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クロスロード凡説

2025.12.17 公開 ポスト

謝れない店辻皓平(ニッポンの社長)(お笑い芸人)

最近、通販で洋服を注文した。

 

 

ただ少しその経緯は特殊で、まず普段良く利用している難波のセレクトショップがある。そこの店員さん達は見た目こそ派手でワイルドだが、性格は凄く気さくで丁寧で、コーヒーを奢ってくれたり、店以外でもお茶したり飲みに行ったこともある。

 

 

これは僕としては珍しいことで、同業種か近い業種以外の人ではなかなか普段会おうとはならないのだが、この店の店員さん達は凄く尊敬も出来て話すのが楽しく興味がある。

 

 

いつものようにこの行きつけの難波の店で買ったのならそれで済んだのだが、今回は、この店の公式サイトの通販で買おうと思った服のサイズが売り切れていた。

 

 

どうしても欲しかったので、その服のブランドのサイトへ飛び直接購入することにした。今までもブランドの直販サイトから購入したことが何回かあったが、問題が起きたことは無かった。

 

 

 

 

2~3日後、商品が届いた。

 

 

開けると、
ん?何かおかしい。微妙に。色が少し違う。
そう、注文した商品の、違う色が届いたのだ。

 

 

僕はそのブランドを検索し、電話をかけた。
家からそこまで遠くなかったので、交換するのも容易いことは想像しやすかった。

 

『もしもし、2~3日前に通販で注文させていただきまして……』

『あ、はい。」

『先ほど届いたんですが、注文したのと色が違いまして……』

『あ、お調べしますので少々お待ちください。』

『はい。』

 

 

しばらくして、

 

 

 

 

『えー……っと、あ、元の色があるか在庫確認しますので折り返させていただいてもよろしいでしょうか? 電話番号お願いします。』

『はい。○○○○○○○○です。』

『ではお調べして折り返しますので、失礼します。』

『はい、お願いします。』

 

 

 

 

 

 

謝らないのだ。
いや、謝れないのかもしれない。

 

 

ワイルドな服を扱っているのも関係してるのかもしれない。普段から客にへこへこする接客ではないのだろう。ただ、こっちに落ち度は無いはずだが、電話を切った後にはなんだかこっちが無茶なお願いをしたかのような気持ちになってくる。

 

 

別に僕はそこに理解はあるので非難することは無い。間違った服を交換してくれれば態度なんて何も気にならない。ただ折り返しを待って、指示に従えば良い。

 

 

ただ、ここで問題が発生する。
一向に折り返しが来ない。

 

 

10分、20分かなと思いきや、30分、1時間、2時間経っても電話が鳴らない。僕は苛ついたりそわそわしたりすることも無かったが、その日は仕事が休みで時間があったので、もう電話を待たずして店まで間違いで届いた商品を届けに行こうと思い立った。

 

 

これを届けさえしておけば、後は正しい色の商品が届くか、返金されるかを待つだけである。

 

 

場所を詳しく調べると電車で行くには駅からは多少距離があったので、僕は自転車を走らせ、お店へと向かった。カゴの中では間違えられた服が入った紙袋が揺れていた。

 

 

15分ほどで到着し、僕は紙袋を片手にお店へと入った。50年代のロックンロールが流れる想像通りの良い雰囲気のお店だった。店員さんは3人いた。

 

 

こういうお店特有のことだが、いらっしゃいませは無い。会釈も無い。そうなのだ、こういうワイルドな我が道を行くお店は挨拶や接客などは無い場合があるのだ。

 

 

他にも老舗のレコード屋とかもたまにあるが、お客様=神様というより「私たちは対等ですよ」というスタンスのお店はある。

 

 

僕はこういうお店は嫌いではなく、店員さんに話しかけられ過ぎるよりは買い物はしやすい。

 

 

ただ、この日は状況が違う。僕のことを「間違った商品をわざわざ直接お店に届けに来た人」とは思っていないのだ。

 

 

普通の一人のお客さんに対して『いらっしゃいませ』が無いのと、この商品を届けに来た人に『いらっしゃいませ』が無いのとでは、まるで意味が違うのだ。

 

 

僕はこの後、謝られるのだろうか。

 

 

3人の店員さんがいたが、なんとなくさっき電話で話した人はこの人だろうなという雰囲気の人がいた。なんだろう。声の感じで顔が想像出来たのだろうか。

 

 

僕は迷わずにその人に
『さっき電話した者なんですが……』
と声をかけた。

 

 

すると
『あ、すみませんでした。』
とすぐに謝った。

 

謝るんかい。
電話じゃ謝らないのに直だと謝るんかい。

 

 

なんか悔しかった。
なんか見たくないとこを見てしまった気がした。
スタイルを貫いてほしかった。

 

 

 

 

例えるなら、
ローリング・ストーンズのキース・リチャーズがチェイサーを飲んでるところとか、
白鵬さんが牛丼屋で並だけ食って出ていくとことか、
織田裕二さんが会議室にいるところとか、
落合博満さんがバッティングセンターでキャッチングしてるとことか、
アンパンマンが自分の顔を自分で食うとことか、
チーズがいきなり喋るとことか、
桜木花道が流川にパスするとこ……。
いや、これは実際にあったが、すごく良かった。

 

 

 

 

ジャムおじさんが空飛ぶとことか、
バタコさんが実は犯罪者で身を隠す為にパン工場にいるとことか、
ベジータがカカロットではなく悟空と呼ぶとこ……。
いや、あれも良かった。

 

 

 

 

ばいきんまんが『はひふへ……ぐわぁ~!』と、「ほ」をド忘れしてしまうとことか、
ドラえもんがポケットをまさぐるフリしてチンチンのポジションを直してるとことか、
ウソップが強くなってるとこ……。いや、なるんよな、あれも良かった。

 

 

 

 

しょくぱんまんがドキンちゃんに彼氏いるか聞かれて、「あ……いない」とした心ある感じで嘘つくとことか、
キルアがメンヘラに……なるんよなちょっと。
あれも良いよな。

 

 

 

 

とにかく、アンパンマンみたいなことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※アンパンマンみたいなことになってません。

 

 

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クロスロード凡説

「ネタにはしてこなかった。でも、なぜか心に引っかかっていた。」
そんな出来事を、リアルとフィクションの間で、書き起こす。

始まりはリアル、着地はフィクションの新感覚エッセイ。
“日常のひっかかり”から、縦横無尽にフィクションがクロスしていく。

「コント」や「漫才」では収まらない深掘りと、妄想・言い訳・勝手な解釈が加わった「凡」説は、二転三転の末、伝説のストーリーへ……!?

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辻皓平(ニッポンの社長) お笑い芸人

1986年、京都府生まれ。

お笑いコンビ「ニッポンの社長」として、コントと漫才の“二刀流”で独自の笑いを追求。
漫才&コント二刀流No.1決定戦「ダブルインパクト」初代王者。
コント日本一を決める「キングオブコント」では、2020年から5年連続で決勝進出を果たす。

本コラムでは、日常の出来事に自由な解釈や言い訳、妄想を重ねながら、舞台とはまた違った角度で物語を綴る。
コントと漫才、どちらのネタも手がける著者が、言葉を操る“三刀流”として、文章の世界に挑む。

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