
人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。
日本における認知療法の第一人者・大野裕医師が、社会不安障害を中心に、不安に苦しむすべての人へ具体的な対処法をやさしく解説する幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』。本書より一部を抜粋してお届けします。
ストレスが多い人は風邪をひきやすい
社会不安障害に悩む人は、人前に出たり、人前で何かをしたりするときに、強い不安や恐怖、緊張などを感じます。合わせて、動悸、息苦しい、汗をかく、手足のふるえ、などといった身体上の変化が生じます。このように、心身両面に症状が出てきます。
心と体といっても、もともと同じ一人の人間に起きていることですから、つながりあっている一連の現象と考えたほうが、いろいろとわかることがあります。実際、精神面の状態と身体的な変化の間には、密接な関連があることが、さまざまな研究から明らかになっています。
1991年のことですが、「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」という、世界的に権威のある医学雑誌に、一人で寂しげにベンチに座る老人の大きな写真が載ったことがあります。その本文には、孤独な生活で強いストレスを感じている老人は風邪をひきやすいという、アメリカのカーネギー・メロン大学の心理学者コーエンのグループによる研究結果が紹介されていました。
約400人の健康な成人を集め、身体的な診察を行い、ストレス度を調べる質問紙に答えてもらいます。その後、風邪のウイルスを一定の濃度で含む点鼻薬を投与し、1週間ほど毎日、鼻水や喉の痛みなど風邪の症状を医師がチェックしました。その結果、ストレス指標の得点が高い人ほど、風邪にかかった人が多いことがわかりました。
この研究は、ストレスと身体的な健康状態の関連を実証的に示したものとして注目を集め、その後、精神機能と免疫機能の関係についての研究がめざましく発展しました。こうした研究から現在では、うつ病にかかると免疫機能が低下するということも明らかになっています。うつ病になると、気分の落ちこみや意欲の低下といった精神症状だけでなく、風邪など体の病気にもかかりやすくなるというのです。
心筋梗塞、糖尿病、がんなど、体の病気にかかった人には、うつや不安などの精神症状がより多く見られるということもわかってきました。
配偶者を亡くした人の死亡率は10倍
また、こういった心と体の相互的な関連に加えて、人と人のつながり、社会的な人間関係の状況も、私たちの心身の健康に深く関与しています。
1960年代、イギリスのリースとラトキンスは、夫や妻、親、子ども、きょうだいなど近親者を亡くした約900人と、同じ地域に住み、年齢や性別、家族構成などが同じ条件のやはり約900人について、比較調査を行いました。その結果、近親者を亡くした人自身が1年以内に死亡した率は4.8%で、そうではない人の0.7%と比べて約7倍という高い割合でした。
とくに、夫や妻を亡くした人の1年以内の死亡率は、近親者を亡くしていない人の10倍という高さでした。小説や流行歌の歌詞などで、愛する人との別離をブロークン・ハート(Broken Heart、直訳すると、破裂した心臓)などということがありますが、そういった表現が大げさではないことがわかります。
最近では、精神神経免疫学という研究分野の発達によって、人間の感情などの動きと、自律神経系や免疫機能の働きは、相互に深くかかわり合っていることが、明らかになりつつあります。
体の不調が続くのに、とくにこれといった病気は思い当たらないというときには、何か精神的に負担になっているようなことはないだろうかと考えてみる。気持ちが弱ったり疲れたりしていることに気づいたときには、体の健康状態にも目を向けてみる。
どちらの場合にも、仕事や暮らし、人間関係などでストレスになっていることがあるのかもしれないと、ちょっと立ち止まるような気持ちで振り返ってみる。
そうしたことから、自分でこれまで気づかなかった大事なものが、見えてくることがあります。
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不安症を治す

人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。
日本における認知療法の第一人者・大野裕医師が、社会不安障害を中心に、不安に苦しむすべての人へ具体的な対処法をやさしく解説する幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』。本書より一部を抜粋してお届けします。