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イスラム国の野望

2015.11.17 公開 ツイート

パリ同時多発テロ事件編・第1回

そもそも「イスラム国」とはどんな組織なのか 高橋和夫

 パリの同時多発テロは、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が深く関わっている疑いが濃厚です。今年初め、二人の日本人が犠牲になった人質事件も、「イスラム国」の犯行によるものでした。
 そもそも「イスラム国」とはどんな組織なのか。中東問題の第一人者で放送大学教授の高橋和夫さんは著書『イスラム国の野望』のなかで、こんなふうに解説しています。

*  *  *

■イスラム過激派の新ブランド

 イスラム国の最高指導者は、バグダディ(アブー・バクル・アル=バグダディ)という人物です。もともとバグダディは、イラクでアメリカの占領に反対する運動をしていました。

 その運動にシリアから多くの人が参加し、シリアでも運動が活発化しました。その結果、イスラム国はシリア内戦で力をつけ、再びイラクに帰ってきたという経緯です。

 やることがあまりに過激なため、イスラム過激派の代表格であるアルカーイダに破門されたという過去があります。

 アルカーイダは、バグダディ一派の活動すべてを否定していたわけではありませんが、シーア派というだけの理由でアラブ人を殺害したり、その映像を公開したりといった行動は、アルカーイダとしても、やはり目に余るものでした。

 アルカーイダとは、後でもお話ししますが、アメリカ同時多発テロ事件を主導したイスラム過激派組織です。アルカーイダという組織は、言ってみればフランチャイズ方式をとっており、ある地域で独占代理店のような組織を決めたら、その組織のみが活動をするという方式で動いてきました。シリアではアルカーイダが代理店として認めたのはヌスラ戦線という組織で、バグダディ一派にもその命令に従うよう命じたのですが、彼らはそれに従わず、独自路線を走り始めてしまいました。

 過激派の重要な資金源のひとつは、寄付金です。この点は、人道支援団体と似たとこ
ろがあり、支援者からお金と人を集めて、集団を強化します。アラブの産油国には、自
ら活動に加わらないまでも、彼らの主張に共感を寄せ、その活動を支援する富裕層がい
ます。

 資金を集めるためには、やはりブランド力が必要です。これまではアルカーイダというブランド力をつければ、お金も人も集まっていました。しかし、最近アルカーイダは「仕事」をしていません。つまり、テロに成功していないわけです。

 そうなるとブランド力が低下しますので、当然、独自ブランドを立ち上げようという勢力が登場します。そして、そのような勢力地図を見ながら、できるだけ費用対効果の大きい資金援助をしようと考える富裕層の中には、ちょっと目立ってきた新興勢力を支援する人が現れます。バグダディ一派はそうやってブランド力を向上させ、ついにイスラム国として、大々的に自分たちの暖簾(のれん)を出したというわけです。

■もとは「イラクとシリアのイスラム国」

 2013年4月、バグダディが率いる一部の過激派は、「イラクとシャーム(シリア)のイスラム国」(ISIS)と名乗り始めます。別称として、「イラクとレバント(東部地中海沿岸地方)のイスラム国」(ISIL)と呼ばれる場合もありました。

 その後、イラクとシリアでの勢力を拡大し、全世界に名を知られるようになっていきます。

 2014年に入ってからは、イラク第二の都市モスルを陥落させるなどの電撃的な勝利を収め、イラクの広い部分を支配地域に加えました。この勝利により、その人気が、アラビア半島の急進的なスンニー派の間で沸騰したのは想像に難くありません。

 そして、これらの戦果を踏まえて2014年6月、彼らは組織名からイラクとシリアという地名を外して、たんに「イスラム国」(IS= Islamic State)と名乗り始めます。つまり国家の樹立を宣言したのです。

 イスラム諸国にはイスラムの名を冠した国名(たとえば、イランの正式名はイラン・イスラム共和国)がたくさんあります。イスラム国に言わせれば、それらは全部偽物です。イスラム国を名乗ることによって、きちんとしたイスラム国家は自分たちだけだというメッセージを発するというのが、彼らの意図です。

 そうは言っても、勝手に「国家です」と宣言して、国になれるわけではありません。国際法上、国家成立の要件としては、まず領土、そして国民を掌握している必要があります。

 彼らはその2点はクリアしていますが、いわゆる「国」になるためには、国際的な承認も求められます。もっとも、国際社会の大半の国家が承認していないものの、国に準じた扱いをされることもある台湾(中華民国)のような例もありますので、イスラム国が国家としてまったく問題外というわけでもないのです。

 イスラム国が全世界のイスラム教徒に対し、「イスラム国を攻撃する者には、立ち上がって反撃せよ」とメッセージを発したところ、少しはテロに結びついているようです。しかし、イスラム国そのものが全世界でテロを展開する段階には至っていません。それこそ国内情勢が不安定ですので、そこまでの活動はできていないのです。

 また、各国の監視が厳しくなり、特にシリアなどからヨーロッパ諸国へ帰国した者は
マークされやすいため、積極的にテロ活動を行うのは難しいのだと思います。

* * *

 本書が刊行されたのは今年1月。「全世界でテロを展開する段階には至ってい」なかった「イスラム国」は、パリという欧州社会の中心地で、大規模な同時多発テロを引き起こす組織に変貌しました。
 その背景については、今回の事件についての高橋さんのインタビューをお読みください。

 

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高橋和夫

福岡県北九州市生まれ。大阪外国語大学ペルシア語科卒業。コロンビア大学国際関係論修士。クウェート大学客員研究員等を経て、現在、放送大学教授。『燃えあがる海――湾岸現代史』(東京大学出版会)、『アラブとイスラエル――パレスチナ問題の構図』(講談社現代新書)、『イランとアメリカ――歴史から読む「愛と憎しみ」の構図』(朝日新書)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)など著書多数。

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