
「センスのいい人」=「気づきが多い人」。
教育やコミュニケーションを研究し『全力!脱力タイムズ』の解説員としてもおなじみの齋藤孝さんが、人生と仕事を劇的に変える「気づき」のメカニズムと習慣のコツを解説する幻冬舎新書『「気づき」の快感』より、一部を抜粋してお届けします。
聴き流していた音楽が“自分ごと”になった日
テレビで音楽番組を見ているとき、多くの人は「ふーん、素敵な曲だな」「テンポがよくてテンションが上がるな」などと、流れてくる音楽をぼんやり聴いています。全部聴き終わったあとで、「じゃあ、今聴いた歌を歌ってみてください」といわれたら、困ってしまうはずです。
一方、あらかじめ「今からある曲が流れるので、それを聴いて再現してください」という指示を受けていれば、歌うことを想定して真剣に聴き取ろうとするはずです。
私は『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)というバラエティ番組に、「全力解説員」という役割で出演しています。あるとき、同番組のディレクターから「DISH//の『猫』という曲を歌ってください」との依頼を受けました。
『猫』は当時流行っていた曲であり、すでに何度も聴いていました。自分の中ではすっかりなじみ深い曲だったので、「まあ歌えるかな」と思いました。
ところが、自宅で試してみたところ、歌えたのはサビの部分だけ。何度も聴いていたはずの前半のパートをまったく歌えないことが判明したのです。
私は特別歌がうまいわけでも、プロレベルの音感の持ち主でもありません。ただ、全国放送の番組で、「歌えませんでした」では済まされません。そこから何度も曲を聴き直し、必死で覚えて本番に臨みました。
そのとき「『猫』というのはこういう歌だったんだな」と、初めて知ったような感覚がありました。今まで何度も聴いていたのに、私は『猫』という歌をほとんど知りませんでした。テレビで歌う必要に迫られたとたんに、歌の細部の工夫に気づき、本当の意味で、その歌を知ることになりました。人前で歌うかどうかで、歌の理解度には天と地ほどの差が生じるのです。
「自分がやるならどうするか?」で世界が変わる
気づきを得られるかどうかは、能力の問題というより、スイッチを入れているかどうかで決まります。常にスイッチを入れている人は、どんな漫画を読んでもテレビドラマを見ても、何かに気づくことができるのです。
私が教鞭を執る明治大学の近くには、いつも行列ができているうどん屋さんがあります。教え子の多くも、そのうどん屋さんに通い詰めています。
漠然とうどんを食べている学生にとっては「いつも混んでいるな」という感覚でしょうが、その学生がうどん屋さんを経営することになれば、とたんにスイッチが入り、行列の理由を知ろうとする意識が芽生えるはずです。
私が学生の一人に「どうして、あのうどん屋さんは人気なの?」と聞くと、次のような答えが返ってきました。
「周りのお店と比べて値段設定も手ごろですし、トッピングが自由に選べるのも人気の理由だと思います。確かに行列はできていますが、回転が早いので、実際には待ち時間が少ないというのも支持されているポイントだと思います」
いい気づきのアンテナが立っているなと感心しました。
何ごとも、傍観者から当事者へと意識をずらせば、気づきが起きやすくなります。
「自分がこれをやるとしたら、何をどう改善するか」など、常に自分ごととして考えることが重要なのです。
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この続きは幻冬舎新書『「気づき」の快感』でお楽しみください。