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彼方からの手紙

2025.05.28 公開 ポスト

清水ミチコ×光浦靖子リレーエッセイ

清水さんはスルーされるけど、私は見つかるんです光浦靖子

先月からスタートした、清水ミチコさんと光浦靖子さんのリレーエッセイ。カナダでも“スルーされない”光浦さんから“スルーされる”清水さんへ。

*   *   *

 こちらは雨の長い冬がやっと終わり、春が来ました。青空が一面に広がり、街は花で溢れ、人々は陽の光を全身で貪るように表に出ます。陽の光は強くても、気温はまだまだ低いです。私には未だダウンジャケットが必要だというのに、カナダ人はもう半袖短パンです。気温で服装を決めるのではないのです。日光の量で決めるのです。(現在5月初め)。
 
カナダにいますが、業界のことはざっくりは知っています。白スポと黒スポを定期購読していますから。最近は号外が多かったですね。あ、わからない人のために説明しますと、白スポとは、たんぽぽの白鳥久美子さんが独自のルートで集めてくる芸能ゴシップで、黒スポとは、森三中黒沢が独自のルートで集めてくる芸能ゴシップです。どっちも、なんでそんなことまで知っているんだ?と、逆に疑わしい情報にも溢れています。虚実ないまぜ。虚の森から実を摘み取るのです。

 

 
最近はちょっとした発言、それは失言に入るのだろうか? に対しても謝罪しなきゃいけない空気ありますでしょう? 大変ですね。「誰も不快にならない」と「面白い」の両立って難しいですよ。相当高いお笑いスキルを要求されます。なので私はテレビに出なくなってちょうど良かったです。私には難しすぎます。今後、テレビに出る時は「不快にならない」を選択し、「面白い」を捨てようと思います。
 
清水さんは謝罪からとても遠い人だと思います。私は知ってます。ラジオで結構きついことを言ってるのに清水さんはスルーされてるって。なんでしょうね。あのスルーされる人とスルーされない人の違い。私はスルーされないと思います。わかるでしょう? なんか見つかるんですよ。
カナダでもありました。
 
私は公立のカレッジで料理を2年学びました。カレッジにはカフェテリア、レストラン(昼)(夜)があり、そこの料理を作り、サーブするというのも授業の一環になります。卒業したら即戦力、将来の一流シェフ育てる、をモットーに軍隊のように叩き上げるので、それはそれは大変です。学生の作る料理だろ、と侮ってはいけません。ランチだってアパタイザーにメイン、そしてデザートの3コースになっています。基本フレンチです。メインの横に添えられている野菜だって一つ一つ調理法が違い、しかも何種類もあります。見た目も美しく量も多いです。日本人女性だと大抵の人が腹がはち切れそうになります。私が学生だった頃はそれが35カナダドル(日本円で3600円から4000円ぐらいかな?)でした。インフレで食材の値段なんてぐんぐん上がっていましたから、正直、材料費も賄えたかどうか、てところです。ラムが一番高く、肉一切れ14ドルすると噂に聞いたことがあります。ラムは出せば出しただけ赤になるとシェフが嘆いてました。

朝の7時からゴリゴリに働き、料理の下準備をし、オープン前の30分休憩(取れればね)にトイレ、昼食(おにぎり1個を口に詰め込む)を済まし、またゴリゴリゴリに料理をし、片付けて、すぐに下校の2時です。常にへとへとの腹ペコです。でもどれだけ腹が減ろうが、材料費が高いので、我々は料理を作っても食べることはできないのです。

特に肉、魚は味見もできません。味見したら形が変わるでしょう? できるのはソースの味見だけです。頭で想像するしかないのです。初日の授業でたった一度だけ味見した、1人前を12人で分けた肉のかけらの記憶を辿るしかないのです。肉にこのソースが絡んだら……も少し塩を足すかな……つーか、それができたらもうシェフでしょうよ。黒ヤスコが私を乗っ取ろうとします。我々の学費で材料を買い、我々がトイレも行けないようなスケジュールでタダ働きし、それで35ドルという破格の値段を弾き出しているのに、たった35ドルを払っただけで客ヅラしやがって、、、空腹は人を卑しくさせます。

しかし、ちゃっかりしてる生徒はちゃっかりしてるというか……。シェフも「材料は無駄にするな!」と厳しく目を光らせている中、それはお国柄というんでしょうか、全く悪びれる様子もなく、平気で注文よりも多く作り、自分らで食べてたりするんです。余った材料は翌日のために保管しなければいけないのに、平気で自分のバッグに忍ばせたり。タッパーを持参してる人すらいました。それを見ていた私に「これくらい大丈夫だよ。高い学費払ってるんだから。ヤスコも持って帰りなよ」と言いました。

この料理はどんな味がするんだろう。完食した時にこの塩加減はちょうど良かったのかなぁ。食べたい。食べてみたい。

ある日、バカのふりして一人前多く肉を焼きました。すぐにシェフに見つかりました。怒られました。そして「こいつ、自分で食べようとしたな」と見透かされました。52歳。肉の前で頭を項垂れて立つ。なんとみっともない。あたしね、昔、テレビに出てたんだよ。ライトが眩しかったなぁ。楽屋には余るほどのお弁当が置いてあってね……。

ね、私はスルーされないんですよ。絶対に見つかるんですよ。何が違うんですかね。
 

【靖子の近況】

YouTubeをこの3人で作り出したのですが、ちっともviews数が伸びず、覆面会議ばかりしています。

 

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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