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80歳の壁を超えた人たち

2026.02.01 公開 ポスト

「無理をしないから長く続く」元オリックスCEO・宮内義彦90歳が現役で働き続けられる理由和田秀樹

体力も気力も大きく変わる「80歳の壁」。そんな壁を軽やかに超え、現役で活躍し続ける人たちがいます。高齢者医療のカリスマ・和田秀樹が“80歳超えのレジェンド”たちと対談した内容を収録した『80歳の壁を超えた人たち』は、老いへの不安を希望に変える一冊です。

食事、運動、医療との距離感、意欲の保ち方まで、“老けない人”から幸せに長生きする秘訣を引き出した本書から、一部をご紹介します。

*   *   *

宮内義彦(みやうち・よしひこ)

1935年兵庫県生まれ、90歳(2026年1月時点)。1960年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿實業(現・双日)を経て、1964年オリエント・リース(現・オリックス)入社。社長・グループCEO、会長・グループCEOを経て現職(オリックス シニア・チェアマン)に。『諦めないオーナー プロ野球改革挑戦記』(日経BP)など著書多数。

撮影:鈴木規仁

無理をしない。気の向くままにぶらぶらと

和田 宮内さんとは、私が日大の常務理事をしていた時に何度もお会いして、その度に感動していたんですよ。だって年齢をまったく感じさせない。見た目の若さが驚異的なんです。しかもやることがアクティブですからね。

宮内 いや、老いは感じますよ。自分の年を考えてびっくりすることもある(笑)。

和田 老年医学では「見た目が若い人は老化が遅い」という指摘があります。老化が遅いから見た目が若いのか、見た目を若くしてるから老化が遅いのか、真相はわかりませんが。

宮内 私は若く見られたいとは思わない。意図して若くあろうともしてません(笑)。

和田 食事はどうですか?

宮内 少し空腹を感じるくらいが、私としてはコンフォタブル(快適)です。

和田 お酒は?

宮内 好きです。だけど酒量はかなり落ちましたね。お酒を飲みたいと思える時は、やっぱり健康なんです。毎日でも飲めますが、今は原則1日おきにしています。

和田 お酒を代謝する能力は加齢とともに落ちますからね。夜はやはり会食が多い?

宮内 今はあまりないです。昔はお客さんを呼んだり呼ばれたりね。嫌な酒を飲まにゃあいかん時もありました。ですが現役を離れ、コロナ禍もあり、家での食事が増えました。食事は家内が用意してくれます。今どきは出来合いのものや、インスタントのものも美味しくなりましたね。

和田 実は出来合いのものは、医学的にもいいんです。年をとるほど栄養の足りない害が増えてくるのですが、家で作ると、どうしても食材の品目が少なくなりがちになるんです。外で作った出来合いのものは食材の数も多いのでお勧めです。

宮内 なるほど。

和田 食事以外の健康法は? 運動とか。

宮内 私は不精ですから、気が向いたら散歩に行く程度です。それと週に1回のゴルフは続けています。きっちり何かをするようなことは、あまり好きじゃないんです。

和田 それがいいと思います。無理せず、ぶらぶらと、気の向くままに。

一番の健康法は仕事。これまでの経験を活かす

和田 実は、私が一番の健康法だと思っているのは仕事です。世間では「年をとったら引退しろ」と言う。でも仕事をできる間は、続けたほうが脳的にも身体的にも、絶対にいいはずです。

宮内 私は若い頃、「70歳を超えたら経営はやっちゃいかん」と言ってました。どんな立派な人でもちょっとした狂いが生じてくるのを見たり、聞いたりしましたからね。ところが自分が70歳になったら「俺、元気やないか」と(笑)。

和田 まだ引退は、早いと?

宮内 いや。「早く辞めにゃいかんな」とか「自分もおかしくなったらいかんな」という強迫観念はありました。だけどリーマンショックなどもあって辞めるわけにいかず、結局78歳まで続けました。

和田 それ以来12年ですか。90歳の今も現役ばりに働いておられます。

宮内 シニア・チェアマンというよくわからん肩書をつけてね(笑)。自分ではイニシアティブを握らず「頼まれ仕事だけをする」と決めました。そしたら「宮内は暇だろう」と思われるのか、あちこちから頼まれるので結構忙しい。今はかなり整理して、数社の社外役員と学校関連や公益法人の役員をしています。

和田 やはり忙しいことが、宮内さんの若さの秘訣なんだと思います。日々、新たな問題に取り組むので、脳も身体も衰える余地がありませんよね。

宮内 少しでもみなさんのお役に立っているなら誠に幸いと思います。

和田 経営者からの相談なども多いのですか?

宮内 はい。若い経営者が「相談に乗ってほしい」と、よくここにも来ますよ。

和田 素晴らしい。老化してる暇がないですね(笑)。年をとると、インプットばかりしてアウトプットは疎かになりがちです。だけど、どんなに知識を放り込んでも使わなければ意味がありませんからね。同じく、どんなに素晴らしい経験があっても、頭の中に留めておいたら宝の持ち腐れです。

宮内 仰る通りですね。

和田 一番いいのは、ネット検索では出てこないような独自の知識を持ちながら、相手に合わせて、臨機応変にアウトプットすることだと思います。宮内さんがやられてる相談は、まさにそれですよね。

宮内 経験というのは〝生きた知恵〟ですからね。私も今になって「こうしたらいい」とか「こうしたらあかん」などと思うことがありますが、結局、失敗から悟ったことが多い。コストがものすごいかかってるわけですよ(笑)。

和田 なるほど。じゃあ、失敗を聞かないのは大損ですよね。

宮内 はい。失敗した経験を教えてもらえれば、同じ過ちを犯さないですむ。だから先達の話は聞いたほうが得だと思いますね。

撮影:鈴木規仁

一つ一つに誠実に向き合う。それが信頼関係に繫がる

和田 若手の経営者には、どんな失敗談を話すのですか?

宮内 失敗はいっぱいありますからね(笑)。しかも相手は一人一人、年齢も業種も企業規模も違いますから。一般論で「こうしなさい」と言えるものではない。画一的に応じるのは無理がありますよね。

和田 それは僕も医者をやっているのでわかります。だけど多くの医者は画一的なんですよ。ですが、今やAIの時代です。検査結果や画像データから診断して画一的に薬を出すなら、AIのほうが優秀です。そうなると、医者は不要になってしまう。

宮内 それは困りますね。企業経営にも、これからAIに助けてもらう部分が増えてきます。AIをどう利用して経営判断に繫げるかが課題になってくるでしょうね。

和田 そうでしょうね。医療で言えば、医者にはAIにはない生きた知恵があります。一対一で話をして「この人は自分の経験から診て、ここが問題だ」と気づく。あるいは長年その患者さんを診てきたからこそ気づける変化もあるんです。いわゆる「主治医」とか「かかりつけ医」だからできる個別の医療です。それには信頼関係が大事です。

宮内 経営も同じですよ。やはり信頼関係が大事です。

和田 信頼関係からは意外なメリットも生まれます。例えば、「この医師に診てもらうと安心する」とか「なんか気が楽になる」ってありますよね。心理効果が、治療効果を上げていることがあるんです。経営も医療も人が相手ですから、十把一絡げに一般化なんてできない。それぞれの問題や事象に対して一つ一つ誠実に、懸命に向き合うしかないのだと思います。

宮内 本当にそう思いますね。一人一人、一つ一つ全然違いますから。

ひとりで全部はできない。人に頼って力を引き出す

和田 話は変わりますが、「人の上に立つヒント」のようなものはありますか。

宮内 私が思うに、やはり企業は人間社会なんですよ。コンピューターが経営してくれるわけではない。経営者には「人間的魅力」と「間違いない経営判断のできる能力」という、ふたつの資質が求められると思っています。まず人間の上に立つ人というのは、チャーミングでないといかん、と思いますね。

和田 チャーミング? 人間的魅力の部分ですね。

宮内 はい。この人と一緒に仕事をやりたい、と思ってくれるかどうか。チャーミングな人間というのは、遺伝子ではなくて、「自分を磨く」ということをやった人だと私は思います。磨いているうちにだんだん人間に深みが出て、魅力が出てくる。そういう人がリーダーになる組織は、うまくいくと思いますね。

和田 なるほど。

宮内 チャーミングということでは、もちろん可愛げも必要だと思います。ただ、人間的なチャーミングさだけでは会社はうまくいきません。リーダーのもうひとつの資質として「こっちに向いて行け」と正しい方向を示すことは、やはり大事ですからね。

和田 たしかにそうですね。

宮内 人間性と経営力。未来に対して「この会社をどっちの方向に持っていくか」を必死に考えて、みんなを引っ張っていく。そういう人間がリーダーになると、会社は伸びるんだろうな、と思います。

和田 宮内さんご自身も?

宮内 私の場合、たしかに方向性は自分で一所懸命考えました。けれども「俺についてこい」と全員を引きずっていくタイプではなかったですね。「この部分は君、この部分はあなた」と権限委譲した。みんなでやったという意識が非常に強いですね。

和田 そうなんですか? ぐいぐい引っ張っていくほうだと思っていました(笑)。

宮内 トップひとりでは会社はよくなりません。みんなでやらないとダメなんです。

和田 バカ社長は会社を潰す。

宮内 トップは会社を潰す力があることを自覚したほうがいいですね。そのうえで一緒に頑張る力が大事なんですよ。

和田 なるほど。

宮内 初めは自分で走りたくなるんです。だけどひとりで走ったって大したことないんです。「俺が走ったら100点だ」と走っても、やることは5つも6つもあるわけで、全部はできません。だったら他の人がそれぞれ80点ずつ取ってくれたほうがいい。そんなふうに思って、みんな任せてしまいました。

和田 さすがですね。例えば、医者であれ経営者であれ「今のことはよく見える」というリーダーはいます。でも「先のことまで見える」というのが優れたリーダーの条件かもしれません。

宮内 自分では先が見えている自信はありませんが(笑)。

和田 無理して体力を使い果たしたら、長い間は続けられません。宮内さんがここまでやってきたのは、いろんな人に任せる能力があったからでしょう。それも先を見る目があったからだと思います。

宮内 結果的にうまくいったのかもしれませんね。

*   *   *

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和田秀樹

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『マスクを外す日のために』『バカとは何か』『感情バカ』(すべて幻冬舎新書)など著書多数。

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