忘れられない元彼を引きずる椿。裏切りが頭から離れず結婚をためらう穂乃果。誰かの「いちばん」になりたい新奈。学生時代の過ちを背負い、幸せを諦めようとするひまり。
30歳を目前に、それぞれの「理想と現実」のはざまで揺れ動く四人の女性たちが、ささやかな光を見つけていく――。
2月5日発売、共感必至の恋愛ストーリー集『私以外、みんな幸せそうに見えた』より、第一話の試し読みをお届けします。
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第一話 未練がましい私
〈椿、久しぶり! 元気? 実はわたし、以前からお付き合いしてた人と結婚しました! 〉
一分足らずの間に二度も絶句したのは、たぶん生まれて初めてだった。
二十八にもなれば『結婚』というワードを目にすることなど珍しくもないが、私は二週間前に恋人に振られたばかりだ。絶妙にタイミングが悪く、なんとも複雑な気分にさせられてしまう。
メッセージの送り主であるマヤは高校時代の同級生だ。結婚報告の続きには、半年後の六月に結婚式をするので参列してほしいということと、マヤも相手も地元の茨城に居住しているため式は茨城で行うことが記載されていた。
招待するときのマナーを守りつつも喜びを隠しきれていない、つまりやや浮かれたメッセージを前に悩む。マヤとは高校卒業後も数年に一度、同窓会などで顔を合わせている仲だ。ぎりぎり“友人”の範囲内ではあるだろう。一生に一度の晴れ舞台に呼ばれるほど親しいかは、別として。
気を取り直し、渇いた喉をワインで潤した。
返信の内容を考えていると、新たに通知が鳴った。
今度は高校時代に親しかった四人で作ったグループトークだった。
〈マヤから連絡来た? みんな予定どうー? 久しぶりにみんなで集まれるの楽しみ! 〉
そう送ってきたのはひまりだった。天真爛漫ぶりは健在だ。当然のように参列表明し、そして当然のように私たちも参列すると信じている。マヤから届いたメッセージにも、同じくらい浮かれながら返信したのだろう。
ひまりの呼びかけにまず反応したのは穂乃果だった。
〈来た来た! もちろん行くよー! 私もすごい楽しみ! 〉
大人しく控えめな穂乃果らしい、ひまりにテンションを合わせた無難な返信に続き、さっぱりした性格の新奈が〈たぶん大丈夫だと思う〉と淡白に返した。
地元か、とため息をつく。どうせなら沖縄や、いっそのこと海外であれば遠慮なく断れたのに。
スケジュールを確認すると、皮肉にも空いていた。もう一度ため息をついた。
たとえ数年に一度でも顔を合わせている元同級生の結婚式を、嘘をついて欠席するほど薄情な人間ではない。招かれた結婚式への参列は大人としてのマナーだ。
心から祝福できるか、──したいと思えるかは、別として。
招待する側だって、もう参列者全員が心から祝福してくれるなどと信じるほど子供でもなければ、脳内お花畑でもないだろう。学生時代から定期的に付き合いがある“友人”を招くのもまた、大人としてのマナーだ。
〈まだはっきりとはわからないけど、調整するよ〉
式を楽しみにしていると思われるのも案外暇なのだと思われるのもなんとなく癪だったので、曖昧に返信した。すると秒で既読がつき、待ち侘びていたかのようにひまりから返信が来た。
〈やったー! よかったら、久しぶりに四人で集まらない? 年末だから忙しいかな? 〉
四人だけで集まるのはいつ以来だろうか。
履歴をスクロールして確認すると、生存確認程度に連絡を取ってはいるものの、実際に集まったのは約三年前だった。当時もまた高校時代の同級生の結婚式だ。確か式のあとに四人だけで飲み直し、それを最後に疎遠になっていた。
それはこのグループだけじゃなく、ここ数年、久しぶりに友人と集まる機会はほとんど結婚式になっている。まるで同窓会代わりみたいに。
無意識にワインを飲み進めていたらしく、ボトルが空になった。いつもならやめる頃合いだが、明日は休みだ。特に外出する予定もない。多少深酒しても問題ないだろう。
マヤに出席する旨と住所、そして最低限のお祝いの言葉を返信してから立ち上がり、冷蔵庫からチーズの盛り合わせと白ワインを取り出した。
適当にまとめていた髪をほどき、顔にかかった髪を手でかき上げると、顔が火照っていることに気づいた。酔い覚ましを兼ねて一旦夜風に当たろうとカーテンを開ける。窓の向こうにある小さな東京タワーは、ツリーカラーにライトアップされていた。
今日はクリスマスイブだ。
といっても、特別なことなど何もない。いつも通りに仕事を終え、ネトフリで映画を観ながら晩酌していただけ。アラサー女がクリスマスにぼっち晩酌なんて、傍から見ればさぞ哀れなことだろう。
昔はイベントをひとりで過ごすことに抵抗を感じていたが、いつの間にか慣れてしまった。親しい友人はほとんどが家庭を持っているため気軽に誘うことはできないし、会社の同僚を誘うほど寂しがりでもない。
恋人がいれば多少は違う心境でいられたのかもしれないが、振られてしまったものは仕方がない。別れるつもりの女とクリスマスを過ごしたくなどなかったのだろう。私だって同じだ。さっさと決断してくれて助かったと安堵さえした。
街が一番輝く時期に振られたというのに、悲しさなどなかった。
自分の好きなものだけに囲まれた部屋で、自分へのご褒美に思い切って購入したイタリア製のソファーに座り、間接照明だけをつけた落ち着く空間で好きなものを食べ、好きなだけ飲む。こういう過ごし方だって悪くない。
いや、タイミングや過ごし方どうこう以前の問題なのだろう。
恋人と別れたとき、いつも思う。
私は彼のことを本当に好きだったのだろうか、と。
自問するまでもなく、答えはわかっているのだけど。
恋人ができるたびに思う。
“彼を越えてくれますように”
恋人と別れるたびに思う。
“彼を越えてくれなかった”
そんなことばかり考えてしまう自分に、いい加減、嫌気が差す。
カーテンを閉めてソファーに戻り、気を取り直して映画の続きを再生する。
グラスにワインを注ぎ、一気に呷った。
ふわふわしてきた頭でインスタを開き、まるで自傷行為みたいにさっき見たばかりの投稿を表示した。
〈結婚しました! 今後ともよろしくお願いします! 〉
とんだクリスマスプレゼントだ。
人生で一番好きだった人の結婚報告、なんて。
*
誰にでも、忘れられない恋のひとつくらいあるのではないだろうか。
智樹との出会いは中二の春、同じクラスになったことがきっかけだった。といっても、その頃の私は智樹を毛嫌いしていたのだけど。
* * *
忘れられない恋の続きは、ぜひ本書で。
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本連載では、試し読みをお届けします。
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