相当詳しく知ることができるのだ。

 私は、「マグマ学者」である。とはいっても、火山が噴火したときに、ドロドロの溶岩の近くまで行って、マグマを調べたりしているわけではない。

 マグマそのものを調べるのではなく、マグマを使って、地球の成り立ちを探っているのだ。マグマは地球の中が融けてできたもの。だから、マグマが固まってできた「石」の中には、地球の情報が一杯詰まっているはずなのだ。

 じゃあ、マグマ学者が地球を調べる方法を、病院の検査にたとえるとどうなるのか? 自分のやっていることは、できるだけカッコいい方法にたとえたいものだ。

 ところが、なんと私のやっていることは「検便」や「検尿」と同じ。検便や検尿は、体の中のいろんなプロセスの結果としての排泄物を調べることで、体内の機能や異状を知る。それと同じように、地球内部の物質が融けてできる「マグマ」を調べると、マグマの元となった物質のいろんな素性や状態、地球内部の動きがわかるというわけだ。

 

※第2回は5月19日(火)更新予定です

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地球の中心で何が起こっているのか

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巽好幸 理学博士

1954年、大阪府生まれ。理学博士。専門はマグマ学。独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球内部ダイナミクス発展研究プログラムディレクター。78年、京都大学理学部卒業。83年、東京大学大学院理学系研究科(地質学)博士課程修了。京都大学総合人間学部教授、同大学大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授を経て、現職。2011年5月に幻冬舎より刊行された『パワーストーン 石が伝える地球の真実』を監修。

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