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片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』刊行記念インタビュー

2014.12.08 公開 ツイート

「どこに投票したらいいか分からない」経済オンチのあなたへ 3/3

「いいとこ取り野党」がなぜ現れないのか 片岡剛士

■本当は自民党も分かっていない「アベノミクス」

――再増税反対を唱える野党も、財源のプランを明確にできれば勝負はできると思うのですが。

片岡 そうですね。消費税への傾斜を今回の選挙でひっくり返すのは難しいのかもしれませんが、野党はそこに力を入れてほしいですね。

 安倍首相が解散権を口にしたとたんに、民主党も含めてみんなが雪崩を打つように増税延期に傾いてしまった。争点が消失してしまったわけですね。「大義なき解散」という人は、争点のなさを問題にしているわけです。

 しかし、私は消費税の延期にみんなが賛成したとは思っていません。首相の会見でも、延期はしても社会保障と税の一体改革の流れは堅持すると明言されていました。つまりこの道は、いずれにしても消費税は上がるという道なんです。仮にリーマン・ショック級のショックがあったとしても、どこかの時点で10%までは確実に上がる、これは動かしがたい現実です。

 この現実を打破するような政党が現れるかどうかが一つのポイントです。増税延期や凍結を主張する勢力は、一体改革の堅持を掲げる政党の内部では、齟齬(そご)をきたすでしょう。党として齟齬を止揚し、アベノミクスを超える経済成長のためのパッケージと財政健全化、社会保障の維持・拡充を両立する路線を打ち出せるか。現状を見ているとあまり期待はできませんが、それができれば与党と拮抗しうるのではないでしょうか。

 だから争点や論点がないのではない。論点を作り出せていないだけなんです。それが日本の政治環境、経済政策環境の不毛なところだと私は思います。

――アベノミクスの金融緩和だけはそのままタダ乗りをする。消費税は延期ではなく減税する。再分配を重視して、集団的自衛権や秘密保護法は全部撤回する。たとえばこんな宣言する野党を待望している人は少なくないと思うのですが、なぜ現れないのでしょうか。

片岡 金融政策の重要性を理解しているのは、政権中枢でも安倍さんと菅さんぐらいですからね。自民党内には山本幸三さんのような理解者もいらっしゃいますが、非常に少数派です。

 2013年の景気回復がなぜ起こったのかを理解している人は、自民党でもほとんどいないのではないでしょうか。山本幸三さんの依頼で自民党の一年生議員に「アベノミクスとは何か」というレクチャーをしたくらいですから。「三本の矢」とは何か、などといった話をしましたが、これって奇妙な話ですよね、トヨタの社員にトヨタの新型車のプレゼンをしに行くようなものです(笑)。

 私は自分がアベノミクス応援団だとはまったく思っていません。そんな私が自民党の議員にアベノミクスの意味を説明しなくてはいけない。野党であった自民党総裁の発言で、景気の流れががらっと変わった理由を説明しなければならない。この矛盾が問題なんです。

――その無理解は右派、左派問わずということですね。

片岡 問わず、です。どのような理由で何が起こっているのかがわからないから、トンチンカンな批判を続けるしかないというのが、いまの状況なんだと思います。わからないから「いまの回復は一過性」「株価誘導にすぎない」「社会保障維持のための増税が必要」という結論になってしまう。

 アベノミクスの本質を正しく理解していれば、おそらく消費税には反対すると思います。そういう意味では、延期を主張してきた人は、金融政策の意味を理解しているはずです。景気回復を受けて政権に少しずつすり寄りながら「実は私もリフレ派でした」と言っていた人たちが、ここにきて増税を強固に主張するのを見ると、やはりそうだったのかと思わざるを得ません。ずっとマイノリティでしかなかった筋金入りのリフレ派は、誰もこのタイミングでの増税には賛成していません。残念ながらこの構図はこれからも変わらないのかもしれません。

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片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』刊行記念インタビュー

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片岡剛士

1972年愛知県生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策部主任研究員。専門は応用計量経済学、マクロ経済学。著書に『日本の「失われた20年」――デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、第4回河上肇賞本賞受賞、第2回政策分析ネットワークシンクタンク賞受賞)、『円のゆくえを問いなおす――実証的・歴史的にみた日本経済』(ちくま新書)、『アベノミクスのゆくえ―― 現在・過去・未来の視点から考える』(光文社新書)、『徹底分析アベノミクス――成果と課題』(共著、中央経済社)等がある。

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