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『だからこそ、自分にフェアでなければならない。 プロ登山家・竹内洋岳のルール』刊行記念対談

2014.09.16 公開 ツイート

後編

プロ登山家ならば死を見せてもいいと思っている。 小林紀晴/竹内洋岳

登山がスポーツになれば文化になり、受け継がれる

竹内さんは、登山も観客に見てもらえるスポーツになってほしいと話す。

小林 竹内さんとしては、登山がスポーツであればいいと。

竹内 私たちが先輩から受け継いできた登山が、誰かが受け継げるようにしておかないといけない。じゃあ受け継ぐものは一体何かというと、それは文化。受け継がれるから文化になる。そうするためには登山をスポーツにするのがいちばんだと思います。登山をスポーツにするためには、他のスポーツと同じように、プロがいること、ルールや審判があること、観客がいるということ、この3つを作り上げる必要があります。とりあえずプロがいるということが必要なので、私がプロ登山家と名乗る。登山にはルールと審判がないということは、自分でルールを決めて審判をすればいいので、私の場合は、あらかじめ14座を登りきってみせるという宣言をすることがルールになります。自分が審判で、死なないで登って下りてくるというのが自分へのジャッジになる。そして通信技術を駆使することで、衛星回線を使って出来るだけリアルタイムに登山の様子を観客に見てもらう。ダウラギリではGPSを使ってリアルタイムで自分の居場所をインターネット上の地図上に見せていきました。GPSで私の居場所が地図上に表示されることは、頂上に近づいていくのをリアルに見てもらうのと同時に、途中で動かなくなるという可能性もある。私は死んでしまうのを見られていいと思うんです。登山では、確かに死ぬこともあるのですから、隠すものではない気がします。必ずしも登って下りる勝ち試合を見てもらうだけではなくて、負け試合も見られても構わない。それゆえに見てくれていた人たちが観客になっていく。スポーツは間違いなくアマチュアが発展させていきます。プロの選手がいればいるほどアマチュアが存在できる。プロやアマチュア、趣味、レジャー、全部があってスポーツになっていくと思います。

小林 登山は勝ち負けや、他者との競争がないスポーツですね。

竹内 スポーツでは勝つ人がいると必ず負ける人がいますが、登山の場合は自分だけが勝つか負けるかです。他のスポーツと登山が少し違うのは、山の場合、登頂すると後からくる人に「早く来いよ」と言ってあげたくなるし、自分が下りれば、他の人も早く無事に下りて来てほしいと思うところ。もうひとつ、登山には観客がいないというのが、ほかのスポーツと違います。このあいだのサッカーワールドカップの試合を見ていて思ったのですが、超一流の選手たちがしのぎを削っているのを、明らかにサッカーをやっていないだろう観客やテレビ観戦の人たちが、「へたくそ」とか「何やってるんだ」とか好き勝手に言いますよね。登山もそうなって欲しいです。登山をしない人も登山を見て、「そうじゃないんだよな」「もっと速く行って帰って来られるんじゃないの」「竹内にしてはいまいちだな」というようなのが出てくれば、もっと健全になるし、本来、そういう風に見ればおもしろいと思うんです。

小林 確かに面白いですね。

竹内 いい勝ち方だったとか、勝ったのにつまらない試合だったと言われるように、勝ち負け以外に観客がそれをどう見るかというのはスポーツとしての楽しみ方だし、そうやってスポーツは成熟していくと思うんです。みんなが山登りをする必要はなくて、プロの山登りを見て、いい山登りだなとかいまいちだなとか言われるようになったときに、登山がスポーツとして次に受け継がれていく文化になれると思うんです。

 

関連書籍

小林紀晴『だからこそ、自分にフェアでなければならない。 プロ登山家・竹内洋岳のルール』

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小林紀晴 写真家

1968年長野県生まれ。写真家、作家。1995年「ASIAN JAPANESE」でデビュー。97年「DAYS ASIA」で日本写真協会新人賞、2013年写真展「遠くから来た舟」で第22回林忠彦賞を受賞。著書に『ASIA ROAD』『写真学生』『メモワール 写真家・古屋誠一との二〇年』など。

竹内洋岳 プロ登山家

1971年東京都生まれ。プロ登山家。立正大学客員教授。㈱ICI石井スポーツ所属。高校、大学で山岳部に所属。95年にマカルー登山隊に参加し、8000m峰初登頂。2012年14座目のダウラギリに登頂し、日本人初、世界で29人目の8000m峰14座完全登頂を果たす。

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