『日本の10大新宗教』につづく人気シリーズ第2弾『日本の10大カルト』を上梓した、宗教学者の島田裕巳さん。現在、取り組んでいるのは、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本政府に対して発した「神道指令」についての本だそう。神道指令が日本、そして日本人に与えた影響とは……? 気になる中身を、少しだけ教えていただきました。
* * *
「神道指令」が日本に与えた影響とは?
──島田さんがこれから取り組んでみたいテーマはありますか?
今、進めているのは、戦後の「神道指令」に関する本です。神道指令はGHQが1945年12月15日に発したもので、政治と宗教の分離などを命じています。この神道指令が日本にどんな影響を与えたのかをテーマに執筆しています。
以前、幻冬舎新書から出した、『靖国神社』を執筆したときに勉強したことが役に立っていますね。なぜ靖国神社に日本の首相が参拝できないのかとか、政教分離はここまで厳格にやらなくてはいけないのかとか、こうした問題を神道指令を軸にして考えています。
──でも、政教分離って日本では有名無実化していますよね。
そうですね。でも、政教分離というのは普遍的なものではありません。世界のあらゆる国が政教分離しているわけではないんです。イスラム教を国教としている国はたくさんあるし、国教会がある国もたくさんあります。政治と宗教は分けるべきだという思い込みが、日本人は強いと思います。
──本当に政教分離するなら、公明党も幸福実現党もつくってはいけないはずです。それらは許されているのに、神道ばかり弾圧されるのは、やはりアメリカが怖がっているということでしょうか。
というより、誤解したんですよ。国家神道イコール神社神道だって。神社に対する信仰と軍国主義は、本来関係ないにもかかわらずです。アメリカでは牧師が教会で熱烈に説教したりしますから、神社でも同じようなことが行なわれていると考えたのではないでしょうか。
──アメリカはいつも誤解して戦争しているようなイメージがあります。
まさにイラク戦争などはそうですよね。大量破壊兵器が存在すると誤解して、戦争を始めてしまった。
──わざと誤解しているのか、そこはよくわかりませんが。
アメリカには歴史的な伝統がないので、宗教や思想に対するとらえ方が甘いのではないでしょうか。神道指令の場合も、日本に長く滞在していたD・C・ホルトムという研究者の見解をそのまま取り入れているんです。
その見解というのが非常に偏狭で、問題だらけなんですよ。アメリカ人には、十分な知識がないまま動いてしまう傾向があるように思います。
教育にも問題があるのかもしれません。アメリカの大学は、人文系に関して言うとかなり浅いんです。一流大学のゼミでも、「リーダー」という抜粋を読むことしかしない。
──原典講読とかやらないんですか?
絶対やらないですね。今で言う「ファスト教養」のようなものが大学教育の根幹にあるので、いろんな面で理解が浅いのだと思います。
次はこんな「10大◯◯」を書きたい
──他にはどんなテーマをお考えですか?
『日本の10大新宗教』『日本の10大カルト』に続く「10大シリーズ」に、もう少し取り組んでみたいと思っています。いくつかあるのですが、たとえば『日本の10大神社』。神社の本は読者からの需要もありそうですし、面白いかなと。
──日本にはたくさんの神社がありますから、選ぶのが大変そうですね。
たしかに数は多いです。でも、古代からずっと続いていて、かつ重要度が高いところは、それほど多くはありません。伊勢神宮は絶対に入るとして、他には八幡神を祀っている大分県の宇佐神宮とか、長野県の諏訪大社もいいなとか、いろいろと考えています。
その他には、『日本の10大秘仏』というテーマも考えています。
──「秘仏」ってどういうものですか?
非公開とされていて、ふだんは見ることのできない仏像のことです。たまに「御開帳」があって一般公開されるのですが、長いものでは7年に1度、中には21年に1度という仏像もあります。
高野山のふもとに慈尊院というお寺があるのですが、そこには21年に1度しか見ることのできない秘仏があるんですよ。数年前、御開帳になったので見に行ったのですが、金網越しでよく見えませんでした(笑)。これほどがっかりした体験はなかったですね。
「絶対秘仏」というものもあります。誰も見ることのできない秘仏のことで、たとえば、浅草寺のご本尊である聖観世音菩薩は絶対秘仏とされています。長野県の善光寺のご本尊も、絶対秘仏とされていますね。
中には、国宝に指定されている絶対秘仏もあります。京都・東寺の御影堂にある不動明王像は、国宝に指定されているにもかかわらず誰も見ることができません。
──最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
『日本の10大カルト』は、書くのが非常に難しい本でした。「こいつらは悪い奴らだ」という書き方ではなく、客観的に書く必要があるからです。そのためには、内情を正しく知る必要があります。
そこで私は、これまで築いてきた関係を活かして宗教施設を訪問したり、メンバーの人たちに話を聞いたりしてきました。こうした蓄積をベースにして、ようやくこの本は完成しました。ぜひそのあたりも考慮して、読んでいただきたいなと思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】島田裕巳と語る「『日本10大カルト』から学ぶ客観的な宗教の見方」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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