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フレッシャーズフェア

2018.03.22 公開 ツイート

いじわるな上司への対処方法 ~怒りのマネジメント力~ 小池龍之介

幻冬舎では各電子書店で新社会人に向けたラインナップがお買い得になる「フレッシャーズフェア」を開催しています。その中から本当の実力がつく新社会人必読のスキル本を紹介します。

もう、怒らない 小池龍之介
怒ると体内を有害物質がかけめぐり、それが他人にも伝染する。あらゆる不幸の元凶である「怒り」を、どうしたら手放せるのか? ブッダの教えに学ぶ、心の浄化法。

iStock/ideabug

怒りはどうやってつくられるのか

 外から入ってきた情報をつくり替える心の編集癖は、大変強力なものです。

 電車で見かけた見知らぬ女の人のことがなぜか気になってしょうがない、という場面を例に見てみましょう。

 女の人は、もとをただせばバラバラな粒子や波動の集積にすぎません。それを「ああ、女の人だ」と一つの固体として認識した時点で、すでに編集がほどこされています。

 それを「高級な服を着ているから、上流階級の女の人だ」→「そういえば、以前、上流階級の女の人から不愉快な仕打ちにあった」→「ああ、なんだか不快な刺激がビリビリ走る」と、心が勝手に編集作業を続けることで、自らの意志とは無関係に、「見知らぬ女の人」という情報から「不快な感じ」というストーリーができ上がってしまいます。

 人間という生き物は、入ってくる情報を生のままで美味しく食することが苦手なようで、しばしば、余計な添加物を大量に加えて、わざわざ美味しくないものにつくり替えてしまいます。

 別のたとえを用いれば、私たちの脳内には出版社の編集部があって、外で取材した情報をもとに、面白くもないストーリーを勝手に編集しては出版し続けているのです。すなわち、今そこにいる現実の女の人を無視した、「なんだか不快だ」という脳内ストーリーへの引きこもり状態。

 誰もがこのような引きこもりの常習犯ではあるのですが、日頃の心がけ次第では、脱出・イエデすることも可能です。そのためには、脳内編集部の作業をコントロールして止めさせるテクニックが必要です。

 しかしながら、脳内編集部の情報書き換え作業は、瞬時のうちに、ものすごいスピードで行われます。そのスピードに対抗する術すべを身につけるために、まずは、編集部がどのような順番で脳内ストーリーを書き上げてゆくのかを、見てまいりましょう。

 仏道においては、一瞬のあいだに起こる情報書き換えプロセスを四つの段階に分けて観察します。それをここでは順番に、第一編集部、第二編集部、第三編集部、第四編集部と名付けることにします。

絶えず情報を欲しがる脳内編集部

 第一編集部は、ストーリーをつくるための原材料をキャッチしてくる取材部門です。ストーリーをつくるには、何かしら原材料が必要なので、私たちの心はありとあらゆる情報を欲しがって取材を続けています。しかも私たちは、編集部がどんな情報をキャッチしてくるかをコントロールすることができません。

 先ほどの例で言えば、電車の中には、窓の外の風景、ガタンゴトンという振動音、中年男性が放つ匂い、吊つり革をつかんでいる自分の手の感覚や冷房の冷たさ等々、ありとあらゆる情報が満ちあふれています。

 その中で心は、パッと特定の情報に飛んでいき、そこに視線を定めて情報を収集します。

 その際の基準は単純に、「今、周りにある情報のうちでもっとも強く欲か怒りを刺激するもの」ということにすぎません。心にとって一番刺激的な情報を、私たちが好むと好まざるとにかかわらず、自動的に取り上げてしまうのです。

 瞬時にターゲットを捕捉しては取材をし、また次のターゲットへと飛んでいっては取材する、ということを繰り返しているのが第一編集部なのです。

「第一編集部の取材部員はコントロールができていない。もし取材部員がコントロールできているのなら第一編集部は嫌なものを取ってくることはないし、取材部員に対して『私の取材部員はこういうものを取ってこい、私の取材部員はこういうものを取ってくるな』と命じることができるであろう。しかしながら、取材部員はコントロールできていないから嫌なものを取ってくるし、また取材部員に対して『私の取材部員はこういうものを取ってこい、私の取材部員はこういうものを取ってくるな』と命じることができないのである」

(『無我相経』六節)

煩悩ストーリーはこうしてつくられる

 第一編集部が勝手に取材してきた情報を、第二編集部は「やっぱり上流階級の女は」「やっぱりこれだから大阪の人間は」「やっぱり女の人は胸が大きくないと」といったように、限られたポイントだけをピックアップして、型にはめた物語へと切り詰めます。

 そして第三編集部では、「上流階級だから不快」「やっぱり大阪人は不快」「胸が大きいから快」といったように、快か不快かのストーリーをつくります。快楽でも不快でもない、「なーんだ、フツー」というニュートラルなストーリーもあります。快楽、不快、中性という、たった三種類にストーリーを単純化するのが第三編集部です。

 連鎖反応的ストーリー展開はまだ続きます。快楽のストーリーからは「もっともっと欲しい」、不快なストーリーからは「イヤイヤ、遠ざけたい」、中性のストーリーからは「つまらない、無視したい」といったように、衝動的リアクションが生じるのです。これこそ、欲望・怒り・迷いの「煩悩」が生まれる場所。第四編集部は、煩悩生産局とでも名付けることができます。

 第一編集部が取材してきたものを、第二編集部が記憶の型にはめて切り詰め、第三編集部が快・不快・中性の刺激に単純化します。その刺激への心の反応を「欲望・怒り・迷い」のストーリーに仕立て上げプリンティング、印刷出版するのが、第四編集部の仕事です。

 プリンティングには、印刷という意味と同時に、刷り込みというニュアンスもあります。怒りの章でお話ししたように、いったん怒りエネルギーに身を任せてしまうと、それにより怒りの反応パターンが心に強く刷り込まれ、怒りのエネルギーを増幅させます。そのような作用をとおして私たちのストレスや苦しみに大きく関わっているのが、第四編集部なのです。

嫌いな上司に復讐しても自分に毒が回るだけ

 あるとき、「腹が立つ会社への復讐方法」という見出しが気になり、とある週刊誌を買いました。

 すると、「自分の人生を狂わされた腹いせに、会社がやっている不正を保健所や労働基準監督署に密告して抜き打ち検査を行わせ、会社に致命的な打撃を与えてザマアミロと笑っている」「腹の立つ上司に、無能ぶりを社員みんなの前でさらけだすような説教をし、辱はずかしめを受けさせて自主退職に追い込む」、より陰湿なところでは「友人を何人も使い、苦情電話を大量にかけさせる」「嫌いな上司のお茶に六年間毎日欠かさず煙草の灰を入れ続ける」等々、穏やかでない事例が多数掲載されていました。

 これらの復讐方法がすべて実際に行われたかどうかはさておくとして、このような露悪的な特集が人気週刊誌で組まれること自体、それに共感したり、楽しんで読んだりする勤め人が一定数存在することを意味していると思われます。

 世の中の実に多くの人々が、何かしらにイライラして怒りのエネルギーを溜めこんでは、何かしら仕返しがしたい、あわよくば復讐をしたいと、ストレス解消のはけ口を求めているようです。

 しかしながら、このようにイライラすることでもっとも損をするのは、ほかならぬその人自身です。

「憎む人が憎たらしい相手に対し、恨む人が恨む相手に対して、どのようなことをしようとも、イライラしている自らの心が自分に対してダメージを与えるほどには、それほどひどいダメージを与えない」

(『自説経』三一章九番)

 上司や会社に対するイライラを募らせたからといって、上司や会社にとってチクリとも痛いことはありません。なぜならこのようなイライラは、現実の相手とはまったく関係のない、単に私たちの脳内でつくられたストーリーにすぎないからです。

 第一編集部がはじめに取材をしてキャッチしてくるのは、ただの上司の振る舞いや、同僚の何気ない言葉です。私たちの中に、その情報に対して過敏に反応するエネルギーが溜まっていなければ、編集作業はそこでストップします。

 しかし、これらの情報が引き金になって、すでに蓄積されていたネガティブなエネルギーが表面化してくると、かけられた言葉や振る舞いを、「この私をないがしろにする失礼な言い方だ」と型にはめて編集し(第二編集部)、さらに「そうであるからには、これは自らが苦しむ悲劇だ」と編集を進めてしまいます(第三編集部)。

 そしてついには、「悲劇であるからには、怒りのエネルギーを心の奥から引っ張り出してリアクションをしよう」という、衝動的なストーリー展開に至ってしまいます(第四編集部)。

 第三編集部の時点では、単なる苦痛があるだけで、まだそれほど大きな負荷はかかっていません。大きな負荷に転じるのは、苦しい、だから攻撃すべきだ、反発すべきだと、煩悩のエネルギーを引き出してリアクションする時点です。

 欲望、怒り、迷いの三つの毒が、心身にいかに多大な害をもたらすかは、前章まででお話ししてきました。目の前の現実を無視して、これらのネガティブなエネルギーでつくり上げた脳内ストーリーに引きこもることは、自分自身にダメージを与えることにほかなりません。

「嫌な言葉」もしょせんは「ただの音」

 かと言って、脳内から飛び出して、実際に上司や同僚や会社にいやがらせや復讐をすれば、ストレス解消ができるかと言えば、残念ながら、それも不可能です。

 憎たらしい相手が失敗したり苦しんだりするのを見れば、一瞬気持ちがすっきりしたように感じるでしょう。しかしそれは、憎たらしい人の苦しみという原材料からつくり出した、歪んだ快楽のストーリーを、自らのストレスの上に強引に覆いかぶせただけのことです。

 そのとき、私たちの心にはいったい何が起こっているのでしょうか。

 歪んだ快楽のストーリーが心の表面を占領しても、もともとあったイライラの脳内ストーリーは、潜在意識の中に押し込められるだけで、決して消えてしまうわけではありません。

 相手が苦しんでいるという情報を入手して快楽のストーリーをつくる作業は、長続きしません。したがって、心の表面に強引にあてていた蓋はすぐに外れてしまい、抑圧されていたイライラのストーリーが再び心の表面に浮かび上がってきます。

 しかも抑圧されて、潜在意識に押し込められているあいだに、そのエネルギーは威力を増し、以前よりさらに自分のコントロール能力を超えたものになって戻ってきてしまうのです。

 結局、脳内に引きこもるにせよ、外に出て復讐するにせよ、待ち受けているのはろくでもない顛てん末まつ。その元凶になるのが、第四編集部によってつくり出される欲望や怒りや迷いの衝動的エネルギーです。

 このような衝動的なエネルギーが生まれて、自らを災いに駆り立てないようにするには、一連の編集プロセスにおいて、できるだけ早くストーリー展開を止めることが肝要です。

「声を聞いて欲望や怒りの衝動エネルギーを生産する人は、自覚的コントロール力が失われ、心がストーリーに囚われ、それに執着してしまう。声によって生じるさまざまなストレスのストーリーが増大し、また彼の心は、欲望や怒りによってダメージを受ける。このようにしてダメージを積み重ねる人は、心の平安から遠ざかると言われる。……念のセンサーによって自覚的に声を聞くならば、人は声に対して、欲望したり、反発したりしない。心は囚われず、その声に執着することがない。このようにして、声を聞き、あるいは受け取るならば、彼にはダメージがなくなり、ダメージが増えることがない。注意深く聞き、ダメージを積み重ねることがない人は、心の平安に近づくと言われる」

「マールキャプッタよ、見られ、聞かれ、嗅がれ、味わわれ、触れられ、知られる、この六種類の事物に対して、君は見るときは見たままにしておくこと。聞いたなら聞いたままにしておくこと。嗅ぐときは嗅いだままにしておくこと。味わうときは味わうままにしておくこと。触れれば触れたままにしておくこと。知るときは知ったままにしておくこと」

(『マールキャプッタ経』)

 このお経が説いているのは、何か嫌なことを言われたら、それをただ音として聞き取ることに集中して、「なるほどああ音だ、音であることよな」と受け流し、情報処理の編集をボツにしてしまいなさいということです。

 これは第一編集部の時点でストップをかけるという、もっとも高度なテクニックではありますが、とんでもなく難しいことでもありません。たとえば、こちらの心がウキウキしているときは、多少嫌な言葉をかけられても、「そんなのはただの音にすぎないじゃないか」と、うち捨てておきやすいでしょう。

 ここでストップをかけられなかった場合は、第三編集部が悲劇のストーリー展開を始めたときに、それを第四編集部に渡して、プリンティング、出版に進んでしまうことを食い止めなければなりません。

 ストレスを受けたからといって、怒りのエネルギーに駆られなければいけない必要性は実は存在しません。ストレスはただのストレスとして迎え入れ、こちらがイライラと怒ることさえなければ、自らにダメージを与える衝動的エネルギー、すなわち煩悩は生まれないのです。

 欲望や怒りの煩悩をつくらないようにストーリー展開をブロックする方法については、次章以降でも、改めてお話ししていきたいと思います。

(「第四章 心はなぜすぐ乱れるのか」より)

続きは本編でお楽しみ下さい。

***
もう、怒らない目次抜粋 
◆苦しみに鈍感になってしまった大人たち
◆「欲望が人を元気にする」という錯覚
◆何も考えずただやるのが、一番疲れない
◆食べ過ぎたくないのに食べ過ぎてしまう心理
◆「聞き上手」という名の「聞くフリ詐欺師」
◆分かってもらいたがるから分かり合えない
◆ムカつきの原因は「不当に扱われた」と感じること
◆根っこにある「愛されたい」という幼児的欲望
◆幸せになりたいと願いながら正反対のことをする人たち
◆心は「普通」や「ありきたり」が大嫌い
◆集中力・決断力を低下させる悪循環
◆歩行を意識して自己コントロール力を高める
◆本当の集中は「好き」を超えた瞬間に訪れる
◆煩悩を一掃する集中力の高め方
◆ただ「空気が読める」だけでは自滅する

 

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レバレッジ時間術』 本田直之
もう、怒らない』 小池龍之介
上司は部下の手柄を奪え、部下は上司にゴマをすれ』 伊藤洋介
ヤバい会社の餌食にならないための労働法』 今野晴貴
えっ、ボクがやるんですか?部下に教えたい、社会人のものの言い方100』 播摩早苗
思考・発想にパソコンを使うな!』 増田剛己
会社は2年で辞めていい』山崎元
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小池龍之介

1978年生まれ。山口県出身。東京大学教養学部卒業。 元僧侶。ウェブサイト「家出空間」主宰。​2019年に還俗し、現在は「月読お稽古場」道場主  。 著書に『しない生活』(幻冬舎新書)、『沈黙入門』『もう、怒らない』(ともに幻冬舎文庫)、『考えない練習』『苦しまない練習』(ともに小学館文庫)、『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『平常心のレッスン』(朝日新書)、『“ありのまま" の自分に気づく』(角川SSC新書)などがある。

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