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「自分が嫌い」という病

2025.06.25 公開 ポスト

たとえ幼少期に十分愛されなくても、人は自分を愛することが出来る泉谷閑示(精神科医)

薬に頼らない独自の精神療法で、数多くのクライアントと対峙してきた精神科医の泉谷閑示氏。最新刊『「自分が嫌い」という病』は、昨今たくさんの人が悩んでいる「自分を好きになれない」「自分に自信が持てない」という問題に真正面から向き合った1冊です。親子関係のゆがみからロゴスなき人間の問題、愛と欲望の違いなどを紐解きながら、「自分を愛する」ことを取り戻す道筋を示しています。本書から抜粋してご紹介していきます。

*   *   *

「今の自分ではダメ」という囚われの原因

自己不信の状態からは、当然のことながら「自信が持てない」という悩みが生じてきます。

たとえ何かを頑張って人から認められることがあったとしても、この状態にある人は、それが決して自信につながったりはしません。本人の内部に揺るぎない自己不信があるので、「まだまだ、こんな程度で満足していてはいけない」と、自分に終わりなき努力を強いる頭の声に支配されているからです。それを見て周囲は、「謙虚さがあって素晴らしい」「あくなき向上心の持ち主だ」などと見当はずれの賞賛をしたりしますが、本人はただひたすら、走れば走るほど遠ざかってしまうゴールラインを追いかけているに過ぎないのです。

また、こんな自分では人に受け入れてもらえないのではないかと思って、なかなか人の輪に入っていきづらかったり、自分の感覚や意見にも自信が持てなかったり、自分がどう思われているかばかりが気になって、常に相手の顔色をうかがってしまったりします。

そして周りと自分を比べては、劣等感にさいなまれるのです。このように窮屈な状態では、なかなか自分の人生を生きている実感も得られにくく、その程度がさらに深刻だと、人や社会との接触自体を避けがちにもなってしまいます。

さて、そんな「自信がない」という方たちに「どうしたら自信が持てるようになると思いますか?」と問いかけてみますと、「何か勉強してスキルを身につけたら」「実績を残せたら」「きちんと自己コントロールができるようになったら」「痩せてキレイになったら」といった言い方で、ほとんどの場合、自分自身に求める何らかの条件が語られます。つまり、今の自分のままではダメで、相当立派な人間にでも変わらなければとても自信なんか持ちようがない、と考えてしまっているようなのです

このように、自分を愛するために何らかの条件を自分に課したとしても、それでは「愛する」に近づくことはできません。それは単に、自分に「欲望」を向けていることにしかならず、むしろ「愛する」とは逆方向になってしまっているのです。

ここで、「愛」と「欲望」の違いをきちんと理解しておきましょう。

愛とは、相手(対象)が相手らしく幸せになることを喜ぶ気持ちである。

欲望とは、相手(対象)がこちらの思い通りになることを強要する気持ちである。

拙著『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)より

ですから、自分を思い通りにしようと考えている限りは、およそ「自分を愛する」にたどり着けはしません。つまり、無条件でなければ、それは愛ではなく欲望なのです。

幼少期に愛されなければ人は愛を持てないのか

よく「親から十分に愛されたことがないので、自分は愛というものが分からない」という話を聞くことがあります。確かに、巷では「人は愛されることによって愛を知り、自身も愛する能力が持てる」と考えている方が多いかもしれません。

これは多分、「親から十分に愛されなかった子どもは、愛する能力を持てないことが多い」という発達心理学的な知見から派生した考え方だろうと思われます。しかし、この考え方を採用してしまうと、「自分を愛せない状態の人は、親もしくは誰かによって、理想的な親のごとく愛してもらえなければ、愛を持てない」ということになってしまいます。しかし、実際にそんなことが起こるのは稀でしょうし、たとえそういう幸運に恵まれたとしても、それが「自分を愛する」ことに直結はしません。むしろ、そんな相手への強烈な依存が形成されてしまうという歪いびつな形に陥ってしまいかねません。

ここでもう一度、太陽が遮られることなく大地を照らしている構図を思い出してください。人は「自分を愛している」状態で生まれてきています。ですから原理的には、誰かに愛してもらって初めて愛を知るわけではないのです。ではなぜ、「親から十分に愛されなかった子どもは、愛する能力を持てないことが多い」のか。それは、これまで述べてきたように、「親から十分に愛されなかった」ということが、雲を生み出す原因になるからなのです。

しかし、この雲の上には、それでも「自分を愛する」太陽が、当初と変わらずに存在しています。ですからここで、先ほどの誤った認識を次のように書き換えておかなければなりません。「自分を愛せなくなっている人も、自分を愛する働きや愛そのものを持っていないわけではない」と。

関連書籍

泉谷閑示『「自分が嫌い」という病』

「自分を好きになれない」と悩む人は多い。こうした自己否定の感情は、なぜ生まれてしまうのか。 その原因は幼少期の育ち方にあると精神科医である著者は指摘する。 親から気まぐれに叱られたり、理不尽にキレられたりすると、子どもは「自分は尊重され るに値しない」と思い込むようになる。その結果、自信を持てず、人間関係にも苦しみやすい。 では、この悪循環から抜け出すにはどうすればよいのか。 本書では、自分を傷つけた親への怒りを認め、心のもやもやを解消するための具体的な方法を解説。自信を持って生きられるヒントが詰まった一冊。

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うつは今や「誰でもなりうる病気」だ。しかし、治療は未だ投薬などの対症療法が中心で、休職や休学を繰り返すケースも多い。本書は、自分を再発の恐れのない治癒に導くには、「頭(理性)」よりも「心と身体」のシグナルを尊重することが大切と説く。つまり、「すべき」ではなく「したい」を優先するということだ。それによって、その人本来の姿を取り戻せるのだという。うつとは闘う相手ではなく、覚醒の契機にする友なのだ。生きづらさを感じるすべての人へ贈る、自分らしく生き直すための教科書。

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「自分が嫌い」という病

「自分嫌い」こそ不幸の最大の原因。「自分を好きになれない」と悩むすべての人に贈る、自身を持って生きられるヒントが詰まった1冊。

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泉谷閑示 精神科医

1962年秋田県生まれ。精神科医、作曲家。東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院、(財)神経研究所附属晴和病院等に勤務したのち渡仏、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。帰国後、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法専門の泉谷クリニック(東京・広尾)院長。著書に『「普通がいい」という病』『反教育論』『仕事なんか生きがいにするな』『あなたの人生が変わる対話術』『本物の思考力を磨くための音楽学』などがある。

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