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80歳の壁を超えた人たち

2026.02.27 公開 ポスト

「悪役にも救いを」 87歳・ちばてつやが実感する「人を愛すると愛される」という幸福の循環和田秀樹

体力も気力も大きく変わる「80歳の壁」。そんな壁を軽やかに超え、現役で活躍し続ける人たちがいます。高齢者医療のカリスマ・和田秀樹が“80歳超えのレジェンド”たちと対談した内容を収録した『80歳の壁を超えた人たち』は、老いへの不安を希望に変える一冊です。

食事、運動、医療との距離感、意欲の保ち方まで、“老けない人”から幸せに長生きする秘訣を引き出した本書から、一部をご紹介します。

*   *   *

ちばてつや

1939年東京都生まれ、満州育ち。87歳(2026年1月時点)。1956年にデビュー。2024年に菊池寛賞受賞、同年文化勲章を受章。主な作品に『ハリスの旋風』『おれは鉄兵』『あした天気になあれ』(すべてコルク)、『あしたのジョー』(講談社)など。減税も「ビッグコミック」(小学館)にて『ひねもすのたり日記』を連載中。

撮影:鈴木規仁

人の背景を汲む。すると愛が溢れて人からも愛される

和田 漫画家の発想の源ってどこにあるんですか?

ちば さあ……。私は身近な話ばかりを描いていますけど。自分が生きていることをね。何を食べて何が好きで、こんなバカなことやっているっていう。下町で生きてきたからなんですかね。友人の松本零士さんは身近な話を描いても虫の妖精が出てきたり、人間みたいな虫が出てきたりね。そういう幻想の世界を描くのが好きでしたね。宇宙の果てに何があるんだろうとか、人間と似ている宇宙人が住んでいるかもしれないとかね。無重力ってどんな状況なのかなとか、そんなことばっかり考えていましたから。

和田 でも、漫画の影響力はすごいです。生きる力とか、人生に力を与えてくれる。

ちば 松本さんの描いた宇宙の漫画を読んで、宇宙飛行士がたくさん出てきたわけですからね。海外でもいっぱいいるみたいですよ。

和田 ちば先生の漫画で、ボクサーになられた方もたくさんいらっしゃいますよね。

ちば そういう人も少しはいるみたいですけどね。

和田 ちば先生の漫画は他のスポーツ根性ものとは違うと僕は感じます。人間性が細かいところまで描かれている。だからジョーにしても力石にしても、人間として思い入れが強くなるんです。

ちば ありがとうございます。私の性癖なんでしょうけどね。主人公はもちろんだけど、脇役や悪役にしてもキャラクターを決める時に「こいつはどういう親がいて、どういう育ち方をしたのかな」とかね。実際には描かないんだけど、家庭環境とか、どんな友達がいるとか、そういうことまで考えちゃう。

和田 なるほど。

ちば するとね、なんか本当の悪人が描けなくなっちゃうんですよ。悪い奴を描きたいけど、どっか救いを持たせちゃう。「こいつはね、小さい時にひどい親にいじめられて育ったりした。だからこんなにグレて悪い人間になっちゃった。かわいそうな奴なんだよ」って。そんなふうに思ってしまうんです。

和田 そこがいいんですよ。ちば先生の漫画に深い人間愛を感じるゆえんです。

ちば なんかね、一人一人に思い入れが強くなっちゃってね(笑)。

撮影:鈴木規仁

想いを繫いで生きる。それが文化になる

和田 ちば先生は2024年に文化勲章を受章されました。

ちば ちょっとびっくりしましたね。もっとふさわしい人がたくさんいますから。

和田 漫画家では初めてです。

ちば みんなね、亡くなっちゃったから。漫画家は締め切りに追われて無理をするんでね。体力的にね、みんなまいっちゃうんですよ。

和田 ちば先生が受章されたことは、やはり意味のあることだと思います。

ちば 漫画っていうのはね、やっぱり素晴らしい文化だと思います。私じゃなくて先輩たちに素晴らしい漫画家たちがいたんです。たくさん。後輩たちも『キングダム』『進撃の巨人』『ドラゴンボール』『ワンピース』、最近では『鬼滅の刃』など世界中で日本の漫画が面白いと評価された。漫画だけじゃなくアニメーションとかゲームとか、いろんなものがね。

和田 どれも漫画から発生したものと言えます。

ちば 日本では漫画は日常の中に当たり前のようにあるけど、海外では日本の漫画は本当に芸術だって言ってくれる人もいましてね。それは葛飾北斎とか、あの時代からずっと素晴らしい先輩がいて、素晴らしい仲間がいて、素晴らしい後輩がいたからですよ。

和田 それが認められた。

ちば そういう人全員にくださった勲章だと思っています。私はたまたま長生きしていたから「ちばさん代表でもらいに来なさい」って言われたんですよ。

和田 漫画とアニメは今の日本では数少なくなった〝世界に勝てる製品〟です。海外の人がお金を払って見てくださるのは、それだけの価値があるからです。

ちば 本当にありがたいですね。日本では20~30年前まで「漫画は悪書」だと叩かれていたんです。子供が勉強しなくなるから読んじゃダメってね。手塚治虫さんが性教育をわかりやすく漫画に描いた時も、大阪のPTAのお母さんたちから抗議行動を起こされたことがありました。『ふしぎなメルモ』って漫画がね、他のエロ本とかエロ写真とかと一緒に山に積んで燃やされたんですよ。

和田 焚書事件ですね。

ちば 私はもう本当に悔しくてね。泣いた記憶があるんです。それが今では「漫画は日本の文化として認めていいんじゃないか」と勲章までいただいて。本当にありがたいですよ。

和田 ちば先生たちが築き上げてきた世界です。

ちば 受章した時、「ありがとう。手塚さんたちの代わりに私がお受けしましたよ」って天に向かって報告しました。それは聞こえたと思います。

人間は長所も短所もある。個性を認めると楽になる

和田 『ビッグコミック』で今も連載をされていますよね。すごいなあ。

ちば まだやっているんですよ。大したページ数でもないんですけど一応ね。「ちばさんにカラーを4ページあげるよ」って好きに描かせてもらってます。

和田 どれくらいの時間をかけるんですか?

ちば 時間はあんまり考えませんね。なんとなく気が向いたら描くという感じで。

和田 ちば先生の絵って端から端まで細かいですよね。僕は映画を撮るのですが、映画監督も細部を気にしない人と画面の端の小道具まで気にする人がいるんです。それと、ちば先生の絵は視点も面白い。例えば食堂でみんなが並んで食べているのを上からの視点で描いたりする。映画監督みたいだなって思います。

ちば 漫画はみんなそうじゃないですかね。上から俯瞰したり、下からあおったり。私も昔からたくさん映画を見て、ずいぶん勉強になっていますからね。

和田 キャラクターの話は先ほど伺いましたが、やはり体験から来るんでしょうね。

ちば 本当にね、今まで付き合った人、みんなそうですよね。「こいつは気に入らない」とか「なんか難しいやつだなあ」と思っても、よく話してみると、そいつの言っていることは「なるほど、だからそういうふうに思うのか」って、よくわかるんですよね。みんなクセはあるし、そのクセが合わなかったりすることはあるけどね。みんな欠点を持っているし長所も持っている。本当に人間っていうのは面白いなと思いますね。

和田 僕は精神科の医者ですが、患者さんによく話すんです。「相手にはいい面も悪い面もある」ということに気づくと少し人間関係が楽になりますよって。ちば先生のように人を多面的に見られると、人間関係のストレスが減るんじゃないですか。

ちば そうですね。ちょっと話し込むとだいたいわかるんですよね。「あ、この人はこういう性格なんだろうなあ。ちょっと短気だけど、こういうところは長所なんだろうな」って。そういうのが見えてくるので仲よくなれちゃう。

和田 いいですね。

ちば 人との関係で、プレッシャーとかストレスをあんまり感じたことはないです。

和田 夫婦でも、例えば夫が定年退職してずっとふたりきりになると、悪いところばかりを見るようになって、関係が悪化するケースがあります。本当はいいところもたくさんあるはずなんですが。

ちば どんどん悪いふうに回ってしまうのは、悲しいなあ。そうなってしまう人もいるんだろうけど、そうならないほうがお互いの幸せのためにはいいね。

和田 ちば先生はやっぱり優しいですね。そういう柔軟な暮らし方、考え方をしているから長生きできるのだと思います。

*   *   *

80歳の壁を超えて、生き生きと人生を満喫する秘訣を知りたい方は、幻冬舎新書『80歳の壁を超えた人たち』をお読みください。

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80歳の壁を超えた人たち

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和田秀樹

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『マスクを外す日のために』『バカとは何か』『感情バカ』(すべて幻冬舎新書)など著書多数。

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