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1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話

2025.07.21 公開 ポスト

聖愛野球部の”室内練習場”は、手作りの「農業用ビニールハウス」。雪深い青森ゆえ!原田一範(弘前学院聖愛高等学校 野球部監督)

青森県の高校野球チームとして、青森山田や光星とともに「強豪校」に名を連ねるようになった聖愛の、知られざる物語。お金がなかった聖愛が、どうやって「室内練習場」を手に入れたか!?

1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話』より。

*   *   *

メロン農家の保護者の提案でビニールハウスを室内練習場に

屋外スポーツである野球には、雨天時の練習用に室内練習場が必要です。

聖愛には立派な体育館があります。それはバレーやバスケといった屋内競技スポーツの練習場でしたから、「雨が降ったから、今日は野球部も使わせてください」というわけにはいきません。小雨くらいならグラウンドでも練習できますが、本降りの雨となったらもう無理。校舎の渡り廊下の邪魔にならないところなどで、筋トレなどの基礎トレーニングを行う他ありませんでした。

さらに北国特有の問題もあります。

冬になると雪が降り積もり、グラウンドが使えなくなる期間が長いのです。青森のシンボルである岩木山(標高1625m)が初冠雪するのは例年10月下旬。弘前市内からは岩木山を間近に望めますから、岩木山が白くなると「あぁ、今年も冬が来たな」と覚悟します。

それから本格的に雪が降り続き、3月下旬までグラウンドには深い雪が残っています。

3月下旬まで、深い雪が残る。
(写真:原田監督提供)

雨天と降雪時の練習用として野球部専用の室内練習場が欲しいところですが、建設会社に頼んで本格的なものを作ると2億円くらいかかるでしょう。

半ば諦めていたところ、部員の保護者から「農業用ビニールハウスを室内練習場として使えませんか?」という提案を受けました。

その保護者の生業はメロン農家。青森県といえばりんごというイメージですよね。同時に弘前市の北側に広がる津軽平野は、メロンの一大産地としても広く知られています。そのメロン栽培に使うビニールハウスなら、安価に建てられるというのです。

その提案を受けて、またもや私と部員、保護者が一丸となり、骨組みを作り、ビニールを被せて位置を合わせながら器具でしっかり固定。ビニールハウスが完成しました。創部2年目の2002年です。

完成したビニールハウスは横幅5m、奥行き40mほどの広さがあります。投球練習なら32か所、ティーバッティングなら5か所ほど取れるスペースがあり、のちにウェイトトレーニング用の機器の寄贈も受けました。当然のように、冬場はビニールハウスでの練習が多くなります。

メロン農家さんの厚意で、横幅5m、奥行40mほどの、ビニールハウス練習場ができた。現在もこのビニールハウスは現役バリバリで使っている。(写真:原田監督提供)

2013年に甲子園に初出場した際、ビニールハウスは意外なところで役立ちました。

夏場の天気の良い日だと、ビニールハウス内の気温は50度を超えます。暑さ対策としてビニールハウスでの練習を重ねた結果、北国育ちの選手たちが、夏の甲子園の猛暑にも難なく対処できたのです。

2002年に建てられたビニールハウスは、現在は「小ハ(小さいビニールハウスの略)」と呼ばれています。なぜならその隣にもっと大きなビニールハウスが新たに建てられたからです。こちらは「大ハ(大きなビニールハウス)」です。

大ハ誕生のきっかけとなったのは、夏の甲子園の初出場。

地方から甲子園に出て戦うためには、選手たちの滞在費をはじめとして莫大な費用がかかります。

勝ち進むのは嬉しい反面、それだけ費用は嵩(かさ)みます。初出場で2回勝てたので、当初予定した予算をオーバーしそうになりましたが、勝ち進むと募金してくれる人も増えてきて、最終的には1億円近いお金が集まりました。

その寄付金で何が欲しいか学校側から聞かれました。

真っ先に思い浮かんだのが、今より大きいビニールハウス! 

立派な室内練習場はお金がかかりすぎますから、それで十分。私の頭の中では大きいビニールハウス一択でした。

大ハウスは、基礎を打たないビニールハウスとしては最大級の大きさ。横幅9 m、奥行き50mほどの広さがあります。小ハウスよりも大ハウスは天井も高いので、できる練習の幅が広がりました。

ビニールハウスは、外が氷点下でもお日様が見えていれば、すぐに20度くらいになります。暖房費0円です。

今でも「なぜあのとき、室内練習場ではなくビニールハウスを要望したんだ?」とよく聞かれますが、私にとってはビニールハウスがベストだし、ビニールハウスが好きだからです。

左が大ハ(大きいビニールハウス)。右が小ハ(小さいビニールハウス)
(写真:干田哲平)

(つづく)

関連書籍

原田一範『1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話』

「我武者羅」よりも、「1人1人が考える」チームへ――。学歴も人脈もナシ!「野球に力を入れるつもりなら、あなたのような無名な人を呼ばない」とまで言われた無名の監督が、「思考と言語化」で、ゼロから強いチームを作り上げた!その、思考と検証と挑戦の記録。

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1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話

校長からは「野球に力を入れるつもりなら、あなたのような無名な人を監督に呼ばない」と言われ、ようやく集めた部員からは、「キャッチボールも、生まれて初めてです」と言われた。
それが、このチームの始まりだ……。
1年の3分の1は雪に閉ざされるため、近所の農家の協力でグラウンドにビニールハウスを建て、冬はその中で練習。
それでも、気持ちは「絶対甲子園に行く!」

しかし、こんなチームでどうやって?

学歴も人脈もナシ! 無名の監督の、思考と検証と挑戦の記録!

弘前学院聖愛高等学校野球部は、優れたスポーツマンシップを発揮した個人・団体を表彰する「日本スポーツマンシップ大賞2025」の「ヤングジェネレーション賞」を受賞している。

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原田一範 弘前学院聖愛高等学校 野球部監督

1977年青森県北津軽郡生まれ。弘前工業高校野球部出身。介護専門学校卒業後、介護職に従事。96年に母校・弘前工のコーチに就任。20014月に、弘前学院聖愛高校野球部の創部と共に監督に就任し、現在まで25年間監督を務める。コーチ職、監督職の傍ら、日本大学通信教育部で学び、卒業。聖愛野球部は、これまで、夏に2度、甲子園に出場。常に革新的な取り組みを行い、各地の指導者から一目置かれる人物。

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