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不安症を治す

2025.06.18 公開 ポスト

「社会不安障害」はうつ、アルコール依存症に次いで多いのに「無視されてきた」精神疾患大野裕

人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。

日本における認知療法の第一人者・大野裕医師が、社会不安障害を中心に、不安に苦しむすべての人へ具体的な対処法をやさしく解説する幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』。本書より一部を抜粋してお届けします。

「無視されてきた」精神疾患

アメリカ精神医学会が作成し発表している、『DSM 精神疾患の診断・統計マニュアル』という精神疾患の診断分類があります。現在では、日本を含む世界各国で使用されるようになっているものですが、このDSMに「社会恐怖(現在の「社会不安障害」)」という疾患名がとり入れられたのは比較的最近のことで、1980年に発表された第3版『DSM - III』においてでした。

DSM-5-TR 日本語版表紙

それまで欧米の公的な診断分類では、「人前に出るのが不安」ということについて、独立した精神疾患という見方はされていませんでした。日本の医療機関でもよく使われる「社会不安評価尺度」を作成したアメリカの精神科医リーボビッツは、社会不安障害のことを「無視されてきた不安障害」であるといっています。

 

社会不安障害があまり注目されなかったことには、いくつかの理由が考えられます。まず、広場恐怖(人が大勢いるところに出ていく恐怖)や、高所恐怖、動物恐怖など、特定の恐怖症の一つと見られがちだったということが挙げられます。また、極端な恥ずかしがり屋とか、内気などといった性格の問題、あるいはパーソナリティの障害などと考えられる傾向もありました。

いずれにせよ、そういった悩みを持っている人は、人数としてそれほど多くはないだろうし、あったとしても、その障害の程度も、そんなに深刻な問題ではないだろうと思われていたのです。

※画像はイメージです

しかしその後、1990年代にアメリカで実施されたECA、NCSなどという大規模な地域疫学調査の結果、社会不安障害は、うつ病、アルコール依存症に次いで多く見られる精神疾患だということがわかりました。しかも、そのように診断された人たちのなかで、医療機関を受診している人はごくわずかだったのです。

各種の不安障害のなかでは、社会不安障害が最も多く、そういった悩みを持つ人たちは、うまく学校に適応できない、結婚できない、結婚しても離婚する割合が高い、就職が難しい、自傷・自殺率が高いなど、非常に深刻な問題を抱えていることもわかってきました。

治療が必要な人の3分の2が病院に行っていない

日本における数字も、ちょっと見ておきましょう。これまでわが国では、欧米におけるような大規模な地域疫学調査はあまり進んでいませんでしたが、現在、WHO(世界保健機関)を中心に「ワールドメンタルヘルス」というプロジェクトが進行中で、これが日本でも実施され、私も研究者の一人として参加しています。

各地域で選挙人名簿からランダムに選んだ住民に対して、通常は1時間程度、長い人で3~4時間の面接を行います。最終的には全国5000人に協力してもらってデータを集めることを目標として進められている大規模な調査です。

※画像はイメージです

まだ途中段階の数字ですが、この調査によれば、日本人における社会不安障害の生涯有病率(一生のうち1回その病気のために治療が必要になる率)は2%強で、男性のほうが女性より若干高い数字になっています。社会不安障害だけではなく、不安障害全般についてですが、治療が必要になった人のなかで医療機関を受診している人の割合は約3分の1精神科への受診はそのうちの半分程度となっています。

こうしたことから、精神科医だけでなく、医療者全般や、地域の一般の人たちにも、社会不安障害という病気とその治療法について広く知ってもらうのが大切だということがわかります。

*   *   *

この続きは幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』でお楽しみください。

関連書籍

大野裕『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』

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岡田尊司『社交不安障害 理解と改善のためのプログラム』

人前で話すのが苦手、緊張して上がってしまう、自然に人付き合いができず、社交をつい避けてしまうという状態は「社交不安障害」と呼ばれる。もっとも頻度の高い精神的な困りごとの一つで、有病率は一割を超える。やっかいなのは、社交不安障害にともなう自信低下を生まれつきの性格だと思い込み、諦めてしまうこと。しかし、自分を縛る不安の正体を知って、有効なトレーニングを積めば、改善は十分可能だ。実際にカウンセリングセンターで使われるプログラムを紹介しながら、克服の方法を実践解説。考え方一つで、人生は大きく変わる!

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不安症を治す

人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。

日本における認知療法の第一人者・大野裕医師が、社会不安障害を中心に、不安に苦しむすべての人へ具体的な対処法をやさしく解説する幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』。本書より一部を抜粋してお届けします。

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大野裕

1950年、愛媛県生まれ。精神科医。医学博士。慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学教授(保健管理センター)等を経て、2011年6月、独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター センター長に就任。現在は顧問。一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長、ストレスマネジメントネットワーク(株)代表も務める。日本における認知療法の第一人者。国際的な学術団体Academy of Cognitive Therapyの設立フェローで公認スーパーバイザーであり、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。日本ストレス学会理事長、日本ポジティブサイコロジー医学会理事長など、諸学会の要職を務める。 2001年からは、日本経済新聞にてコラム「こころの健康学」を連載中。

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